デスゲームって何?
それからどれだけ時間が経ったかはわからない。何度かチャイムが鳴っていたので、数時間は経ったのだろう。それでも動くこともせずジッとしていた。
コンコン、と誰かが背後の扉をノックする音が聞こえて、わたしは飛び起きて扉から距離をとる。後ろを振り向くと、扉の窓から羽間が心配そうにこちらを見ている。
「……なに?」
「あの、新田さんがグループチャットに顔を出してなかったから、心配になって探していたんです。教室に行ったら、朝出て行ったきり戻ってないと聞いて……」
「ああ、ずっとここにいたから」
「どうしてです?」
「周囲が、恐くて……」
わたしがそう言うと羽間は悲しそうな顔になった。
「ここを開けてくれませんか? 昼休みなので昼食にしましょう。新田さんの分もありますよ」
羽間はそう言って片手を上げる。扉で隠れて見えなかったが、惣菜パンの入ったビニール袋を持っていた。それを見ると空腹を思い出したのか、急激にお腹が空いてきた。
わたしは咳払いしつつ内鍵を外すと、羽間が控えめに入ってきた。
「お邪魔します」
羽間は袋の中を見せるようにわたしに差し出す。そこから二つのパンを取って座ると、羽間は正面に座りパンを一つ取り出して口にする。
わたしも一つを食べ始める。お互い無言で食べ続けていたが、一つ目のパンを食べ終わったところで、羽間に声を掛けた。
「羽間は昨日の話、どう思ってるの?」
「昨日の話って、デスゲームが始まっていてわたしたちの誰かが殺しているってこと?」
「うん」
「……デスゲームが始まっているかはともかく、田山さんが警戒した日に殺されたことを考えると、怪しいと思っています」
「そうだよね。羽間もわたしが犯人だと思ってる?」
「それは何とも言えないですね。皆さんは新田さんが怪しいと言ってましたけど、誰もが田山さんを殺すことが可能です」
「そうだよね。田山の住所はグループチャットに載せていたから、誘拐事件メンバーだったら誰でも知っているからね」
「はい。それにあれだけ警戒していた田山さんが、見知らぬ人を招き入れるなんて考えられません」
「確かに……」
「もしかしたら、新田さんが訪ねるより先に、誘拐事件メンバーの誰かが田山さんに会ったのではないでしょうか?」
なるほど、それなら辻褄が合う。田山が誘拐事件メンバーの誰かを招き入れて、油断しているうちに殺された。そして殺した誰かはわたしと鉢合わせないうちにさっさとアパートから離れたんだ。
「じゃあ、いったい誰が田山を殺したの?」
「それは分かりません。これからは特に周囲に気をつけないといけません。いつ、誰に殺されるか分かりませんから」
「デスゲームだから、ね」
「ええ」
「……ところで、デスゲームって具体的に何をするの?」
「……え?」
わたしの言葉に羽間がぽかんと口を開けて驚いている。わたしはドラマや漫画の題材になっていることは知っているが、それがどんなものなのか分かっていない。仮面の男の態度や植本の言葉で、殺し合いをするのはなんとなくわかる。
「えっと、わたしの知る範囲で説明するけど、いいですか?」
「うん」
「デスゲームはある一定の人間が決められた場所で殺し合いをして、生き残った人間が勝利するゲームです。殺し合いも様々で、人間同士が直接殺し合う場合や、デスゲーム主催者が用意したゲームにクリアしていく場合もあります」
「なるほど。今の状況だと前者になるのかな」
「そうかもしれませんね。そしてデスゲームに勝利すると主催者から多額の賞金を獲得します」
「多額っていくら?」
「数千万円とか一億円とかですかね」
「マジ‼︎ そんなに貰えるんだ!」
大金で喜ぶわたしを羽間が苦笑する。
「結構ぶっ飛んだ額ですよね。わたしたちが巻き込まれたゲームもそれくらい言ってましたね」
「そうなの⁉︎ あ、でも結局人が死ぬんだよね? ルールは知らないし、賞金目当てで殺されるのは嫌だな」
「先程から気になっていたのですが、ルールを忘れたわけじゃないんですか?」
羽間が確認するように尋ねてきて、わたしは意味が分からず首を傾げた。
「ルールを忘れる? 何言ってるの。仮面の男からルール教えてもらってないじゃん」
「あの、ルールなら教えてもらいましたよ」
「はぁ⁉︎」
羽間の言葉にわたしは素っ頓狂な声を上げた。仮面の男が死んだのに、どうしてルールを知っているんだ?
