第27話 奴隷生活1

街の鬼たちに、太郎に奴隷となれと要求されたと聞かされた鬼王は、苦悩に顔を歪めた。

「我らが街を破壊して、金銀財宝を奪ったにもかかわらず、街の者たちを奴隷にだと。此度の『太郎』はどれだけ強欲なのだ!」

そう思って怒りに震えるが、『太郎』の力には逆らえない。

「これも安易に彼に敵対した動児のせいだ!奴はどこまで我が鬼族に祟るのだ!」

死んだ息子に怒りをぶつけても、問題は解決しない。

「鬼王様。あの……太郎様が玉座の間にてお待ちでございます」

鬼の侍女にそう告げられ、鬼王は覚悟を決めた。

「やむをえむ。最悪、奴隷にされるのは我ら老人だけでよい。未来を担う若者は見逃していただけるように、伏してお願いしよう。御前で切腹して我らの覚悟を見せつけて……」

白装束に着替えて、玉座の間に向かう。まるで当然のように玉座に座っている太郎の前で、鬼王は静かに正座した。

「あなた様に敵対した息子たちの非礼、この通りお詫びいたします。この腹掻っ捌いて始末とさせていただきますので、どうかどうか、他の者たちはお見逃しくださいますよう伏してお願いいたします」

そういって短刀を鞘から貫く鬼王に、仕えていた鬼士や鬼侍女から嘆きの声が挙がる。

「お館様……俺たちのために、命まで差し出すなど……」

「いや!お館さま。死なないで!この鬼!あなたには人の情ってものはないの?」

嘆き悲しむ鬼たちだったが、玉座の太郎は白けた顔をしている。

「そんなパフォーマンスはいらん。とりあえず、お前たちの中から奴隷を差しだせ」

「……やはり、わかってはいただけないのでしょうか……しからば、御免!」

覚悟をこめて短刀を腹に突き刺そうとするが、不可視の力で取り上げられてしまう。

「やめろ。城が血で汚れるだけだ。それにお前が死んだら、鬼たちの不満を抑える者がいなくなり、やけになって俺に反抗してくるだろう。そうなれば、鬼族は絶滅だ」

太郎の冷たい声に、鬼王はがっくりとうなだれる。

「……では…せめて私のような老人を」

「未来のない老人などいらん」

バッサリ切られて、鬼王の顔は絶望に沈む。

「何も全員とはいわん。まずは30人ほどよこせ」

「……くっ、わ、わかりました。あなた様に従います」

こうして、鬼族の中から奴隷が選ばれて、シャングリラ島に送られることになったのだった。


シャングリラ島に連れてこられたのは、十代後半の若い鬼娘たちだった。

「私たちは覚悟をもって、命がけでお仕えするように鬼王様から命ぜられたっちゃ。うっふん。サービスするっちゃ。だからひどい事しないで欲しいっちゃよ」」

そういって鬼娘たちの代表が頭をさげる。

よく見たら、鬼我原で客引きをしていた虎柄ビキニの少女だった。今はなぜか虎皮のワンピースとブーツを履いていて、厚い化粧をしている。

「……別に女をよこせとは言っていないんだが」

「いえ、その、今更戻れと言われても、働く場所もなくて……お店も潰れてしまったので。ここを追い出されたら、私たちどこにいったらいいかわからないっちゃ。精一杯ご奉仕しますので、見捨てないでくださいっちゃ」

