第28話 奴隷生活2

「うう……結構疲れたっちゃ。あのちんまい子、鬼だっちゃ。たった10人でこの広いタワーマンションの全部を掃除させるなんて」

鬼娘たちに与えられた住居エリアの共同スペースで、散々こき使われたラムネたちはへたり込んでいた。

「でも、食事で出てきたあのマナとかいう果物は美味しかったっちゃ。メロンのように柔らかな甘さと、パイナップルみたいなかすかな酸っぱさが絶品で……」

夕食に出された珍しい果実の味を思いだして悦に入っていると、第二班と第三班の鬼娘たちが帰ってきた。

「お疲れ様、あんたたちはどうだったっちゃ?」

第二班は農地、第三班は浜辺に連れていかれていたはずである。こき使われていたのではないかと心配するが、彼女たちは笑顔を浮かべていた。

「あの樹の剪定作業は結構怖かったけど、果実はすっごく美味しかったべ」

「うち、魚釣りなんて初体験だったけど、結構面白かったぜな。それに海底散歩と浜辺バーベキュー楽しかったぜな」

他の班の鬼娘は、つやつやした顔をしている。

「……怖い剪定作業?海底散歩?いったい何やらされるんだっちゃ?」

明日からの仕事に、また不安になるラムネたちだった。


次の日、作業服に着替えたラムネたちの前に現れたのは、彼女たちと同年代のボーイッシュな美少女だった。

文乃と名乗った彼女の足元にも、小さいトリケラトプスのような生き物が寄り添っている。

「それじゃ作業始めるよ、ついてきて」

そう言われてラムネたちが連れていかれたのは、うねうねと動く枝をもつ緑がかった半透明色の樹が立ち並ぶ果樹園だった。

「なにこれ?動いているっちゃ」

鞭のように枝を動かしている樹には、昨日食事にでたマナという果実がなっている。

「これはスライムツリーという魔物化した植物だよ。食べられる果実や穀物の実をつけて、鳥や動物を誘うんだけど……」

「なんか、きもいべ。トリフィドみたい」

鬼娘の一人がうっかり樹に近づいた途端、ヒュンという音とともに、植物の枝が絡みつく。

捕らえられた娘はそのまま枝に持ち上げられ、樹に引き寄せられてしまう。樹の幹には、小さな口が開いていた。

「ひ、ひいっ。食われるっちゃ!」

「大丈夫だよ。タローにぃが品種改良して、捕食口を小さくしているから、食べられたりしないよ。気を付けないと捕まって縛り上げられたりするけどね。トケラ君、お願い」

文乃に頼まれたトケラは、仕方ないなという風に捕らえられた娘に近づくと、三本の角を振り回して枝を断ち切る。拘束していた枝が切れ、娘は地面に落下した。

「し、死ぬかとおもったべ……」

「こんな感じで、枝を放置していたら危ないから、みんなで刈り取ろう」

文乃は大きなハサミをもって、恐れ気もなく樹の枝を刈り取っていく。自分たちの同年代の人間の少女が率先して剪定作業をしているので、ラムネたちも恐る恐るやってみた。

「きゃーーーー巻き付いた!」

「やめろ!このスケベ樹!」

鬼娘は、なんとか動く枝を捕まえて切ろうとするが、逆に絡まれてしまう。自分たちより体力に劣るはずの人間である文乃が平然と枝をつかんで切っているのを見て、ラムネは疑問に思った。

「文乃さんは、なんで簡単にできるっちゃ?」

「あはは。しばらくこの島にいて、体力と魔力を増大する効果のあるマナの実を食べていたからね。それにボクは小っちゃいころ、父方のおじいちゃん家で果樹園の剪定を手伝ったこともあるし。心配しなくても、すぐに慣れるよ」

そういうと、どんどん枝を刈っていく。鬼娘たちは悪戦苦闘しながらも、作業に取り掛かるのだった。


なんとか作業が終わり、次の畑に向かう。そこには小さいスライムツリーの苗木が生えていた。

「植物の種は持ってきてくれた?」

「は、はい。役に立つ植物の種が欲しいって言われたから、いろいろ持ってきたっちゃ」

ラムネたちは持ってきた種を差しだす。それはリンゴやナシ、スイカやブドウなどのフルーツ、コメや小麦などの穀物、キャベツや白菜などの野菜だった。

「でも、こんなにたくさんの種類の種をどうするっちゃ?植えるのけ?」

「ふふふ。さっき言ったでしょ。スライムツリーは食べられる果実や穀物の実をつけて、動物を誘うって。こいつらに、植物の種を食べさせると……」

文乃が近づくと、スライムツリーの苗木が口を開ける。文乃はその口に、種を放り込んだ。

次の瞬間、スライムツリーが成長して、その幹に実をつける。リンゴやナシだけではなく、米やキャベツまで実として成っているのを見て、ラムネたちは驚いた。

「……すごいっちゃ」

「こうやって、他の植物の遺伝子を取り込んでその実をつけることができるんだよ。この樹があれば、簡単に食べ物を作ることができるよ。タローにぃが召喚されたシャングリラ世界は、魔族に攻められていても食料不足に悩まされることはなかったらしいよ」

そういうと、文乃は樹になっているリンゴを取る。

「ほら、食べてみて」

おそるおそる食べてみたラムネたちは、そのおいしさに感動した。

「おいしいっちゃ」

「そうでしょう。獲物を誘う餌として実をつけているから、味もとっても美味しいんだよ」

なぜか文乃は、自慢そうに胸をそらすのだった。

「さ、収穫がんばろう」

文乃の指揮に従って、ラムネたちは収穫作業にいそしむ。美味しいフルーツを堪能して、ラムネたちは楽しい想いをするのだった。


次の日、ラムネたちは中央のタワーマンションから数キロ離れたところに造られたビーチに連れてこられる。なぜか彼女たちは、水着に着替えさせられていた。

「もう吹っ切れたっちゃ。なんでもこいっちゃ」

今までの異常な体験で、充分に異世界の脅威を実感したラムネたちは覚悟を決める。

そんな彼女たちの前に現れたのは、青い水着を着た20才くらいの長い髪の美女だった。

「はじめまして。私は林美香よ。よろしくね」

見た目は超美人で常識人のようだったが、ラムネたちは警戒を解かない。

「なんでもするっちゃ。私たちは何をすればいいっちゃ?」

据わった目で問いかけるラムネに、美香は苦笑した。

「あはは。そんなに気負わなくても。私たちの仕事は魚釣りよ。はいこれ」

そういって手渡されたのは、何の変哲もないリールがついた木製の釣り竿である。

「……釣りをするだけでいいっちゃ?」

「うん。魚はネスコちゃんが追い込んでくれるから。おーい。でできて挨拶して」

美香が沖に向かって呼びかけると、海に渦巻が発生する。

「な、何がでてくるっちゃ?」

ラムネたちがビビりながら見ていると、渦巻の中から小さい首長竜が出てきた。

「えっ?ネッシー?」

「うっそ。本物?小さいころから、一度は見てみたかったんだ!」

鬼娘は、小さいころ未確認生物の本で読んだ伝説のUMAを目の当たりにして、大興奮する。

「可愛い!」

「ギョギョ」

ネスコは鬼娘たちに囲まれて撫でられ、機嫌よさそうに喉を鳴らしていた。

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