第4話 式場破壊
いきなり現れた男は、腕を一閃する。
すると、腕から不可視の力が発せられ、結婚式場を薙ぎ払った。
「うわぁぁぁぁぁ」
いきなり強い力に引っ張られ、招待客たちが壁に叩きつけられる。彼らが座っていたテーブルが破壊され、乗っていた豪華な料理や飲み物なども床に散乱した。
腕の一振りで結婚式場をめちゃきちゃにした男は、満足そうな笑みを浮かべる。
「ふふふ。どうだ。俺が異世界で身に着けた空間魔法「引力」は」
今度は天井に向けて腕を振る。豪華なシャンデリアが落ちてきて、その破片が出席者たちを傷つけた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガラス片で豪華なウェディングドレスをビリビリにされた女が泣き叫ぶ。この結婚式の主役、夏美だった。
そんな彼女をかばって、英雄がたちあがる。
「て、てめえ。何者だ。俺たちの結婚式をぶち壊して」
怒り心頭に発する彼の前で、その男は兜を脱ぐ。その下から現れたのは、彼のよく知っている顔だった。
「てめえ……太郎」
「そうだ。久しぶりだな。この間の御礼をするために、きてやったぜ」
太郎はそういうと、凄惨な笑みを浮かべる。ようやく立ち上がった出席者たちは、その顔をみて背筋に悪寒が走った。
「なんだキミは!今日はめでたい息子の結婚式だぞ。それをこんなことをして……ぶっ」
怒鳴りつけようとした英雄の父である法務大臣が、太郎の腕の一振りで吹き飛ぶ。壁に叩きつけられて失神し、かぶっていたカツラが落ちてしまった。
「黙っていろ。雑魚が」
出席者たちをギロリと睨みつけ、重々しくつぶやく。次の瞬間、出席者たちの全身に強い重力がかかり、彼らは苦痛のあまりうめき声をあげた。
「て、テロリストだ……警察……」
法務大臣の秘書が助けを求めて必死に警察に通報している。太郎は冷たく笑うと、硬直している英雄たちに近づいていった。
英雄と夏美は逃げようとするが、足が床に吸い付いたように離れなかった。
「なあ。なんで俺にあんなことをしたんだ」
「あ、あんなこととは?」
「とぼけんな。夏美と共謀して、俺を嵌めただろう」
そう詰問された英雄は、必死に言い訳をした。
「わ、悪ふざけだったんだ。夏美の奴にそそのかされて、あいつと付き合うふりをして金を貢がせようって」
「ひ、英雄。なにいってんのよ。う、うそよ。太郎、信じちゃダメ。私はあなたを心から愛していたわ!」
英雄に売られた夏美は、みっともなくわめく。
「そうか……とりあえずお仕置きだ」
太郎が腕を振るうと、英雄の鼻に向けてパンチを振るう。
「や、やめ……ぎゃぁぁぁぁ」
バキ゚ッという音とともに、形のいい鼻が平たくつぶれ、豚鼻となる。英雄は鼻を抑えながら、地面を転がって泣きわめいた。
太郎が次に夏美に視線を向けると、慌てて弁解をした。
「ち、ちがうの。私は脅されていたの。俺と付き合わないと、何するかわからねえぞって。私は被害者なの」
追い詰められた夏美は、必死になって言い訳をする。
「……それなら、なぜわざわざ結婚式を挙げてぶちこわすような真似をした。俺に相談すればよかっただろう」
「そ、それは……そうだ!博にそそのかされたの。うちの会社が結婚式場を運営しているから、うまくやるからって」
ガラスで全身を切ってウェディングドレスを真っ赤に染めた夏美は、今度は博に責任転嫁する。
「てめえ!何言ってんだ。どうせなら偽結婚式をしたら面白いかもっていったのはお前じゃねえか」
「うるさいうるさい!ねえ。私は騙されていたの。許して……ギャッ!」
さらに弁解しようとした夏美だったが、体に激痛が走る。不可視の力により彼女の内臓が揺さぶられ、すさまじい腹痛が襲ってきた。
「あああああ……痛い!痛い!うえぇぇぇ」
下腹部を抑えてうずくまり、その場で吐き出した夏美に冷たい視線をむけると、太郎は次に博の前に立った。
「偽結婚式を企画したのは、お前か?」
