第3話 結婚式乱入

数日後

徹底的に破壊されつくされた機械の残骸が転がるアスファルト工場では、二人の男が正座させられていた。その周囲では、黒いスーツにサングラスの男たちが睨みつけている。

「おい。これはどういうことだ」

その中にいた、ひときわ狂暴そうな男が声を荒げると、この工場を任されていた、小山内長利とその父顔はビクっと体を震わせた。

「お、おい。息子よ。ちゃんと説明するんだ」

「わ、わからねえ。以前ここで働いていた太郎というやつが、変な力で機械をぶっこわし、従業員を逃がしたんだ」

狂暴そうな男はそれを聞くと、いらただし気に舌打ちした。

「ああん?そんな話信じろっていうのか。どうせお前たちが俺たちに黙って、機械を売り飛ばしたんだろう」

「ち、ちが……」

なおも弁解しようとするが、廻りの男たちに取り押さえられてしまう。

「いいか。うちの組がわざわざ金を出してアスファルト工場なんて作っていたのは、仕事や抗争で出た死体を始末するためだ。アスファルトに死体をまぜて出荷すれば、証拠も残さず死体を始末できる。お前たちにもそれなりの金も渡して、死体処理を任せてきた」

「は、はい。ですから、私たちも今まで何度も協力してきて……」

長利の父である社長がそう弁解するも、狂暴そうな男は首をふった。

「だが、機械が壊れたとなれば、それも終わりだ。残ったのは秘密をしっているお前たちだけだな」

鋭い目で睨みつけられ、小山内親子は震えあがった。

「安心しろ。殺したりはしねえ。だけど機械の金を賠償してもらうために、カニ漁船で働いてもらうぜ」

狂暴そうな男が顎をしゃくると、スーツの男たちが親子を連れていく。彼らは何事か喚きながら、工場から連れ出された。

「それはそれとして、従業員を逃がした太郎とかいう奴も落とし前をつけないとな。俺達に逆らう奴は生かしておけねえ」

狂暴な男は、太郎の履歴書を見ながら不気味に笑うのだった。


結婚式場

事務室では、太郎と夏美の結婚式の手配をしていた司会者が、動画をみて悦に入っていた。

「すげえ。こんなにバズっている。いよいよ俺も人気ヨウチューバ―の仲間入りかもな」

そう呟くのは、藤田博。太郎を嵌める計画をたてた同級生の一人である。

太郎と夏美の偽結婚式ドッキリ映像は、何十万人もの視聴者に視聴されていた。

一応英雄や夏美、出席者の同級生たちの顔にはモザイクが入れられていたが、太郎だけは顔が丸出しである。それだけではなく、テロップで太郎の個人情報も書き込まれていた。

それを見たコメントの中には「やりすぎだろ」「これ犯罪じゃ?」と太郎に同情するコメントもあったが、博は気にもしていない。

「いいぜ。もっと炎上しろよ。どうせあいつは無力な貧乏人なんだし、泣き寝入りするしかねーんだからな」

企業を相手にしたバイトテロ行為だと、炎上した場合何千万もの損害請求をされる恐れがあるが、相手が個人だとそんな心配はない。しかもこちら側に法曹界の大物の息子がいるとなれば、安心してどんな残酷なことでもできる。

「次はどんな企画をしようかな。金だけはもっていそうな地味女とホストの偽結婚式にするか。貯めていた結婚費用も巻き上げられるし、動画に挙げれば登録者も増える。我ながらいい商売を考えだしたもんだぜ」

彼らにとって太郎のようないじめられる存在は、何をしても反撃されない都合のいいおもちゃにすぎない。卒業して社会にでても、自らの金稼ぎとストレス解消の道具として利用するつもりだった。

そんな想像していると、部長から注意された。

「藤田君。いくら社長の息子だからといって、少しは仕事をしてくれないと困るよ。私は君の指導を頼まれているんだ」

40代の気の弱そうな部長は、おそるおそるそう呼びかける。しかし博はうるさそうに手を振るばかりで相手にしなかった。

「うぜぇなあ。俺は親父の後を継いで、この式場の次の社長になるんだぜ。お前たちはせいぜい俺のために働いていればいいんだよ」

そういうと、再びスマホに向きなおる。そのやり取りをみていた社員たちは、またかと思ってため息をついた。

(仕事しろよ……俺達ばかり働かせやがって)

(こいつのせいで、何件客からクレームが来たとおもっているんだ……)

心の中でそうおもっても、社長の息子である彼に対して苦言を言ったら、後でどんな目にあわされるかわからない。

そんな強い立場であることをいいことに、博は職場である結婚式場を使って、何度も太郎の時のように偽結婚式を挙げさせてその費用を巻き上げていた。

(くそ……このバカ息子が。結局は親の金と権力がすべてなのか……)

社員たちが絶望に浸っていると、博はさらにえらそうに告げた。

「来月の英雄と夏美の結婚式の段取りは、お前たちで全部ちゃんとしろよ。大臣もくる盛大な式なんだから、ミスなんてするんじゃねーぞ」

そういって新聞を広げたとき、ある記事が目に入った。

「小山内商事が倒産。従業員、経営者ともに行方不明……って、長利の所じゃねえか」

慌ててスマホを掛けるが、電話に出ない。

「ちっ。逃げたか。まああそこは反社ともつながりがあったと噂されていたブラック企業だからな。いろいろ後ろ暗いところがあったんだろう」

そういいながら、出席者名簿から長利の名前を消すのだった。



数日後

博の親が経営する結婚式場では、盛大な結婚式が行われていた。

金持ちの法務大臣の息子である浮田英雄と、人気アイドルグループの一人で大手時計製造会社の一人娘である時藤夏美の結婚式は盛大に行われ、大勢の出席者が招かれている。

この式場は太郎が偽りの結婚式をさせられた時と同じものがったが、今回は出席者のランクがちがう。

ちゃんと両方の両親がそろっており、英雄の父である現役の法務大臣が来ていた。

「この度はご良縁で~」

「こちらこそ。これからよろしくお願いします」

両家の交流もなごやかであり、壇上の二人も出席者たちから祝福されている。

「二人とも、おめでとう」

「夏美、きれいよー」

同級生たちの歓声があがるなか、二人ははにかみながら近いのキスをする

「夏美、きれいだぜ」

「英雄もかっこいいよ。二人で幸せになろうね」

二人は見つめ合い、微笑みをかわす。

この時までは、世界中で一番幸せなカップルだった。

「次は、新婦様からのブーケトスになります」

司会者の博の言葉に、同級生の女子たちが並ぶ。

「夏美、私に投げて―」

「ずるい。私だもん」

二人の幸せのおすそ分けにあやかりたい女子たちが、一斉に手をふりあげる。

夏美はにっこりと笑うと、ブーケを空中に放り投げた。

全員の視線が集中するなか、いきなり結婚式場のドアが開かれる。ブーケはその男の足元に落ちた。

「えっ?」

出席者がポカンとして、新たな闖入者を見つめる。

「くくく……ちょうどいい場面に現れたみたいだな」

ブーケを拾い上げたのは、真っ黒い鎧兜に黒いマントを羽織った、たくましい男だった。

「くははははは……さあ、復讐の始まりだ」

マントの男はそういって、ニヤリと笑うのだった。

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