お出かけ
「こうして三人で買い物行くの久しぶりだよね」
「そうだね、事件が起こる前は毎日どこかへ出掛けていたのに」
「え? わたし抜きで二人で出掛けてりしなかったの?」
「するわけないじゃん。明良がいないとつまんないし」
「そうそう。明良が大変な目に遭っているのに、わたしたちだけで楽しめるはずないでしょ」
てっきりわたしがいない間は二人で遊んでいると思っていたのに、遊びに行かなかったと言われて、わたしの良心が痛んだ。わたしは誘拐事件メンバーと遊びに行ったのに、申し訳なくなる。せめて今日は二人の行きたい所を中心に周って行こう。
「まあ、外には遊びに行かなかったけど、面白い物を見つけたから、それで暇つぶしはできたかな」
「そうだね。難しいけど、スリルがあるし」
「え、何それ。わたしにも教えてよ」
二人が面白いことをしているのでわたしが尋ねると、二人は顔を見合わせてから困った顔をしていた。
「うーん、明良には難しいと思うから、やめたほうがいいよ」
「そうね。時間が経てば明良に説明出来るから、それまで待っててよ」
「分かったよ」
本当は二人の話題について詳しく知りたかったけど、これ以上聞いても喋らないと思って別の話に花を咲かせた。
しかし、最寄駅に近付くにつれ、なんだか気持ち悪くなってきた。電車に乗るまではなんともなかったのに、今は頭痛と共に眩暈、吐き気が襲ってくる。頭全体に響く痛みに耐えきれず、わたしはその場に蹲った。
「え、明良⁉︎」
「どうしたの? 顔真っ青だよ、大丈夫?」
あかねたちはしゃがんでわたしの顔色を伺う。
「ごめん、頭痛くて、気持ち悪い……」
「次の駅で降りて休もう。それまで我慢出来る?」
あかねの問いにわたしは小さく頷く。口を開くと大変な事になりそうだから。
電車の振動と乗客の声や生活音に敏感になり、ますます気持ち悪くなる。
次の到着駅がアナウンスされ、電車がゆっくり停車すると、あかねたちがわたしの両脇を抱えて降ろしてくれた。すると、あれだけ酷かった頭痛がスッとなくなり、吐き気もなくなって。
「え、あれ……?」
「明良、まだ気持ち悪い?」
急に消えた体調不良にわたしが首を傾げると、桃香が問いかける。
「それが、頭が痛くなくなったの」
「え? 吐き気は?」
「それも無くなった……」
「痛みの波が引いただけかも。念のため、近くのベンチに座っていて。わたし、飲み物買ってくるから」
あかねはそう言って自販機に向かって走って行った。わたしは桃香に連れられてベンチに腰掛ける。それからあの頭痛や吐き気が襲ってくることはなかった。
「明良、痛む?」
「ううん。全く」
「ストレスが溜まって体調崩したんじゃないの? 誘拐事件と殺人事件とかで疲れてたんだよ」
そう言ってあかねが水の入ったペットボトルを差し出した。わたしはお礼を言ってから封を開けて一口飲む。冷たい液体が喉に流れる感覚に、まだまとわりついていた不快感を拭ってくれた。
「そうかもしれないね……」
「今日は買い物やめて、早く家に帰ろう」
「その方がいいよ。今は落ち着いているけど、また具合悪くするかもしれないし」
二人の言うことはもっともなので、わたしは素直に頷いた。せっかく最寄り駅の一つ前の駅まで着たのに、二人には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「うん。そうする。わたし、トイレ行ってくる」
わたしは二人にそう告げるとトイレに向かい、手洗い場の鏡を見る。心なしかやつれているように見える自分の姿がおかしくて、乾いた笑いが漏れた。
二人がわたしを家まで送り、母に先程の体調不良を伝えたことで、わたしは病院に逆戻りするハメになった。医者に診てもらったが、異常は見当たらず精神的なものだろうと判断されて頭痛薬と吐き気止めを貰った。
それから家に帰ったのは夕方で、どっと疲れたわたしは、さっさと食事とお風呂に入ってベッドに潜り込む。
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