第24話 鬼退治

「死ね!」

自らの体とともに巨大化した金棒を、ルイーゼに向けて降り下ろす。ルイーゼはそれをギリギリでかわすと、飛び上がって全身の体重を乗せて反対側の面を殴りつけた。

しかし、体重差がありすぎるために、相手のバランスを崩すことができない。

「がはははは、無駄だ!」

優位を確信して無茶苦茶に金棒を振り回す動児だったが、ルイーゼは平然としていた。

「なら、それなりの対応をするまでですわ」

ルイーゼの嵌めているナックルが、輝きはじめる。

「くらいなさい。「閃光雷撃拳」」

ナックルから微量の電流が発せられ、インパクトの瞬間に動児の体に流れ込んだ。

「なんだそりゃ。かゆいぜ」

動児は拳が当たった場所を、ポリポリと掻く。確かに見た目では、何のダメージも与えられないように見えた。

しかし、ルイーゼは余裕の笑みを絶やさない。

「『閃光雷撃拳』は物理的なダメージを与えるものではありませんわ。打撃点の神経に電流を流し込み、麻痺させることが目的なのです」

次の瞬間、動児の10メートルにも及ぶ体が硬直する。

「神経の伝達速度は光の三分の一。つまり一瞬で、『麻痺』の電気信号が全身をかけめぐるということです」

その言葉どおり、打撃点から麻痺が全身に広がり、指一本動かすことができない。

「さあ。勇者様。とどめを」

「ああ。こっちも準備ができたところだ」

太郎は動児にむけて、剣を振りかぶる。

「ま、待て。わかった。俺たちはもうお前には逆らわない。英雄という坊ちゃんも、引き渡すから」

「もう遅い。敵対した時点で俺の復讐のとばっちりをうけるんだ」

太郎は動児の命乞いを拒絶する。

「くらえ。『暗黒次元斬』」

降り下ろされた次元剣から、次元の断層が生み出され、動児の巨体を真っ二つに切り裂く。それは体だけにとどまらず、闘技場自体も二つに切り裂いたのだった。


「嘘だろ……あんなでかい鬼を切り裂くなんて」

「ほ、本当に人間なのか?」

太郎のあまりにも圧倒的な力に、闘技場は水を打ったように静まり返る。

太郎はそんな観客たちを無視して、ルイーゼに笑いかけた。

「本当に久しぶりだな。ルイーゼ」

「タロウさま!こ、怖かったですわ。いきなり見知らぬ世界に召喚されて、訳の分からないことばかりで……」

ルイーゼは泣き真似しながら、太郎に抱き着いた。

「俺もお前に召喚されて、同じような目にあったんだがな」

「もう、タロウさまの意地悪!」

ルイーゼは拗ねて頬を膨らませる。

「まあ、そのおかげで勇者の力を得ることができたし、お前には感謝しているよ」

そう笑顔を浮かべる太郎に、ルイーゼは首をかしげた。

「タロウさま。少し変わられましたね。シャングリラにいた時は、いつも暗い顔をして一度も笑顔をみせてくれませんでしたのに……」

「復讐相手をぶっ飛ばしたり、街をぶっ壊したりしてすっきりしたのさ」

太郎が肩をすくめると、ルイーゼはプッと吹き出した。

「ふふふ。では、私もお手伝いいたしますわ。もっとタロウさまに微笑んでいただけるように。たしかあそこで腰をぬかしている奴が、タロウさまに無礼を働いた者なんですよね」

そういうと、ルイーゼはふわりと宙にを浮いて、英雄の前に来る。彼は恐怖のあまり、小便をもらしていた

「ひぃぃ!悪かった。助けてくれ!」

「それを決めるのは私ではありませんわ。タロウさまです」

そういうと、英雄の首根っこをつかんで闘技場に連れていく。

「『閃光雷撃拳』」

ルイーゼの一撃で、英雄の体は動けなくなった。

「さて、どうお仕置きをしたものか……」

「このような小物、タロウさまのお手を煩わせるまでもありません。私に任せてくれませんか?」

なぜか目をキラキラさせて、ルイーゼが迫ってきた。

「いいだろう。何をするつもりなんだ?」

「あのですね……」

太郎の耳元に口を近づけて、何事かをささやく。その様子を、英雄は恐怖に震えながら見ていた。

「……まあ、いいだろう」

そういって、亜空間格納庫から鞭をとりだす。それは鬼との闘いにもつかった『銀悲鞭』だった。

「ありがとうございます。それではさっそく……」

ルイーゼは鞭を受取ると、英雄に振り下ろす。

「ほらほら、いい声でなきなさい!この豚がぁ!」

「ぶぎゃぁぁぁぁ」

鞭に打たれた英雄は、豚そっくりの叫び声をあげてもだえ苦しむのだった。


闘技場の中心では、観客の見守る中、金髪美幼女による公開SMショーが繰り広げられている。

「痛い!痛い!もうやめてくれ!俺が悪かった!」

神経毒付きの鞭で叩かれ続け、英雄は泣き喚いている。

「まだまだ!もっといい声で啼きなさい!」

それに対して、ルイーゼはいい笑顔を浮かべて攻め続けている。あまりの容赦のなさに、復讐しているはずの太郎が止めに入った。

「……もうそれくらいでいいだろう。それ以上やったら狂死してしまう」

「ふん。軟弱な男ですわね」

ようやく鞭を振るう手をとめて、ムシケラでも見るような目で英雄を見下ろす。英雄は全身鞭で打たれてひくひくと蠢いていた。

「ひでえな……あれじゃ数年は激痛が続いて、まともに夜も眠ることもできなくなるぞ」

「タロウ様に敵対したのだから、その罰を受けるべきです」

そういうと、英雄の尻を蹴り飛ばす。

「さっさと私たちの目の前から消えなさい」

「ひぇぇぇぇぇっ」

英雄は立ち上がると、泣きながら逃げていった。

「はぁはぁ。太郎さま。この鞭をゆずっていただけませんか?」

うっとりとしながら銀色の鞭を見つめるルイーゼに、太郎は首を振る。

「ダメだ。お前の親父の国王も言ってただろう。この鞭だけはルイーゼに渡さないでくれって」

「仕方ないですわね。たまに借りるだけで我慢しますわ」

そういうと、ルイーゼは太郎に鞭を返した。


「さてと、次は、いい気になってみていたお前たちの番だな」

観戦していた観客のほうを向いて、いい笑顔で太郎が告げる。それを聞いて、観客たちの間からざわめきが起こった。

「そろそろ魔力も回復してきたし、お供します」

太郎とルイーゼは。手をつないで宙に浮きあがった。

「さあ、どんちゃん騒ぎだ!破壊の饗宴を始めよう。『ブラックホール』」

太郎の手から発せらせた、極小粒の黒い点が天井ドームに放たれる。次の瞬間、岩でできたドームがすべて吸い込まれ、消滅していった。

コロシアムのドーム天井を消滅させた二人は、『鬼我原」の町を空中から見下ろす。

「きゃはは。思い切り魔法をぶっ放すのも久しぶりですわ!「レーザーレイン!」」

ルイーゼの手から、きらめく星のような光の点が大量に放たれる。それは瞬く街全体に広がり、光の玉から無差別にレーザー光線が発せられ町に降り注いだ。

「うわぁぁぁぁぁ!」

「やめてくれ!町が……俺たちの住処が……」

鬼たちの地下都市、鬼我原は、一瞬で火の海に包まれる。いきなり破滅に巻き込まれた鬼たちは、安全な場所をもとめて逃げ回るのだった。

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