第25話 鬼我原破壊

鬼我原の住人は、いきなり訪れた破壊に恐慌にかられる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!逃げろ!」

「鬼だ!悪魔だ!破壊神だ!」

鬼も人間も、破壊の権化と化した二人を見上げて、逃げまどった。

「あははは。面白いですわ」

いい笑顔を浮かべて光魔法を撃ちまくるルイーゼに、太郎は注意する。

「ルイーゼ。人は殺すなよ」

「わかっておりますわ。光魔法の光波が通る対象は無生物に限定しておりますわ。人に当たっても無害です。服は破れますけど」

その言葉通り、ルイーゼの放つ光魔法に当たった鬼たちは、服がやぶれてすっぽんぽんにされるだけで怪我一つ負ってなかった。その代わり、建物も家具も光が貫くたびに穴だらけにされる。

それに加えて、太郎の引力魔法で地震が引き起こされ、もろくなった建物が崩れ落ちる。鬼我原の町は、まさに今滅亡しようとしていた。

その時、鬼たちの王城から、一人の年老いた鬼が出てきて二人に向かって土下座する。

「『太郎』さま。お許しください!この財宝を献上いたしますから」

老いた鬼の王は、部下に命じて王城から持ちだしてきた莫大な財宝を積み上げて土下座する。

「我々鬼族が、長年地下からコツコツと掘り出してため込んだ金銀財宝でございます。どうか、我らをお許しを……」

そんな彼の前に、太郎とルイーゼはふわりと舞い降りた。

「今後、俺に敵対しないと誓うか?」

「は、はい。地上の「鬼来組」も、地下の「鬼我原」もすべてあなたに従います。ですから、なにとぞお許しください」

必死に頭を下げる鬼王の前で、太郎は考え込む。

「ふむ。ということは、これから日本中のヤクザが俺に従うということか。いいだろう。お前がしっかり締めておけよ」

そういうと、差し出された数百トンにも及ぶ金銀財宝を亜空間格納庫に収納し、ルイーゼと共に去っていく。

残された鬼王はほっとするとともに、鬼たちに告げた。

「皆の者、よくわかっただろう。あれが「太郎」だ。理不尽な力を振るい、金銀財宝を奪って去っていく。我ら鬼の一族は、決して「太郎」に逆らってはならん。逆らうと、せっかく作り上げた住処を追われることになるのだ」

太郎によって町を破壊された鬼族たちは、改めて『太郎』という存在の恐怖を身に刻み込み、決して逆らわないこと心に誓う。

この日以降、長年日本の裏の世界を支配してきた鬼族は、完全に太郎に従わされることになるのだった。




シャングリラ島への帰路につきながら、太郎はルイーゼに聞く。

「そういえば、ルイーゼはシャングリラ世界に帰らなくていいのか?」

その問いに対して、ルイーゼはにっこりと笑って答えた。

「姫聖女ルイーゼは死にました。ここにいるのは新たに生まれ変わったルイーゼですわ。これからよろしくお願いしますわ。ご主人様」

ルイーゼは太郎に仕えるという。太郎は苦笑とともに彼女の存在を受け入れた。

シャングリラ島が見えてくると、ルイーゼがつぶやく。

「あれがタロウ様の領地ですか?」

「領地というか、俺が作った国だな」

「国……ですか?なんだか小さいような……」

小さいと言われて、太郎は憮然とする。

「たしかに辺境の小島だけど、これからもっと大きくしていくんだよ」

「わかりました。では王妃として、あなた様の建国をしっかりと支えさせていただきます」

なぜかいつのまにか王妃を自称するルイーゼだった。

シャングリラ島に戻ると、美香と文乃が出迎えてくれた。

「おかえりなさい。太郎さん」

「タローにぃ、何してきたの?」

そんな二人に、太郎は亜空間格納庫から金銀財宝をとりだして見せる。

「まあ、ちょっと鬼退治をな。これはその戦利品だ」

鬼退治をして財宝を奪ってきた桃太郎みたいに自慢すると、二人はジト目で見てきた。

「なんだか、鬼さんたちのほうが可哀そう」

「だよねぇ。たった一人復讐対象を匿っただけで、自分の町が破壊されちゃったんだから」

鬼族に同情してしまう二人に、太郎が連れてきた金髪の美幼女が反発した。

「あなたたちは、側妃の方々ですか?タロウ様がなさったことは、王として当然のことですわ。国を背負う王は、敵に対しては厳格にならねばならないのです」

「まあ、まだ国なんて言えるレベルじゃないんだが……住人もお前を含めても四人しかいないし」

王妃としての品格をもって、二人に王としてのありかたを説く美幼女に、太郎は苦笑してしまう。

そんな彼に、二人はさらに冷たい目を向けた。

「太郎さん。とうとう幼女誘拐を……」

「タローにぃ。それはアウトだよ。悪党にもやっちゃいけないことはあるんだから、親御さんのところに帰してあげなよ」

誘拐と聞いて、ルイーゼはプンスカと怒った。

「無礼な。私は誘拐されたのではありません。王妃として太郎さまに仕えるため、シャングリラ王家からこの国に嫁いできたのです」

「はぁ?」

訳が分からないといった顔をする二人に、太郎はルイーゼのことを話した。

「そうですか……この子も太郎さんに巻き込まれた被害者ですか……」

「王女様だったのに……タローにぃが原因でこの世界に召喚されたなんてかわいそう。こんなに小さいのに」

美香と文乃は、ルイーゼを抱き寄せてよしよしと頭を撫でる。子供扱いされて、ルイーゼはさらに抗議した

「もう!私は子どもではありません。それに、私は巻き込まれたなど思ってはおりませんよ。タロウさまには私の世界を救ってくださった御恩があります。それをお返しするために、今後は王妃としてタロウさまの建国に協力させていただきますわ」

小さい体で胸をそらして王妃宣言をするルイージを、二人は微笑ましく思った。

「あはは。可愛いですね」

「王妃ごっこかぁ。なんか小っちゃいのに妙に決まっているね。やっぱり王女さまだから?よしよし」

二人は完全に冗談だと思っている。

「まあ、確かに今のところごっこと言われても仕方ないよなぁ」

太郎という王とシャングリラ島という国土はあるが、肝心の国民がいないまさに裸の王様状態である。そろそろ国として成立させるために、人を集めないといけなかった。

「そのことは後で考えよう。とりあえずルイーゼはお前たちに任せる。この世界のことを教えてやってくれ」

「お任せください」

「わかった。ボクたちが面倒みるよ」

二人はルイーゼを可愛がりながら頷くのだった。


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