「だって仮面の男から聞いてないよ⁉︎ 部屋に入る前に言ってたの?」
「違いますよ。新田さん、個室にテレビがあったのを覚えていますか?」
「ああ。あのどこのチャンネルにも変わらないポンコツね」
「そのテレビがしばらくすると突然電源が点いて、仮面の男がルールの説明をしたのですが、見ていませんか?」
「はぁ⁉︎ そんなの知らない! 部屋の中を少し調べて何もなかったからベッドで寝てたけど、そんな音聞こえなかった!」
「結構な大きさのBGMだったので、シャワーをしていても気付くくらいだったんですけど……」
「わたしのテレビが壊れていたんじゃないの?」
「……そうかもしれませんね。では、わたしから説明しますね」
羽間はそう言ってポケットから生徒手帳とボールペンを取り出して、メモのところに『デスゲームのルール』と書き出した。
「まず、あのテレビで一人ずつに役職が決められました。自分以外を殺す『殺人者』。何も役職を持っていない『一般人』。誰が一般人なのかを一人知ることが出来る『証言者』の三種類です。『殺人者』と『証言者』は一人ずつですね」
「じゃあ、『一般人』は五人ってわけね」
「はい。『殺人者』は二日以内に誰かを一人殺さなければなりません。『殺人者』は全員殺さないと自分がルール違反となり殺されてしまうので、殺人を止めることはありません。他の人たちは『殺人者』を見つけて、殺さないといけません」
「えー、『殺人者』の正体が分かれば終わりじゃないの?」
「相手は命懸けなんですよ? 見つけただけでは襲って来ます。『一般人』と『証言者』は協力して殺人鬼を殺さないといけません」
「わたしが、人を殺すの?」
自分が誰かを殺さないといけない事実に、背筋が寒くなる。そんなわたしを羽間はジッと見た後、説明の続きをする。
「次に共通のルールですが、全員が一定の範囲までしか行動出来ません。その範囲を超えると向こうが仕掛けた爆弾が作動して爆発するそうです」
「爆弾⁉︎」
羽間の言葉に血の気が引くが、怯えるわたしに羽間が微笑む。
「大丈夫ですよ。あの首輪も外したんですから、爆発することはないです」
「あ、あれが爆弾だったのね」
「もし爆弾があったとしても、範囲外に近づけば警告があるようなので、それに気をつければ良いです」
「そうね。あとは何かあるの?」
「あとは賞金についてですね。賞金は一億円。もし『一般人』と『証言者』が勝利した場合、生き残った人たちで賞金を山分けです。『殺人者』は一人だけなので、賞金を総取りになります」
「じゃあ、『殺人者』は大金が目当てで、わたしたちを殺そうとしているの?」
「その可能性もあり得ますね」
羽間の言葉でわたしは頭を抱えた。
「つまり『殺人者』を殺さないと、ずっと命を狙われるってことになるのね」
「そうなりますね。しかも早く見つけないと、こちらの仲間がどんどん死んでいきます」
わたしは頭の中で整理してみる。玉木と田山が殺されて、わたしを含めて五人残っている。この中に殺人鬼がいるのかと思うと、羽間から少し距離を取ってしまう。
わたしの露骨な態度に羽間は苦笑いをして、生徒手帳とボールペンを仕舞った。
「新田さんから見れば、わたしも怪しいですよね。困ったことがあれば相談に乗りますので、スマホで連絡してくださいね」
羽間は袋を回収して教室を出て行く。誰を信用していいのかわからないわたしは、その背中を見送ることしかできなかった。
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