第15話 銀行破壊

一時間後

金庫室から出た太郎は、悠々と銀行内をのし歩く。

警備ドローンが暴れに暴れた行内は、中のパソコンや機械は穴だらけにされていて、滅茶苦茶な状態になっていた。

「これじゃ銀行業務は続けられないだろうな。客からの信用も失っただろうし」

一階の本店は客はすべて逃げ去っており、行員たちはみんな机の下に隠れて震えていた。

彼らを無視して、最上階の頭取室に上がる。

ドアを開けて中に入ると、部屋中穴だらけにされており、気弱そうな老人が頭を抱えて震えていた。

その隣では、腰を抜かした菊川静が座り込んでいる。失禁でもしたのか、彼女の下には水だまりができていた。

部屋の中には、エネルギーを使い果たした警備ドローンが転がっている。

「どうかな。俺の僕は楽しんでもらえたかな?感謝しろよ。一応人間は傷つけないように命令していたんだからな。俺って優しいぜ」

そう声をかけると、気弱そうな老人がガバッと顔を上げ、太郎に噛みついてきた。

「な、なんでこんなことをしたんだ。うちの銀行に恨みでもあるのか!」

「俺の口座を凍結しただろ?それに俺の復讐対象を雇っているじゃないか」

意地わるく指摘すると、頭取は後悔する顔になった、

「わ、わかった。口座の凍結を解除する。それから菊川君、君はクビだ!」

座り込んで言葉を失っている静に怒鳴りつける。しかし太郎は冷笑を浮かべて告げた。

「もう遅い、ケジメは取らせてもらった」

「ど、どういうことだ」

「さあな、金庫室を確認してみるんだな」

そういうと、太郎は窓から飛び出して去っていく。

最悪のテロリストが去って頭取はほっとしたが、最後に言った言葉が気になった。

「ま、まさか金庫室の中のものに手を出されたのかもしれん。ええい!菊川君。いつまでそうしているんだ!確認にいくぞ」

「は、はい」

頭取の怒声に静は立ち上がり、二人で金庫室に確認にいく。ロックを外して中に入ると、警備員姿の文乃がぽつんと座り込んでいるばかりで、三百億円はあった現金と大量の貸金庫の中身はすべて失われていた。

あまりの惨状に、頭取は激怒する。

「なんだこれは。100億円もかけた防犯設備がこのザマか!どう責任をとるんだ!」

頭取に責められ、静は動揺する。追い詰められた彼女の目に、座り込んでいる文乃が映った。

「わ、私は悪くありません。これは、その、そこにいる女のせいです」

「えっ?ボク?」

いきなり罪をなすりつけられ、文乃は驚く。

「その女が警備状況をあのテロリストに伝えて、手引きしたに違いありません」

「ちょっと待ってよ。ボクはそんなこと……」

文乃が弁解しかけたとき、金庫室に警官隊が入ってきた。

「いいところに来てくださいましたわ。警察のみなさん。その女はテロリスト山田太郎の仲間です」

そう言われた警官たちは、容赦なく文乃を縛り上げた。

「ボクは無実だ~」

連れていかれる文乃の叫び声を聞きながら、静は頭取に媚びるような声をかける。

「と、とにかくテロリストの一味は捕らえましたわ。わが社の優秀さが証明されたということで……」

「だが、金庫が破られたという事実は変わらない。君が薦めた警備ドローンが暴走したということもな。改めて申し渡す。君はクビだ」

金庫室に頭取の冷たい声が響く。

「ふ、ふん。それならいいですわ。もともと銀行の秘書なんてつまらない仕事、続けるつもりはなかったんですもの。実家の警備会社に帰れば……」

解雇されても余裕たっぷりな静だが、そうは問屋が卸さなかった。

「それで済むといいがな。まだドローンの保証期間内のはずだ。機械の暴走でこうなったのだから、菊川警備にはしっかりと責任をとってもらうぞ」

「そ、そんな……」

それを聞いて、静は地面にへたりこんで涙を流す。

その後、東亜銀行によってこのことを公表された菊川警備会社は、あらゆる警備契約を切られ、巨額の損害賠償を請求されて倒産する。静の実家の財産もすべて取り上げられ、貧困にまみれた一生を送ることになるのだった。


警視庁 地下拘置所

最大級の警備が敷かれたその場所では、一人の少女が取調を受けていた。

「だから、ボクは無実だって!」

取調官にそう訴えても、まともに信じてもらえない。

「お前のことは調べさせてもらった。テロリスト山田太郎が育った施設に一緒にいただろう」

「うっ。それは事実だけど……」

「そんなお前が金庫の警備をしていて、そこにあいつが現れた。偶然なわけがあるか!」

そう決めつけられても、文乃はなおも反論した。

「それは、ボクを囮にしようとした菊川さんの陰謀で……」

「そんなの信じられるか。とにかくお前はテロリスト山田太郎の一味で重罪だ!連れていけ!」

取調官が命令すると、屈強な警官が文乃をひったてる。そのまま独房に連れていくと、思い切り突き飛ばされた。

「いたっ。何するんだよ!」

「黙れ。テロリストの仲間め、お前たちのせいで警察の威信が失墜し、市民から警官は頼りにならないとバカにされているんだ」

警官からは憎しみの目で見られて、文乃は沈黙した。

「首洗って待ってろ。テロリストの居場所を吐かせたら、死刑に追い込んでやる」

そう言い捨てて、去っていく。国家権力が本気で自分に罪を着せようとしているのを感じ取って、文乃は恐怖に震えた。

「うう……なんでボクがこんな目に……タローにぃのばかぁ……」

「やれやれ、予想通りだったが、醜いものだな」

そんな声が響き渡り、独房に空間の穴が開く。その中からは、太郎が出てきた。

「タロ―にぃ!」

文乃は太郎に駆け寄って、抱き着く。

「これでよくわかっただろう。どれだけお前が真面目に生きようとしていても、社会は受け入れてはくれない。俺も同じような目にあったさ」

文乃の頭を撫でながら、太郎はつぶやく。

「そんな。ボクは無実なのに……」

「そんなことは奴らも知ってるさ。だけど、どうでもいいんだ」

静かな声で、文乃を諭す。

「奴らは俺というイレギュラーな存在に太刀打ちできないから、俺の身内であるお前に責任転嫁したのさ。お前を生贄にして手柄を上げたことにして、国民からの批判をかわそうとしている。何の後ろ盾もなく無力なお前は、俺に手も足もでない世間の絶好の八つ当たりの対象だろう」

「そんな……」

生贄にされると聞かされて、文乃は恐怖に震える。

「本当に、権力を持っているやつらって勝手だよな。そういえばお前も高校時代は集団でいじめられていたっけ。親がいない孤児としてバカにされていただろう」

「うん。ボク……これからどうしたらいいのかな」

涙にぬれた目で見上げると、やさしい笑みを浮かべている太郎の目と合った。

「お前が望むなら、ここから逃がしてやるぞ。どうする?もしそうなれば、俺の身内として一生日本社会では生きられなくなるけど」

そう言われて、文乃は決断する。

「タロ―にぃ。お願い。ボクを助けて」

もはや日本社会に居場所がなくなった文乃は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら太郎に助けを求めた。

「いいだろう。一緒にこい」

太郎は優しくその手をつかむと、空間の穴に引き入れるのだった。

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