第26話 守護聖竜

太郎には復讐以外にも、この世界で自分が好きに生きていける場所を作りたいという目的がある。復讐だけに邁進して日本を破壊しつくしても、後にのこるのは虚しい廃墟だけである。

せっかく一国に対抗できる力をもってこの世界に還ってきたのだから、自分の王国を作りたいという思いがあった。

「国民を集めるにも、まず国土を整備して仕事と生活できる環境を作らないとな。さて、何からはじめるべきか」

太郎は住人三人を交えて会議することにした。

「確かに、この島にはなにもありません」

「あるのは岩ばかり。せっかく南国なのに、ビーチすらないんだよ!」

「あの、ここに王国をつくるなら、最低限の食べ物を生産する畑とかもつくったほうがいいかと思いますわ」

それぞれの意見を聞き、島を開拓することを決意する。

「わかった。なら、島の開発に取り組むか。そのために役立つ魔物を生み出そう」

そういって太郎が亜空間格納庫から取り出したのは、茶色・水色・黄色の三種類の卵だった。

「もしかして、守護聖竜を蘇らせるのですか?」

それを見て、ルイージは目を輝かせる。

「守護聖竜?」

「ええ。王国を守ってくれた聖なる竜ですわ。とっても賢くて可愛いんですわよ」

ルイーゼの説明に、美香と文乃も期待をこめて卵を見つめた。

「どんな可愛い子がうまれるのかしら」

「ボク、ペットが欲しかったんだよね~」

それぞれどんな子が生まれるのか想像して、はしゃいでいる。

「それじゃ、お前たちは聖竜たちの親になって、卵を孵してほしい。好きな卵を選んでくれ」

そう言われて、三人は卵を手に取る。

「じゃあ、水色の卵を」

「ボクは茶色を」

「私はもう決まっていますわ。雷竜様に再び会えるなんて。黄色い卵にします」

それぞれ選んだ卵を、大切そうに抱きしめた。

「竜たちが孵るのは明日だ。今晩は一緒のベットで眠って温めてくれ」

「はーい」

「楽しみだね」

「うふふ。聖竜様の母親役、立派に勤めさせていただきますわ」

こうして、その日の夜は卵を抱いて寝ることになったのだった。

そして次の日の朝、それぞれの部屋から歓声があがる。

「可愛い!」

美香の元に生まれたのは、全身青色の首長竜。文乃の元に生まれたのは、茶色のトリケラトプスのような顔の周りにフリルをもつ三角竜、そしてルイーゼの元に生まれたのは、中国に伝わる細長い体と短い手足をもつ黄色い龍だった。

「きゅい!」「ギョ」「グル」

三匹とも、母親として認識したのか抱き着いてくる。

「最高!癒される~」

彼女たちは、それぞれの仔を抱きしめて頬ずりした。

「名前はなんて付けようか。うーん」

悩んだ結果、首長竜はネスコ、三角竜はトケラ、龍はロンと名付けられるのだった。



「無事に生まれたようだな。それじゃ、さっそくで悪いが手伝ってくれ」

「きゅい!」

三匹の竜たちは太郎にしたがって、外にでる。

「何をさせるの?」

「竜は自然界の力を操って、環境を変えることができるんだ。手始めに、ロン、雷を落として、岩を砂粒になるまで砕いてくれ」

「きゅい」

ロンは頷くと、空へと飛びあがる。そして風を纏って雲を呼びよせ、雷雲を発生させた。

ドーンという音とともに雷が地面に落ちる。雷のエネルギーが岩を砕き、細かい粒子の砂に変えた。

「すごいですわ。さすが雷竜様!」

喜ぶルイーゼの前で、ロンはどんなもんだという風に鎌首をもたげる。

「よし、次はネスコの番だ。頼んだぞ」

「ギョギョ」

ネスコが空に向かって咆哮すると、雷雲が雨雲に代わって、大粒の雨が降ってくる。

その雨がしみこみ、砂場はしっとりとした水分を含んだ土に生まれ変わった。

「もしかしてネスコちゃんは水を操ることができるの?偉い子ね」

「ギョ」

頭をなでられたネスコは、うれしそうに美香にじゃれついて甘えた。

「となると、トケラ君は……」

「グル」

期待を込めて見つめる文乃にうなずくと、トケラは水を含んだ砂場に突進する。彼の三本の角の先がブルドーザーのように地面を掘り返していくと、ただの砂だった地面が真っ黒い滋養に富んだ土に変わっていった。

