扉の先

 そんな事を考えながら、田山のアパートにたどり着いた。二○三号室と書かれた部屋のインターフォンを押す。しかし、いくら待っても返事がない。

「田山ー?」

 インターフォンが壊れているのかと思い、扉を何度かノックする。それでも返事がない。

 わたしが首を傾げてドアノブに手を回すと、抵抗なくすんなりと開いた。あんなに犯人がいるかも、と周囲を警戒していたのに、鍵を掛け忘れるなんて不用心過ぎない? わたしは苦笑しつつ、そのまま部屋に入った。部屋の電気はついておらず、一歩踏み出すと、固い何かを踏んづけた。わたしは慌ててスマホのライトで辺りを照らすと、足には催涙スプレーが転がっていた。それは田山が今日買っていた物だ。

「こんな物がなんでここに……」

 わたしがそれより先をライトで照らすと、人の足が現れた。黒いソックスにチェックのスカート、田山が着ていた物と同じだ。

「田山? こんなところで何してるの?」

「……」

 わたしが声をかけるが、田山からの返事はない。わたしは嫌な予感がしつつ、壁の電気スイッチを探して電気をつけた。

 室内はすぐに明るくなり、一瞬わたしは眩しさで目を瞑る。明かりに慣れた頃にゆっくりと目を開けたが、わたしはその選択に後悔した。

 先程の足の正体は田山のものだった。しかし田山の様子がおかしく、泡を吹いて倒れている。目はカッと見開き、両手は首元を掴んでいる。よく見ると、首元には細いロープが巻き付けられていて、それから逃れようと掴んでいたのだ。周囲は鞄が倒れていて、中身が転がっている。

「た、田山……」

 わたしは田山に近付いて首元に触れた。まだ温もりを感じるが、その首は脈打っていなかった。

 嘘、死んでるの……?

「ど、どうしよう。だ、誰か……。きゅ、救急車」

 わたしはパニックになるが、とりあえず助けを呼ぼうと震える指でスマホを操作する。たった三桁の数字がうまく打てない。ようやく打てた一一九の電話に出た救急隊員にも、上手く言葉が伝えられず、状況や住所を伝えるのにだいぶ時間を使ってしまった。

 そして連絡してから数十分後、アパートの前に救急車が止まり、二人の救急隊員が田山の様子を見たが首を横に振る。

 それは田山が死んだ事を示して、わたしは足元から崩れる感覚と共に意識を手放した。

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