後列考察会・前編


「『グリーンプル』…あーあ、特危なんて出てこなけりゃ、ラクショーの部類なんだけどなー」


 首を回しながら女が言った。今はグリーンプルをミセシめるため、全員で移動している最中である。さっきの男が分かりやすいよう蛍光緑ジャンパーを着て先導し、続くように列を成して歩いている。女は その列の後ろから二番目にいた


「バカヤロウ、向こうだって決死の覚悟で来るんだ。何が起こるか分かったもんじゃねぇぞ」


 最後尾のダムボールが拳を『パン!』 突ッ叩いて言った。


 『ミセシメ』には宣告の義務があり、大体一週間くらい前には襲われる側にも情報が行く。つまり準備期間一週の内に『ゴエイ』を頼んだり戦闘要員をかき集めたりなど、予告だけでてんやわんやの大騒ぎだ。もちろんその間に、急いで死への身支度すませる奴も多い。


「しかも今回に至っては特危を4人もレンタルしてやがる。奴さん相当に負けたくねんじゃねぇか」

「確かに…こっちも気合入ってますけど、グリーンプルの方もかなりですよね」


 後ろ三番目のカンバラが、腕組みしながら言った。腕が細すぎて腕組みさえ隙間が空いている。


「何か理由とかあるんでしょうか」

「んん、もしかすると今回の案件。思ってるより根が深いのやもしれん」


 後ろ四番目のイナギタナカが大きく頷いた。


「…オッサンよ。アンタみたいなマジメタイプは、もっと前の方にいるべきじゃねぇのか?」

「まじめたいぷ とは!心外な。これでも仲間内では意外に陽気とも言われるんぞ」


 「意外に」が付く時点で、仲間からもマジメと思われていること請け合いなのだが。イナギタナカは仕切り直すように咳をし、口を真一文字に伸ばした。


「そも、まだ特危者を生け捕りにしたい理由が掴めん」


 これに関しては他の三人も同意見だった。特にカンバラは歩きながらも考えていたらしく、首を鉄骨曲げるように「う~ん」捻った。


「これは可能性の話になるんですが」

「ほぉ! 聞かしてみろよ」


 女に促され、カンバラはいくつかの説を上げた。


一つ目は、特危者の中にイングリッシュにとって重要人物がいる可能性。


 生け捕りという条件から逆算して考えれば、特危者そのものに人間的価値があるのかもしれない。しかし、よくある相手への人質として使うパターンにしても 借り物の特危者をさらう意味は薄い。

 となればもう一つよくあるパターンの、引き出したい情報があるとか 実は特危者の中にイングリッシュ役員の親族がいますとか、何かそっち系の可能性がある。


「おぉ!流っ石だな。こいつぁ十分にあり得るハナシ」

「いや、無い」


 キッパリと、イナギタナカが毅然として言い放った。

「あん?何でだよ」 眉をひそめるダムボール。女は顔を後ろに向けると、ダムボールに見えるように指先でグルっと自分の首をなぞった。 ニヤけ面で。


「チッ…はいはい首輪ね」

「そうです。アレがある以上は情報を引き出すなんて悠長なことしてられない。まして親族なんて…一緒に首輪で爆死しようってんならいいですけど」

「だったら生け捕りなんかさせずに、自分から出向いて死ねってんだ」


 女の言葉にイナギタナカは何か言いたげな顔を浮かべたが、すぐに首を振るって顔を戻した。


二つ目に、グリーンプルを弱体化させるため。


 特危者そのものに意味は無くて、レンタルされた人を生け捕ることに意味があるなら? 要するに他人が借りたビデオを盗み取るような感じ。延滞料を払うのは借りた人だし、その人は借りたものを返せない人だと信頼もガタ落ちする。


「へぇ、そうやって汚名を着せるワケかい。だったら首輪で爆ぜられようがカンケェねぇな」

「ハッ! 無い無い」


 さっきのニヤケ面を倍返しするように、ダムボールが白い歯が見えるほど片頬吊り上げて笑った。一品小鉢を付け足すように「話聞いてなかったのか?」とまで言う。


「いくら汚名を着せようが、そのグリーンプルは俺達が潰すんだぞ? 跡形も無くな」


 イナギタナカは頷く。


「それに、その目的なら特危者は普通に死なせばいい。わざわざ一度生け捕りにする意味は皆無だ」

「ケッ、否定するときだけ仲良ししやがる」


 カンバラは「ケンカしないで」と小さな体全体を使ってなだめ、仕切り直すように咳をした。


「最後の三つ目は…その他です」

「おい、急に雑だな」


 突然の投げやりに女は思わず笑った。カンバラは恥ずかしそうに頬を掻くと「だって…」と言い、不本意そうに言葉を続けた。


「これ以上思い浮かびませんよ。特危者の首輪を外せる奴がいるとか、ホントは生け捕りなんて期待してないとか、そういう前提を覆すハナシじゃないと」

「ほぉ…しかし、聞いてみればその他と割り切るほど、無い話ではない」


 イナギタナカは噛み砕くようにウンウン頷く。と、何かを思いついたように「お、そういえば」手を叩いた。


「君たちの名前を聞いていなかった。それに、出来ることも」


 そう言うと、3人の顔を一人一人促すように見ていった。

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