少女はそういって泣き真似をした。

それを聞いて、彼女たちの店を破壊した太郎は、さすがに気まずく思ってしまった。

「まあいいか。女がいれば、それに釣られて自然に男も集まってくるだろうし」

「ありがとうっちゃ。私はラムネと申しますっちゃ。これからよろしくお願いしますっちゃ。ご主事様」

頭をさげてくるラムネたちを、太郎は島の中央タワーマンションに案内した。

「ここが私たちの奴隷部屋……っちゃ?」

中に入ったラムネたちは、冷房が効いて快適な上おもったよりきれいな部屋に困惑する。

「とりあえず、そのキャバ嬢みたいな服装と化粧はなしだ。部屋に荷物を置いたら、動きやすい服に着替えて、集合だ」

太郎は作業着を渡すと、部屋から出ていった。奴隷と聞かされて、性的な奉仕を要求されると思っていた彼女たちは肩透かしをくらった気分になる。

「ラムネ。うちたち、これからどうなるんやろ」

不安そうになる鬼娘たちに、ラムネは告げる。

「……とりあえず、従ってみるっちゃ。すぐに乱暴されるってことはないみたいだっちゃ」

そういうと、作業着に着替えるのだった。


鬼娘たちを前に、太郎は堂々と言い渡す。

「いいか、お前たちは奴隷じゃ。休みは週に二日、休暇は半年に十日しかやらん。一日八時間、週五日しっかり働けよ」

太郎はその場で、鬼娘たちを三班に分ける。彼女たちを指揮することになったのは、三人の美少女だった。

ラムネたちが属する一班を指揮するのは、肩に細長い龍の子を載せた10才くらいの幼女である。

「あなたたちが新たな侍女たちですか。よいでしょう。王妃としてしっかり教育してあげましょう」

そういって威張る幼女に、鬼娘の一人が反発する。

「ああん?なんだこの餓鬼、調子にのってんじゃねーぞ」

まるでヤンキーみたいなその少女に、幼女―ルイーゼは冷たく告げる。

「仕方ないですね。王妃として、まず最初にビシッと締めないと。ロン、お願いしますわ」

「きゅい」

ロンは口を開けて軽く咆哮する。その口から稲光がほとばしり、鬼娘たちは雷に打たれてしびれてしまった。

「ひええっ。痛い痛い!」

身体に激痛が走り、ヤンキー少女は昏倒した。そんな彼女を見下ろして、ルイーゼは告げる。

「私たちの力がわかりましたか?逆らおうなどとは思わないように」

「は、はいっ。サーセンでした」

圧倒的な力の差を理解らせられ、鬼娘たちは幼女に屈服するのだった。

その後、ルイーゼは容赦なく鬼娘にタワーマンション内の清掃を命じる。

「さあ、掃除して綺麗になさい。あなたたちも住む家ですよ」

そういって配られたのは、緑色をしたゼリー状の塊だった。中にいくつも泡が浮いていて、プルプルと震えている。その物体からは、石鹸のようないい匂いが漂っていた。

「これは?」

「シャボンスライムですわ。建物を覆っているビルドプラントの寄生魔物で、枯れた葉を食べたり、体内から洗浄液を出して床の汚れを吸収してくれるのです」

ルイーゼがスライムを床に放つと、泡立つ液体を吐きながら床を清め始めた。

「あなた方はスライムが這いまわった後をふき取ってもらいます。では、はじめ!」

ライムたちはモップをもって、シャボンスライムの後を掃除していくのだった。

「次は室内の清掃ですね、スライムが及ばない壁とか家具の掃除は、これを使ってください」

ルイーゼは、もふもふの毛が生えた棒のようなものを手渡される。

「これは?」

「我が子ロンの毛を使った「エレキブラシ」です。静電気を帯びているので、ホコリがよく取れますとり」

ルイーゼがブラシを振ると、室内のホコリが吸着した。

「さあ、ぐずくずしない。はじめ!」

ピシャリと言われて、ラムネたちは慌てて某で室内を掃除する。部屋の中は、まるで新築のマンションのようにピカピカになった。

「や、やっと終わったっちゃ……」

ほっと一息つくラムネたちに、ルイーゼは次にゴミ箱を指さした。

「室内の掃除が済んだらゴミ運びです。ゴミはビルドプラントの根元に捨てなさい。そうしたら根が食べて養分にします」

「は、はい。わかったっちゃ」

慌てて部屋を回ってゴミ箱を回収し、ビルドプラントの根元に降りていく。ラムネたちが近づくと、根の一部が裂けて大きな口が開いた。

「こ、これがゴミ捨て場?怖いっちゃ」

植物なのに大きな牙を生やして、ガチガチと鳴らしてくるので、鬼娘たちは恐怖に震える。

「えいっ!」

覚悟を決めてゴミを投げ入れると、ビルドプラントは美味しそうに食べていった。

「なんかここ、変だっちゃ。変な生き物はいるし、建物は岩だし、植物は動いてゴミを食べるし……」

あまりに異様な生活様式に、異世界にでも迷い込んだ気分になっていると、ルイーゼがやってきて手をパンパンと叩く。

「ゴミ捨てが終わったら次は食事の用意です。きびきび働きなさい」

「ひいいっ」

それからも散々こきつかわれるラムネたちだった。

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