対策

「俺たちは同居しているから、大丈夫だな」

「うん。わたしを守ってね、星矢♡」

 石井は頭を撫でる中川に抱きつき、甘えた声を出す。

「では、僕は羽間さんと一緒に過ごしますね」

「え? でも、お互い距離が遠いから難しいですよね?」

「それなら通話アプリでテレビ電話をするのはどうでしょう? どうしても一人で行動する場合は、電話して周囲に危険がないのか見張るんです」

「なるほど。片方が目撃者になりますね」

 植本の提案に羽間が納得する。

「まあ、なるべく一人で行動しないで、防犯対策もした方がいいかも」

「そうですね。今日、防犯グッズ買いに行きます」

「あ、それならわたしも行きたい!」

 羽間の言葉に石井が手を挙げて参加の意志を告げる。

「そうだな。自衛出来るものは、あった方がいいし」

「わたしも防犯グッズ欲しいかも……」

「それでは、これからみんなで買いに行きます?」

「そうね。その方がいいかも」

 全員の意見が一致したので、わたしたちはカラオケ店から出て、身を守れる物がないか色んな店に足を運んだ。防犯ブザーに催涙スプレーなど、自分たちが扱いやすい物を選んで購入した。

 わたしも防衛の為に手頃な商品を見てまわる。

「他に何かいる?」

「犯人をとっ捕まえるロープとかは?」

「拳銃持っている相手に危なくない?」

「でも身柄を拘束出来れば安全じゃん」

 石井の言葉も一理あったので、念のためにと手錠と防犯ブザーを購入し、防犯ブザーはスマホに付けていつでも鳴らせるようにした。そして手錠と一緒に制服のポケットに入れて常に持ち歩くことにした。

 羽間と植本は二人で相談しながら十徳ナイフや催涙スプレーなどポケットに入れやすいものを購入していた。

 中川は護身用かサバイバルナイフを、田山は気になる防犯グッズや非常食を片っ端に買い込んで、鞄に詰め込んでいる。

「これだけあれば、大丈夫ね」

「え、非常食ってアパートから出ないつもり⁉︎」

「ええ。事件が落ち着くまでは、部屋にこもっているつもり」

 田山の言葉にわたしは一緒に暮らす約束をしたことを後悔する。もしかしたら、使いパシリになるかもしれない。

「そんなことして、単位足りなくなりませんか?」

「その時は何とかするわよ。今は留年より自分の命が大事だし」

 羽間の質問を田山は強い意志を見せて答える。

「田山、おおげさー」

 けらけらと笑う石井を田山が睨むが、石井は全然気にしていない様子だった。

 田山とは正反対にまだ何も買っていない石井が、何にするか考え込んでいると、中川が肩を叩く。

「ルリカは必要ねぇよ、俺が守るんだからな」

「嬉しい、星矢〜♡ わたしを守ってね♡」

 購入したサバイバルナイフを見せる中川に、石井が歓喜の声を上げて抱きつく。

 全員が必要な防犯グッズを買い終えて、ここでお開きとなった。

「じゃあ、わたしは一旦帰って着替えを取りに行くから、あとで住所を教えて」

「ええ。分かったわ」

「とりあえずここで解散だな」

「それでは皆さん気をつけて」

「変なフラグ立てないでよー」

 そこから全員と別れて、わたしは帰路に向かう。田山の話で不安が伝播したのか、家に着くまでスマホの防犯ブザーを離せずにいた。

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