第2話 サプライズで家に来た警察の話(+1)

 休日の午後、昼過ぎ。昼早起きをした僕。

 カーテンを締め切った窓から感じられる外は、すっきりと空は晴れ渡り、秋晴れというものをしていた。

 冬を前に、絶好の離島のおでかけコンディション。やることは、ただ一つ。部屋で、ゴロゴロだ。

 勿体無いだって?んな事はない。

 離島なんて場所は、大して出かける場所はなく、あったとしても徒歩ではいけず、おまけに何曜日だろう何時だろうと気分で店を開けたり閉めたりするので、なかなかお出かけするのが難しいのだ。

 そんなわけで。紅茶を淹れて、ぼーっとする。良い、休日だ。

 ピンポーン

 休日を堪能する、トイレの床が腐ったボロアパートの僕の部屋のインターホンが鳴る。一体何の来客だろうか。通販はしていないし、尋ねてくるお友達・・・どころか、入島最初の飲み会で自分の碌でもない経歴をマルチ商法をやってる主催者にそのまま言ってしまったが為に、二度と宴には呼ばれず、残念ながらお友達自体この島には一人もいない。

 で、ドアスコープを覗く。崩したオシャレスーツに、色を染めたパーマの男。

「すいませーん。」

 そう言われて、

「はーい。」

 そう返す。次に、帰ってきた言葉は

「警察です。」

 ・・・警察ですか。そうですか、ドア・・・開けたくない。でも返事しちゃった以上、出ないとこの人たち、仲間を呼んで打ち壊しして来るからなー・・・。一体、どの件だろうか。この島では、まだ、何もしていない、はず。

 ガチャんこ、とドアを開け、ご対面。両腕をくっつけて差し出すべきだろうか。

「警察です。」

 そして、黒い皮の手帳を印籠のように見せつけ、二枚貝を開けるかのように、パカっとしてくれる。あぁ、いつもこんな事して来ないのは、制服を着ていたからで、わざわざこんな風に見せて来るって事は、刑事さんか。数年ぶりですね、お久しぶりです。やはりツーマンセルでいらっしゃいませ。

「あー・・・、はい。何ですか?」

「去年の今頃に出没した不審者を探してまして。」

 懐からボロボロの紙を私に見せる。そこには荒い、画像が。

 緑っぽいロングのミリタリーコート、猫背、低めの背、痩せた男。

 やばい。冷や汗が伝う。

 ・・・僕は、年中好んでいつも同じ格好をしている。ジーパンに、ワイシャツ。その上に緑のミリタリー風のロングコート。周囲の人間からも「すごいファッションセンスだね・・・。」と、定評があるが、機能面から考えて変えるつもりは一切ない。オシャレだし、そして何より、旅人とはどんな気候でも対応できるように、この手のファッションをするものなのだ。全国の警察の方々も街中でこのオシャレ旅人ファッションの私を見たら高確率で声をかけて下さる程、大人気でもある。

 というわけで。その写真を見た瞬間、固まる僕。これ・・・僕ですね。えぇ、どっからどう見ても、僕です。今度こそ両手を揃えて差し出しそうになる。

「去年の今頃、ここら辺に出たのですが、何かご存じありませんか?」

 ・・・去年の、今頃。去年の今頃の僕は・・・蝦夷にいた。ってことは、これ僕じゃないじゃん。あぶねー、思わずお縄につくとこだった。内心の慌てを表に出さず、会話を続ける。

「いや・・・数ヶ月前に引っ越してきたばかりなので知らないです。」

「あー、そうですか。どこからいらっしゃったんですか?」

「・・・北の、方から。」

「なんで、こんな所に。」

「仕事の関係で・・・、北に行ったり、首都に行ったり、古都に行ったり・・・。」

 やばい、半年おきに日本中飛び回ってる仕事なんて、怪しいことこの上ない。看護師だと尚更だ。免許証だって度重なる住所変更に耐えきれなくて後ろに紙が重なって増えていっている。

「そうでしたか。大変なお仕事何ですねー。何か、怪しい人物を見かけましたら、教えてください。」

 それ以上、突っ込まれる事なく、部屋のドアを閉め、お引き取ってくれる。

 ふー、と息を吐き、鍵を閉める。

 再びピンポーンと元気よくなるが、これは隣の部屋を刑事さんたちが訪問したのだろう。

「すいませーん、警察です‼︎」

 ドン、ドン、ドン、ドン、ドドン。

 いや、太鼓じゃあるまいし、元気よくノックし過ぎである。抵抗しないでとっととドア開けてよかったよ。


 ひと段落し、考えを巡らせながら、部屋で再びゴロゴロする。

 多分、僕の島にはない最先端のファッションセンスを島民が見かけて、お巡りさんにたれ込んだのだろう・・・。でも、それくらいでわざわざ家まで警察来るかなー・・・?

 右に左に、首を傾げる。で、思い当たる。

 なんか、先週の夜勤明け、昼間っから一人で港に行き、この島特有の雑な接客が売りのお店で海鮮BBQを行い、加熱しすぎた貝類を爆発させつつしこたま酒を飲んだ気がする。で、日の高い内から酔いに酔い、歌を口ずさみながら千鳥足で数キロ歩いて帰って来た記憶が無いけどある。

 まさかあれを誰かに奇異な目で見られたのだろうか。なんかご近所さんに挨拶したら塩対応された様な気もする。まぁ、こんなクソ田舎だ仕方ないだろう。と言うか、そうでないと困る。そうであってほしいのだった。

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