第14話 亜空間格納庫

「あはは。やったわ」

レーザーの光により、モニター場面が真っ白に輝く。しばらく待っても、部屋の映像は映らなかった。

「チッ。監視カメラにレーザーが当たったみたい。これじゃ中が見れない。改良の余地がありそうね」

部屋の中の様子を確認できずに、イラつく静。同じ部屋で見ていた頭取は、焦った声で聴いてきた。

「お、おい。大丈夫なのかい?」

「大丈夫。レーザーのバッテリーが切れるまで一時間ほどありますわ。それまでゆっくりと待ちましょう」

優雅に紅茶をすすりながら、静はつぶやく。

「そうじゃなくて、もし殺人罪なんてことになったら……」

「それも問題ありません。史上最悪のテロリストとその仲間を捕らえる正当防衛として、仕方がない事故で処理すると警察とも話がついていますわ」

そういって、静は残酷な笑みを浮かべる。

「これであの汚らしい太郎と、私と同じ顔をしているうざい文乃を始末できたわ。ふふふ……テロリストを始末したヒーローとして、私は明日から日本中のスターになれるわね」

生まれ持ったセレブという立場に加えて、日本を救ったという名誉まで手に入れられる。バラ色の未来を思い浮かべて、静は悦に入るのだった。


「タロ―にぃ」

銃口が輝いた瞬間、文乃は太郎にしがみつく。

「大丈夫だ。しっかり捕まっていろ」

太郎の声が聞こえた瞬間、文乃はどこかに落ちていくような感覚を全身で感じていた。

「キャ――――」

絶叫とともに、意識が遠くなる。

次に文乃が目を覚ました時に、乳白色の空間の中にいた。

「あれ……ここは?ボクは死んじゃったのかな。転生させてくれる女神さまは……」

ぼんやりした頭で周囲を見渡すが、女神の姿はない。

「何寝ぼけているんだ。しっかりしろ」

声をかけられて振り向くと、心配そうな顔をした太郎がいた。

「タロ―にぃ……ここどこ?」

「次元と次元の間に存在する、亜空間だ。俺は空間魔法を使えるからな。ここは便利な格納庫として利用している」

太郎は自慢そうに周囲を見渡す。そこには、武器や防具、金貨や食料その他卵など、大量の物資が格納されていた。

「これらはなに?」

「俺が異世界から持ち帰った伝説の武器や防具だ。あとは魔物の卵とかだな」

いろいろ物が散らばる亜空間を見て、文乃ははぁ~っとため息をつく。

「タローにぃ。本当に訳の分からない変態さんになっちゃったんだね」

「変態とは失礼だな。生意気だぞ」

太郎は軽く文乃をこづく。まるで兄が妹に接するような態度に、文乃も緊張をといた。

「タロ―にぃ。どうして私と会ってくれなくなったの」

そう上目遣いで聴いてくる文乃に、太郎ばバツが悪そうな顔になる。

「実は、高校時代にお前にそっくりな顔をした菊川という女にいじめられてしまってな」

高校時代、同じクラスメイトだった菊川は、積極的に悪口を広め、太郎を孤立させた。妹分と同じ顔をした女からの仕打ちに、太郎はすっかり精神をやられてしまい、同じ顔をした文乃とも会うのを避けていたのである。

それを聞いて、文乃は怒りの表情を浮かべた。

「もう。私は菊川さんと別人だよ!」

「わかっているよ。でも、妹みたいなお前と同じ顔をした奴から悪口言われ続けてみろよ。メンタルに来るんだよ」

そう弁解すると、太郎は改めて文乃と向き合う。

「今まで放っておいて、悪かったな」

「ちゃんと謝ったら、許してあげる」

二人の間に、久しぶりに以前のような温かい雰囲気が漂うのだった。


「よし。亜空間からでるぞ。少し場所をずらして……よっと」

太郎が空間に穴をあけ、二人は亜空間から出る。そこは金庫室の中だった。

「うわぁぁぁぁ……こんなに一杯お金が……」

中を見回した文乃は頭がくらくらしてしまう。広大な金庫室中には、大量の札束が積み上げられていた。

「迷惑かけたな。好きなだけ取っていいぞ」

そういう太郎を、文乃はきっと睨みつけた。

「見損なわないで。ボクは泥棒なんかになる気はないよ」

「はぁ?」

それを聞いた太郎は一瞬キョトンとし、次の瞬間大爆笑した。

「はっはっはっは」

「何がおかしいの?」

プンスカと怒る文乃に、太郎は皮肉そうに告げた。

「いやなに、お前の真面目さが面白くてな、あいつらに裏切られて囮にされても、モラルを守りたいのか?」

「自分の矜持の問題だよ」

胸を張って彼女は言う。どんなに貧乏をしていてもモラルを失わない文乃に、太郎は眩しい想いをした。もはや汚れきってしまった自分と比べて、その清廉さを羨ましく思ってしまう。

「ふっ。好きにすればいいさ。その真面目さが報われればいいんだけどな」

そういうと、空間に穴をあけて大量の札束を吸い込ませる。それだけではなく、顧客の貸金庫もすべて破壊し、中にあった宝石や金塊などもすべて奪っていった。

ジト目で見つめてくる文乃に、太郎は告げる。

「それじゃあ、またな」

そういうと、空間の穴を通り抜けて金庫室の外にでる。後に続こうとした文乃の目の前で、空間の穴は閉まっていった。

「ちょっと!ボクを閉じ込めるつもり」

「そのまま大人しく金庫室に入っていろ。その方が安全だからな」

そう言い残すと、太郎は空間の穴を閉じた。

「さて……と。金は奪ったから、次は菊川と銀行に落とし前をつけさせないとな。こいつらを利用するか」

そうつぶやくと、エネルギー切れで動けなくなっている警備ドローンを拾い上げる。

「傀儡魔法『マリオネット』」

ピーという機械音とともに、ドローンに、馬の蹄のような黒い印が刻まれた。

「本来は死体を操る術だけど、うまく機械にも効いてくれたな。奴らのプログラムを書き換えることができた。ついでに電気の代わりに魔力をチャージしたから、また一時間は動けるようになったぞ。さあ、お前たち。思い切り暴れて銀行を壊せ」

空間に穴をあけ、ドローンたちを外に出す。

「さて、後はあいつらに任せるか」

太郎はそういって、余裕の笑みを浮かべるのだった。


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