2章

最悪な出来事で繋いだ縁

 トラックの運転手が呼んだ警察と救急車が到着し、わたしたちは事情聴取と軽い検査を受けた。

 玉木の足は全治一ヶ月と診断され、生活は出来るけど松葉杖が必要不可欠となった。石井は点滴を打ったことで体力が回復し、いまでは元の調子を取り戻していた。残りのわたしたちは軽い栄養失調と判断されて一日入院となった。

 その間に知ったことだが、警察がわたしたちの証言で廃ホテルに向かうと、地下室と仮面の男の遺体を発見したという。仮面の男は同じ市内の男子高校生だと発覚し、どうしてわたしたちを誘拐したのか調査しているとのことだ。そして玉木を撃った拳銃は未だ発見されていないらしい。

 わたしたちを攫った理由が分からなくてもやもやとするが、とりあえず悪夢から抜け出せた事に安堵する。

「ねぇ、これも何かの縁だから連絡先交換しない?」

「縁って、最悪な縁だと思うけど?」

 全員が病院の休憩室で集まっている時に石井がスマホを見せながら提案する。そんな呑気な石井の姿に田山がため息をついた。

「俺はルリカに賛成。その方が楽しいからな」

「僕も賛成です。多分、一緒にいることが増えると思いますので」

「何で?」

 植本が賛成するとは思わなかったので、わたしが尋ねると植本は休憩室のテレビのスイッチを押した。

「ニュースを見ていませんか? 僕たち、有名人になってるんですよ」

 植本がチャンネルを操作すると、ワイドショーが流れている番組を見つけた。そこには『高校生複数誘拐事件‼︎』とのタイトルと共にわたしたちのことが報じていた。

「同じ市内の高校生が同時に複数誘拐された事件ですが、彼女たちは何故事件に巻き込まれたのでしょうか?」

「そうですね。七人はこれと言って接点がないことから、無差別に選んだと考えられますね」

 女性アナウンサーの質問に対してコメンテイターが、ボードに表示されている情報を提示した。わたしたちの顔写真と名前、高校名が記載されている。

「無差別ということですが、犯人の動機は何なのでしょうか?」

「彼女たちは『デスゲームを強要された』と言っていることから、彼女たちが殺し合いする様子を撮影し、殺人動画を配信する予定だったのでしょう」

「なるほど。犯人は死亡していますが、同じ男子高校生の犯行ということです。彼だけで犯行は可能なのでしょうか?」

「まず不可能ですね。高校生複数人を誰にもばれずに一人で誘拐することは出来ません。単独ではなく、複数人での犯行だと考えられます。犯人が殺害されたのも、仲間内で揉めて殺された可能性がありますね」

「では、この事件についてもう一度振り返ってみましょう」

 女性アナウンサーが事件の発端を語り始めたところで、植本はテレビの電源を落とした。

「やばっ、こんなことになってたの?」

「確かに大騒ぎにもなるわよね」

「ねぇ、テレビでこれだけ騒いでいたら、SNSってもっとやばいことになってない?」

 テレビに自分たちの誘拐事件が全国ニュースに報道されていて、現実離れ過ぎる状況に呆気に取られる。そして石井の言葉に田山がスマホを操作し始めた。

「うわ、本当だ。SNSでもわたしたちのことが書かれているわ」

 田山がそう呟くので、わたしもスマホを操作してSNSを開いてみる。検索に自分の名前を入力すると、先程の事件の名前と自分の顔写真が出てきた。

「はぁ⁉︎ 何、勝手にわたしの個人情報を晒してるのよ‼︎」

 更にスマホを操作していると、事件についてまとめたサイトにわたしたち全員の個人情報が載っていた。名前と通っている学校名、個人でやっているSNSのリンクまで包み隠さずに貼られていた。

「うわ、俺ら有名人じゃ〜ん」

「野次馬根性、ヤバすぎ〜」

 同じサイトを開いたのか、石井と中川が爆笑しながらスマホを弄っている。それ以外は勝手に自分の個人情報を公開されて渋い顔をしている。

「……連絡を交換するのは賛成ですね。テレビのインタビューとか取材でマスコミに絡まれることが多くなりそうですね」

「そういうことになるな。それなら俺も賛成するわ」

 羽間の言葉に納得した玉木はスマホを片手に賛成し、満場一致で全員が連絡を交換した。

「もし面倒臭い奴に絡まれたら、情報共有出来るしな」

「堅苦しいなー。このメンバーで一緒に遊ぼう。きっと周りの奴の態度や行動にストレス溜まるから、玉木の足が治った辺りでカラオケ行こう!」

「お、いいな。俺、歌には自信あるぜ」

「まあ、そういうのも悪くないですね」

 他愛のない話をしながら、わたしたちは全員共通のグループチャットを作って登録した。そして次の日、とくに異常がなかった為、全員が退院をし、それぞれの日常に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る