怪しいスマホ

「ねぇ、誰かスマホを二台持ちしてる?」

「俺はこれだけだぜ」

「わ、わたしも……」

 誰も自分の物だと言わないので、一番近くにいたわたしがそのスマホを拾い上げて、画面をタップする。そこにはパスワードも待ち受け画面でもなく、黒い画面に赤い文字で『解錠しますか?』と表示されていた。その文字の下には『はい』『いいえ』とタップできるようになっている。

「どうした?」

「何か変な画面が出たんだけど……」

 声を掛けてきた玉木に私はスマホの画面を見せた。

「えーと、『解錠しますか?』だって? これ、あの仮面の男のシステム用スマホじゃないのか?」

「解錠ってどういう意味でしょうか?」

「もしかして扉に鍵が掛かっているとか?」

 石井がまだ触っていない玄関を指差す。玄関ホールと同じく豪華な木製の扉があり、そこから外の様子は分からない。

「それか外に罠を仕掛けているかだな」

「もしかしたら、この首輪が外れるかもしれません」

「そんな上手くいくか?」

 それぞれが自分の考えを口にするが、答えは出ない。それに痺れを切らした玉木が大きく息を吐いた。

「もう、考えても仕方ないだろ? さっさと押そうぜ」

「あ、ちょっと」

 わたしが止めるより先に玉木がスマホの『はい』にタップした。

 すると、甲高い機械音があちこちで鳴ったかと思うと、首輪が音を立てて外れて地面に落ちた。

「と、取れた」

「これで建物から出ても問題ないよね?」

「おそらくな」

 首元を触って一番の危機を排除したことで、みんなの顔に安堵の表情が浮かぶ。

「このスマホから連絡は取れないんですか?」

「ダメだ。連絡機能はどこにもない」

 植本の言葉に玉木がスマホを操作していたが、首を横に振った。確かに『はい』を選択してから何をしても画面は動かない。一度電源を落として、再起動しても表示が変わることはなかった。

「じゃあ結局、国道まで歩いて助けを呼ぶしかないね」

「玉木は他の奴とここに残るか? 歩くの辛いだろう?」

「いや、まだデスゲームを企む奴が近くにいるかもしれない。そんな奴らの息がかかっている建物にいたくない」

「そうよね。じゃあ、全員で出ましょう」

 田山がそう言って玄関を押すと、扉は抵抗なく開いた。こんなにすんなり開いたことに開けた田山も驚いていたが、すぐに外に出て周囲を見回した。

「大丈夫、何もないわ」

「よし、行くか」

「わたし、国道まで案内します」

「羽間さん、よろしくお願いします」

 羽間が恐る恐る片手を上げると、玉木に肩を貸した植本が頭を下げて出発するようお願いする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る