「ち、ちがう。俺だけじゃない。みんなが企画したんだ。お前から金を巻き上げて、山分けしようってな。俺はただ、実家の結婚式場を貸しただけだ。許してくれ」
「つまり、俺を嵌めたのは同級生全員だったというわけだな」
太郎が周囲を見渡すと、おびえたような顔をした同級生たちと視線が合った。
「ち、ちがう。俺たちはただ、面白い見世物が見られるからって、参加しただけだ」
「そうよ。まさかあんなことがあるなんて思いもしなかったの。私たちは純粋に夏美とあなたの結婚をお祝いしようと思っていたわ。だから、許して!」
みっともなく命乞いをする同級生たちを見渡すと、太郎は冷たく告げる。
「もういい。お前たち全員死んでしまえ」
太郎が腕を振り下ろすと、結婚式場全体に3Gの重力がかかる。テーブルが宙に舞い、すべての料理が床にぶちまけられた
「ぐぎゃぁぁぁぁ」
結婚式の出席者たちは、老いも若きも立っていられなくなり、床に倒れ伏す。ギシギシと体のあちこちが軋み、肺が圧迫されて呼吸ができなくなる。
「……助けてくれ……」
「お、お願い。私たちが悪かったわ……」
集団の圧力でも、法律の権威でも対抗できない圧倒的な暴力を振るわれ、出席者たちはただひたすら慈悲を求めて命乞いをすることはかできなかった。
その無様な様子を見ていた太郎の頬に、冷たい笑みが浮かぶ。
このままなすすべもなく潰されるかと思われたとき、ふいに体中にかかっていた高重力が止んだ。
「ぐはっ……」
「ぜーはー」
うめき声をあげながら必死に空気をむさぼる彼らに、太郎の冷酷な声が響き渡る。
「このまま捻りつぶすのは簡単だけど、それじゃ面白くないな。お前たちにはもっともっと苦しんでもらわないとな」
そういうと、太郎は胸の前で両手を交差させる。
「追跡魔法『呪標(マーキング)』」
交差された手から発せられた黒い光が、出席者たちの首を貫く。脊髄に激痛が走り、彼らのうなじに馬の蹄のマークが刻まれた。
「ぐっ……何をしたんだ……」
うなじを抑えてうずくまる博に、太郎は告げる。
「これでお前たちの体には、自動で俺に位置を知らせる呪印が刻まれた。お前たちが世界のどこに逃げても、俺には一瞬で位置がわかる」
太郎が片手をあげると、再び出席者たちに刻まれた呪印に激痛が走る。それは不気味な黒い光を放っていた。
「覚悟しておけ。お前たちを簡単に殺したりはしない。お前たちが俺にやっていたように、これから集団の力を使っていびりぬいてやる」
そういうと、太郎は両手を高くかかげた
「手始めに、忌まわしいこの結婚式場も破壊しておかないとな」
腕を振り下ろすと同時に、再び不可視な力が結婚式場に荒れ狂う。激しい地震が発生し、すべての窓ガラスが一瞬で破壊された。
「やめろ!やめてくれ!」
この式場のオーナーの息子である博が必死に叫ぶが、太郎の破壊活動はやまない。
「はーーーっはっはっは。こんな式場なんて、潰れてしまえ」
太郎が手をふるたびに、見えざる巨人の手によって叩き壊されるように式場の天井が割れ、壁に穴があいていく。式場には壊れたコンクリートの破片が落ちてきて、出席者たちを傷つけた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「天井が落ちる!逃げないと!」
出席者たちは死にものぐるいで逃げようとするが、どうしても足が動かない。
出席者たちが生き埋めになりそうになったとき、太郎がパチンと指をはじくと、彼らを拘束していた重力が解除され、体が動くようになった。
「た、助けてくれ!」
「化け物だ――――!」
一目散に逃げていく彼らを、太郎は嘲笑いながら見送る。
「ははは……逃げろ逃げろ。いずれ、地獄の苦しみを味あわせてやる」
そうつぶやきながら太郎が結婚式会場をでると、そこには警官隊によって取り囲まれていた。
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