第3話 最後の弟子になった話(+1)
看護師免許を取った。一年ほど働いた。
その間、なんとまぁ、患者の暴力対応の多い事多い事。勤務先がなんともまぁ、県の最下位病院の為、どこでも強制退院にされるレベルの患者がぽんぽこぽんぽこ入ってくるのと、どこでも強制退職になるレベルの看護師がぽんぽこぽんぽこ入ってくるのと、病院自体が古くてきったなくってそこにいるだけでストレスがかかるのと、ろくすっぽ診察してないのと、さまざまな要因が重なって病院内の治安が発展途上国並に悪くなった結果がこの様なのだ。
大体職員自体も患者と区別が付かないようなレベルの後期高齢者付近なのしかいないので、必然的に格闘戦となると病棟で一番若い僕が先鋒で大将となる。こんなもん普通にやってたら体がいくらあっても足りやしない。
そんなわけで、柔道場の門を叩く事にした。格闘技ならなんでも良かったのだが、子供の頃に嫌々柔道をやらされており、多少出来なくはないからだ。ろくな思い出もなく、トラウマはしっかりある感じなので誠に不本意ではあるが。
で。ネットで調べた結果、近所に柔道場がある為そこに見学に行く事ととした。
記載された連絡先に電話、見学のアポをとる。そして時間を指定され、ネットに書いてある道場の場所へ向かう。向かった先にはなんとも大きい瓦屋根の家。この家なら柔道場があってもおかしくはない。よし、たのもう。
力強くインターフォンを押す。流れる家族市場の音。この和風屋敷に合わねー音だ。
待つ。誰も出てこない。もっかい押す。鳴る。待つ。誰も出てこない。
何故。何度確認しても住所はここだ。
10回ほどその行動をループさせ、首を傾げ、目をぱちくりさせる。
家の前で永久に首を傾げていると、ご近所さんに誰何される。流石ど田舎。いきなりポリスじゃなくってありがとう。
ここまでの経緯を伝えると、どうやら柔道は市営の体育館で行われているらしい。なので、そこに電話をかけてみる。体育館の事務員が受話、柔道の先生に変わるように求める。が、「今は生徒に教えてるから電話に出れない。」そうで。
・・・なんとなく色々納得いかないまま首を傾げつつ、市営の体育館へ向かう。まぁ、生徒に教えている最中に席を外すのも無理な話か・・・。
で。道場に着く。一礼して、入場。
そこには、大きな道場。そして、多数の生徒がーーーーーーいなかった。
いたのは、人の良さそうなおじいちゃんーーー先生だろう。そして、丸々とした男の子ーーー小学生だろう。以上、2名。
予想外の光景に、固まる。
「おう、来たか。」
笑顔の爺さん。「この人数なら電話口に来れただろう・・・。」「住所一体どこの住所書いてんだよ・・・。」ものすごく言いたいことはあったが、全て口から出てこない。「失礼しました、やっぱ、やめときます。」何より先に言わなきゃいけない言葉は、多分、これなのだろう。
しかし、職業柄なのか、地の優しさからか、僕にはこのおじいちゃんを蔑ろにする事もできず・・・。
一通り受け身から何ができるか試された後、「小学生一人しかいない道場なんて、嫌です。」と最後まで言えず、流れに流されるまま、このお爺ちゃんーーー師匠の弟子となるのだった。
そして、最終的にこの小学生の男の子(師匠のお友達の孫)すら来なくなり、僕と師匠の二人ぼっちにされ、おまけに後々僕のせいで師匠は生死の境を彷徨うことになる事を、まだ誰も知らないのだった。
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