救出
羽間を先頭に手入れがされていない道を歩くが、雑草が生えまくっている為、歩くたびにチクチクと足や太腿に痒みに近い痛みが走る。それでも羽間が道を覚えていたおかげで、すぐに国道へ辿り着いた。とりあえず、怪我をしている玉木を側の木に寄り掛からせて、休ませてから周囲を見渡す。ここまで来ると日光のおかげで周囲が見やすくなっていたが、国道以外に目につく建物は、あの廃ホテル以外は見当たらず、木々と遠くに山々が見えるだけだった。
「近くに民家はないな……」
わたしと同じことを中川がキョロキョロと辺りを見回しながら呟いた。
「玉木さんのことを考えて、車が通るのを待ちませんか?」
「そうしてもらえると助かる。正直、助けを呼ぶ場所が分かっていないのに、歩き続けるのは、辛い」
羽間の提案に玉木が渋い顔をして同意する。
「確かにそうですね。ただ、僕たちが逃げたことを知ったデスゲーム側の人たちが、後を追ってこないかが心配ですが……」
「植本の言う通りね。あっちは武器を持っているし、追手が来たら太刀打ちできないわ」
「それなら、俺を茂みに隠してお前らは逃げればいい。その間に助けを呼べればいいだろう」
植本と田山の言葉に玉木は先程通った茂みを指差した。
「そんな、玉木さんを放っておけませんよ!」
「全員捕まるよりはマシだろう? 今話している間でも車が一台も通ってないんだ。……俺の言うことが聞けないのか?」
羽間が玉木を心配するが、そんな羽間に有無を言わせない低い声で睨みつける。その態度に委縮したのか、羽間は目を伏せてそれ以上何も言わなかった。
「確かにこのまま待っていても危ないよね。早く助かりたいし、わたしと星矢でこっちから車が来ないか探してみるね」
「そうだな。ここで突っ立っていても時間の無駄だしな。ちょっくら行ってくるわ」
中川がそう言うと、腕に絡みついている石井を連れて国道を歩き始めた。
「それなら、反対側も歩いて車を探した方が早いわよね。新田さん、一緒に探しましょう」
「え、ええ。そうね」
中川たちを見送っていた田山がわたしに声を掛けてきた。確かに助けを呼ぶのが最優先の状況なので、断る理由がないわたしは頷いた。
「では、僕と羽間さんで玉木さんの様子を見ています」
「そうですね。やっぱり玉木さんを放っておけませんから。追手が来たら、わたしたちも茂みに隠れたら良い話ですしね」
「……勝手にしろ」
玉木はため息をつきながらそっぽを向く。
「じゃあ、行ってくるね」
「三人共、気を付けて」
「はい、田山さんと新田さんもお気をつけて」
植本の言葉を背にして中川たちとは反対の方へ歩き出した。山に向かって伸びている国道は上りとなっていて、下りを選んだ中川たちに軽い殺意を覚えながら、歩いて行く。
「……わたしたち、助かるのかしら」
「助かるでしょう。早く車を見つけて、皆を安心させよう」
唐突に呟いた田山の言葉に、根拠はないけど肯定した。そうしないと、田山の不安がこっちにも移りそうだったから。
「そうよね、それか中川たちが見つけている場合があるものね」
わたしの言葉に安心したのか、強張っていた田山の表情が少し柔らかくなった。
調子が良くなった田山から国道へ視線を移すと、遠くの道から何かが動いている。ゆっくりとだが徐々にこちらに向かっているのが大型トラックだと分かった途端、わたしたちは車道の真ん中に飛び出して両手を振りながら叫んだ。
「止まってください‼︎」
「お願い、止まって‼︎」
こんな人気のない場所にいるわたしたちを不審に思ったのか、大型トラックは少し離れた場所で停止した。わたしたちは大型トラックに走り寄り、運転手側のドアに向かうと、窓を少し開いて一人の男性が顔を出した。
「なんだ、どうしたんだ?」
「お願い、助けてください! わたしたち、誘拐されて逃げて来たんです‼︎」
「は? 誘拐?」
田山の言葉に運転手は首を傾げる。
「少し離れた場所に怪我人もいるんです。警察と救急車を呼んでくれませんか?」
わたしが来た方を指差して必死に説明をすると、運転手は少し唸った後に隣の助手席に視線を向けた。
「どんな状況か分からないから、とりあえず案内してくれないか? あんたたちの様子を見ても、嘘を言っているようには見えないからな」
「分かりました。ありがとうございます」
「やったわね、新田さん」
「うん!」
わたしと田山は顔を見合わせて手を取り、助けてもらえる相手に出会えたことを喜んだ。運転手に頭を下げてから、助手席に乗せてもらうと、先程より遅い速度でトラックが走り出した。わたしたちが羽間を見逃さないように目を凝らしていると、トラックに気付いたのか、羽間が手を振ってトラックを止めようとしている。
「あそこに怪我人がいます」
「分かった。ちょっと待ってろ」
わたしが羽間を指差すと、運転手は羽間の側で停止し、運転席から飛び出した。わたしたちも一緒に降りて羽間に駆け寄った。
「怪我人がいるって聞いたが、どこだ?」
「はい、こちらです」
運転手の問いに羽間が茂みを掻き分けると、木の幹に寄りかかっている玉木と世話をしている植本、その横でぐったりとしている石井の姿があった。石井の横で中川が手を握り、辛そうな顔をしている。
「え、何で石井が倒れているの? まさか追手が来たとか?」
石井も倒れていることに、まさか仮面の男の仲間が襲ったのかと、血の気が引いた。
「新田さん、大丈夫。追手はいないから」
青ざめたわたしに植本が優しい声で落ち着かせる。石井の隣にいた中川が申し訳なさそうに小声で説明し始めた。
「……ルリカは車を探している途中、貧血で倒れたんだ。攫われてから飲まず食わずだったし、元々こいつ病弱なんだ」
「中川さんは、石井さんを担いでここまで引き返したんですよ」
「なんだ、そうだったのね。でも、早めに病院に行った方がいいわね」
そんなやり取りをわたしたちがしていると、話を聞いていた運転手は、サッと顔を青ざめる。
「これは大変だ。連絡は俺がするから、お前たちはここで待ってろ」
そう言うと男性は慌ててトラックに戻ると持っていたスマホで連絡してくれた。数分後、スマホと数本のペットボトルを持って運転手が戻って来た。
「今から三十分後に救急車とパトカーが来るそうだ。もう大丈夫だから、安心しろ。ほら、これでも飲んでくれ」
男性がペットボトルを差し出したことで、恐怖と緊張で忘れていた空腹と渇きを思い出した。男性からすぐにペットボトルを受け取り、久しぶりの飲み物をすぐに開けて口にする。
それはいつも飲んでいた飲料だったが、今まで飲んだ中で一番美味しく感じた。
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