「なるほどね。トケラ君は生きる耕運機なんだ」

「グル」

トケラは自慢そうに胸をそらした。

「こんな風に、彼らを使って島を開拓してくれ。岩を崩して道を作ったり、水路を敷いたり農地になりそうな場所を整地していてくれ。俺は住人になりそうな奴を集めてくるから」

「わかったわ」

三人に後を任せ、太郎は日本に向かうのだった。


日本に来た太郎は、近畿圏の某県の地下にある『鬼我原』に向かう。

鬼族の住処であるこの地下都市は、太郎とルイーゼが暴れたせいで街が壊され、悲惨な状況だった。

特に飲み屋や風俗があった歓楽街の被害がひどく、働き場を失った者たちが途方に暮れている。

「これからうちたちは、どうすればいいっちゃ。お客様たちも恐れてこの地下街にこなくなったのに……」

虎柄ビキニの少女が、壊れた店の前でしくしく泣いている。鬼我原は隠れた風俗街として人間の富裕層の中では密かな人気だったが、今は閑古鳥が鳴いている状況だった。

落ち込んでいる彼女たちの前に、太郎がふわりと舞い降りる。

「きゃぁぁぁぁぁ!『太郎』がでたぁ!」

太郎をみたとたん、鬼たちはまるで悪魔でも見たかのように一目散に逃げ散ろうとした。中には腰を抜かして動けなくなっている者もいる。

「おいおい。鬼ごっこは鬼が追いかけるものだろ。鬼が逃げてどうするんだ。それともかくれんぼか?」

太郎はおびえて物陰に隠れる鬼たちに、皮肉そうに告げた。

「あ、あんたのせいでうちたちの街が壊れたっちゃ!うちたちの街を返して!」

「知らんな。恨むなら俺を敵に回したお前たちの長の息子を恨むがいい」

そう責めてくる鬼娘に、太郎は冷たく告げる。

「ううう……それでなんの用だっちゃ。うちたちを虐めて金銀財宝まで奪って、まだ足りないのかっちゃ」

「そうだそうだ!」

「いい加減にしてくれ!帰れ帰れ!」

周囲の鬼たちから上がるブーイングをものともせず、太郎は彼らに告げる。

「実はな、お前たちにとって、いい話を持ってきたんだ」

「いい話?」

胡散臭そうな目で見つめてくる鬼たちの前で、太郎は胸をそらす。

「お前たちを俺の奴隷にしてやる。俺の国に来て、奉仕しろ」

それを聞いた鬼たちは、再び恐怖の表情を浮かべるのだった。

「ふ、ふざけるな。誰が奴隷なんかに」

「この悪党!人でなし!鬼!」

いっせいに罵声を浴びせられた太郎は、顔色も変えずに鬼たちを脅迫する。

「別に断ってもいいけど、こうなったら政府はお前たちを切捨てて、この地下都市の存在も公表するかもな。ある程度の武力があったからこそ、お前たち異世界からの移住者の存在も黙認されていたんだ。それが思ったほどの力をもたないと知れたらどうなるかな」

それを聞いて、鬼たちは真っ青になる。

「人間たちに狩りたてられ、滅亡するかもしれないなぁ。俺がこの手で滅ぼしてやってもいいし」

ねちねちと責め立てる太郎に、鬼たちは絶望のあまり声もでない。

「俺の奴隷になれば、政府からも守ってやるぞ。それだけじゃなくて、日のあたる南国のリゾート島で生活できるようになるかもしれないぞ。こんな薄暗い壊れかけた街にいるより、いい生活できるかもしれないなぁ」

それを聞いて、鬼たちも観念した。

「わ、わかりました。鬼王様に相談します」

こうして、太郎は鬼たちに連れられて城に向かうのだった。

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