第4話 1940.07
夢の世界に入ると、頭の中に次々に情報が流れてくる。
が、ツーロン沖海戦の情報ぐらいだ。
あれからたいして時間が経過していない。
ジブラルタルの攻略が終わってからでもよかったのにな。
ちょび髭はカッカしている。
「フランコは「うん」と言わないのか。」
ちょび髭は一瞬動きを止めたが、振り返りもせずに言った。
「グデーリアンの言う様に攻め込むべきだった。」
この期に及んで常識を選択した様だ。
「カナリス大将だよ。」
ピクッとして振り返る。
「あの男がフランコに参戦しない様に吹き込んでいるんだ。」
「余は・・・」
顔が真っ赤になった。
暫く口がパクパクしていたが、声を発さずに落ち着きを取り戻した。
「フェーリックス作戦を発動する。」
スペイン攻略作戦だ。
「こちらから発砲しなければ、フランコは手を出さないだろう。」
多分・・・と心の中で付け加えた。
これでジブラルタルは動く。
「バルカンはどうした。
ドゥーチェが何か言ってきただろう。」
イタリアは去年アルバニアを征服した。
ギリシアが欲しくて攻略を持ち掛けてきたはずだ。
「ハンガリーとルーマニアは同盟した。
ブルガリアはもう少しだが・・・」
「ユーゴスラビアか。」
ちょび髭は険しい顔だ。
「押せば開く。」
こちらを見た。
「開いたら素早く入ることだ。」
怪訝そうだ。
「あそこは住人が多い。
大家を追い出すぞ。」
史実ではクーデターが起こる。
「なるほど。
・・・
膿を出しても良いのだがな。」
「それもありだ。
好きにすればいい。
だが小石を取り損なうなよ。」
クレタのことだ。
「ドゥーチェに船を出してもらえ。
そのくらいの恩はあるはずだ。」
ちょび髭の顔が曇る。
史実ではドゥーチェは艦隊を温存したが、結局自軍港内で多くを失っている。
「小舟で良いぞ。
それなら出すだろうし、あそこは小島が多い。」
小型艦は人数が少ないだけに結束が強く、そうなった時のイタリア人は積極的で勇猛だ。
またギリシアは海岸線が複雑で死角が多く、大型艦の運用に適さない。
「ふむ。」
ちょび髭は後ろ手に組んで歩き始めた。
計算を始めた様だ。
今回はこんなものかな。
しかし目覚めなかった。
ちょび髭を斜め上から見る様な構図になったと思ったら、はるか上空からの眺めに変わった。
それもTVのドキュメンタリー番組の様に地図はイラストになり、軍のマークや矢印が現れた。
これは解り易い。
イベリア半島を見ると、ハーケンクロイツがスペインに侵入して地中海沿いを進んでいる。
スペインの国旗マークがどうなるかと思ったら、国の色が薄紫に変わった。
ドイツ同盟国の色だ。
フランコは抵抗を諦めてちょび髭に屈したのだ。
これは予想していなかった。
スペインの戦力を使えるとは思わないが、空港を使えるのは大きい。
ジブラルタルから船のマークが出港しだした。
避難を始めた様だ。
イギリスのことだから最後まで抵抗するかと思ったが、ジブラルタルを完全に破壊して去っていった。
艦隊が失われた上にスペインが敵に就いた今、抵抗に意味は無いのだ。
ジブラルタルの上には赤いXが付いている。
この様子では港として利用するには何年もかかりそうだ。
転じてバルカン半島を見る。
アルバニアはイタリアの緑色だ。
ルーマニア・ハンガリー・ブルガリアは薄紫だ。
ユーゴスラビアが中立の白から薄紫に変わると同時にハーケンクロイツがオーストリアとハンガリーから侵入した。
クーデターは起きなかった。
ハーケンクロイツは半島東側のルーマニア・ブルガリアからもユーゴスラビアに侵入していて、その旗は南に転じてギリシアに侵入した。
