話し合い

 翌日、退院の準備をしている時に病室の扉をノックする音が聞こえた。

「思ったより早かったね。ファミレスで待っていても良かったのに……」

 羽間たちが来たのかと思い、扉を開けるとそこにはあかねと桃香が立っていた。あかねは眉間に皺を寄せてわたしを睨み、桃香は目に涙を浮かべている。

「あ、あかねに桃香? どうしてここに?」

「明良のお母さんから聞いたの! どうして連絡無視するのよ! 心配したんだから!」

「ご、ごめん。疲れて眠ったから連絡するの忘れてた」

「ふーん、わたしたちに連絡しないで、誰と約束してたの?」

「うっ」

 さっきのわたしの言葉を聞いていたらしい桃香の言葉が刺さる。黙っていても仕方がないので、二人に正直に話すことにした。

「例の誘拐事件メンバーと会う約束をしてるの。すぐそこのファミレスで話し合いをするつもり」

「何を話し合うの?」

「……ちょっと今の状況で気になることがあってね」

「ねぇ、わたしたちも一緒に付いて行ってもいい?」

「え? それは……」

 話す内容が内容なので、わたしが渋っていると何かを察した桃香があかねの腕を引っ張る。

「あかね、ダメだよ。きっと大事な話し合いをするんだから、別の席で待ってよう」

「待つって何を?」

「話し合い終わったら、買い物に行こう」

「そうそう。嫌な事続いているから、気分転換にしよう」

 二人の提案にわたしは嬉しく思っていると、スマホに着信が入る。通知を見ると羽間たちがファミレスに着いたと書いてあった。

「皆着いたって書いてあるから、もう行くね」

「待って、わたしたちも行く!」

「話は聞かなくても顔合わせくらいは良いでしょ?」

「それは大丈夫だけど、何で会いたいの?」

「んー、単に好奇心かな?」

「うんうん」

 特に断る理由もないので、二人を連れてファミレスへ向かう。

 ファミレスに入ってすぐ近くの席に羽間たちがいるのに気付き、そちらに向かう。羽間たちはわたしの後ろにいるあかねたちを見て不思議そうな顔をしていた。

「新田さん、この人達は?」

「わたしの友達。話し合いが終わった後、買い物に行くからって着いてきた」

「あかねです」

「桃香だよ」

「は、はじめまして。僕は──」

「あ、名乗らなくても大丈夫。SNSで顔と名前はわかっているから」

「え、そうなの」

 頭を下げて名乗ろうとした植本を、あかねは片手で制して自身のスマホを見せる。例のわたしたちの個人情報が書かれているサイトが開いていたので、石井がちょっと引いたような顔を見せる。

「じゃあ、わたしたちは別の席で待ってるから、終わったら声かけて」

「わかった」

 あかねたちは羽間たちに話をすることもなく、少し離れた席に座ってスマホをいじり出した。

 わたしは空いている席に座り、皆に視線を向ける。

「それで俺たちに会いたいって言ってたけど、どうしたんだ?」

「うん。田山が殺されたことで、田山の言っていたことが真実味を帯びてきたなって」

「誰かがわたしたちを殺そうとしているってこと?」

「そう。自分で考えたんだけど、あのデスゲームを開催しようとした組織が、わたしたちを口封じで殺しているんじゃないかなって」

 わたしは昨日考えた事を話してみた。羽間と中川はわたしの話に納得しているが、植本は困った顔をし、石井に関してはわたしを睨んでいる。

「確かにそれなら辻褄が合いますよね」

「そうだな。デスゲーム側からしたら俺たちは邪魔な存在だし、自分たちが捕まらない為に殺すのは納得だな」

「確かにその推理はありますが、一つ気にかかるところがあります」

「え、何かおかしいかな?」

「僕たちをデスゲームを組織が殺しているのなら、一斉に殺しませんか? 僕たちを誰にも気づかれずに誘拐する組織ですよ? 事故に見せ掛けて殺すことくらい容易く出来ると思いませんか?」

 植本の言葉に、わたしが昨日引っ掛かった違和感に気付いた。そうだ。組織なら全員まとめて殺せるはずだ。わたしが田山と一緒になっても難なく殺害出来るはず。

「じゃあ、新田の考えはハズレってことか?」

「いえ、デスゲームを組織ぐるみで行なっている推理は合っていると思います。ただ、玉木さんと田山さんを殺した犯人は別だと思っているんです」

「そんな、他にもわたしたちを殺す理由なんてありますか?」

「心当たりなら一つあります」

 羽間が尋ねると、植本は人差し指を立てて静かに告げた。

「植本、心当たりって?」

「……デスゲームが終わってないということです」

「どういうこと?」

「僕たちは主催者が殺されて監禁されたホテルから脱出出来たことで、デスゲームから解放されたと思っていました。でも、実際に場所は関係なくてデスゲームが始まっているとしたら……」

「何それ、意味わからない」

 植本の言葉にわたしは首を横に振った。ルールも聞いていないのにデスゲームをしろ。だなんて、無理な話だ。

「まあ、あくまで僕の考えです。たまたま不審者が襲った可能性だってあります」

「そうかな? わたしはこの中に人殺しがいるって方がしっくりくるんだけどなー」

 石井はいまだにわたしを睨みつけながら軽口を言う。まるでわたしが田山を殺したと思っているような視線だ。

「……わたしを疑ってるの?」

「まあね。よく言うじゃん、第一発見者が犯人だったりするって」

「わたしはそんな事しない‼︎」

 石井の人を舐めたかのような言い方に腹を立てて、わたしは机を叩いて大声を上げた。わたしの行動にファミレスにいた人たちがこちらを振り向き、訝しげな視線や小声で何かを話している。

「……気分悪いし、もう帰るね」

 自分で呼んでおいての態度ではないのはわかっているが、これ以上ここにいたくない。下手をしたら石井を殴ってしまいそうだ。そうなれば中川も黙っていないだろうし、喧嘩に発展するだろう。そこでわたしたちが誘拐事件のメンバーだと知れば、SNSに不名誉な動画が投稿される。そんな最悪の状況を避ける為、石井をもう一度睨んでから席を立ち、離れた席で待っていたあかねたちに声をかける。

「お待たせ、話が終わったよ」

「おつかれ! あれ、どうしたの?」

「別に」

 不機嫌なわたしにあかねが声を掛けるが、それには答えずにいた。

「よし、今日は電車に乗って市外のショッピングモールで買い物しよう」

「あそこ、最近新しいアクセサリー店が出来たよね! わたしピアスが欲しい」

 わたしはあかねと桃香を連れてファミレスを出て、駅までたわいのない話をして電車に乗り込む。

 二駅先の市外のショッピングモールに行くから三人で吊り革を持ち、お喋りをする。

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