ギリシア軍を示す旗はアルバニアとの国境沿いに多くあり、残りのほとんどはブルガリア方面の要塞線にあった。
同盟国・ユーゴスラビア国境沿いには全く軍が無い。
ハーケンクロイツはギリシアの無人の野を突進した。
たまにギリシアの国旗が現れるがハーケンクロイツとスツーカ(空軍マーク)で粉砕して行く。
イギリスの国旗が3個あったが戦うことなく後退を始めた。
しかしハーケンクロイツの追撃の方が少々早かった。
イギリス国旗は次々にハーケンクロイツに飲み込まれてゆく。
そしてアテネにドイツの国旗が立ち、国の色が薄紫に変わった。
すさまじい速さ、まさに電撃戦だ。
ハーケンクロイツは勢いを落とさない。
そのまま南下して海岸線を埋め尽くす。
するとスツーカがクレタ島の周りを飛び回り始めた。
ここで初めてハーケンクロイツの動きが止まった。
動いているのはスツーカだけだ。
クレタのイギリス国旗がだんだん小さくなってゆく。
近くにいたイギリス艦隊も小さくなってゆく。
逆にスツーカのマークが大きくなる。
ここに全ドイツのスツーカを集めた様だ。
それでもハーケンクロイツは動かない。
新たなイギリス艦隊が対岸のアレキサンドリアから出港すると、合わせたようにイタリアから艦隊が出港する。
イタリア艦隊は陸軍のマークも一緒だ。
ドゥーチェはちょび髭にしてやられたな。
クレタの周りで小さな火花がパチパチはじける。
新たなイギリス艦隊とイタリア艦隊のマークが急速に小さくなってゆく。
その周りにスツーカが群がると、イギリス艦隊の縮小速度が急激に上がった。
気が付いた時にはクレタ島にハーケンクロイツが出現していた。
スツーカに紛れて空挺降下をしたな。
ギリシアの海岸からはハーケンクロイツを乗せた船が続々とクレタに渡る。
イギリス艦隊に阻止する力は残っていなかった。
クレタは薄紫色に変わった。
すっと、ちょび髭のいる部屋に戻った。
「勝負所だぞ。」
ちょび髭がビクッとする。
私にとっては一瞬だがちょび髭には3週間ほどたっている。
「ユダヤ人は帰るべき場所を目指している。」
覚えていたか。
「アメリカには?」
「プレゼントを始めた。」
よしよし。
「ポルトガルは狙いどころだな。
U-BOATは展開したか?」
フランス・スペイン・北アフリカと、北大西洋にイギリスの輸送船が寄港できる場所は無い。
唯一の中立国、ポルトガルの海岸線は狭い。
楽に待ち伏せが出来る。
「余を誰と心得る。」
既に手筈済みか。
さすがだ。
「リビアは?」
「ドゥーチェが先走った。」
ちょび髭が苦い顔をする。
「パレスチナが混乱しているから案外上手く行くかもしれないが・・・
あいつ等は戦いが下手だからな。」
ギリシアでも散々だった。
「先にマルタだぞ。」
イギリス本国は遠く、アレキサンドリアを手薄にして増援を送るリスクは犯せないだろう。
「アルジェリアはなびいたか。」
フランス領だ。
ちょび髭に笑みが漏れた。
「イギリスが手伝ってくれたからな。」
ドイツとは戦争の結果だが、イギリスは闇討ちしたのだ。
フランス人の逆鱗に触れたか。
敵の敵は味方。
ドゥーチェは面白くないだろうが、知ったことか。
「アシカは大人しくさせておけよ。」
ちょび髭は片眉を上げる。
「必要あるまい。」
「アイルランドとスコットランドは独立したいだろうな。
生活に困窮すれば、、、」
「なおさらだ。」
ちょび髭は無表情になっている。
考え始めたな。
またスウッと空に浮かんだ。
さてポルトガルは、と思ったら嫌な感じがした。
落ちたら目が覚めてしまう。
そう思ったら目が覚めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます