犠牲者

 けたたましい音が聞こえて、わたしは文字通り飛び起きた。警報音が鳴り響き、一瞬自分がどこにいるのか分からず混乱していたが、部屋を見て眠る前に起きた出来事を思い出した。

 いきなり知らない場所に知らない人たちと閉じ込められたこと、司会者だと名乗る怪しい仮面の男にデスゲームを強制させられていること。

 自分の状況を考えている間も、うるさい警報音は止む事はなく、わたしはイラつきながら音源を睨み付ける。警報音は扉から聞こえており、扉の電子パネルの数字がゼロと表示されていた。

 音を止める為にわたしはベッドを抜け出して、扉に手を掛ける。あれだけびくともしなかった扉がすんなり開き、同時に警報音が鳴り止んだ。

 やっと部屋から出られることに安堵するが、仮面の男が待ち受けているかもしれないと思い、ゆっくりと扉を開ける。目の前は向かいの部屋の扉が見えたが、その扉は開いていて、部屋の中が丸見えになっている。

 他の人たちも部屋から出ているのかと、わたしは廊下に出て合流しようとした。

「……え?」

 部屋から廊下に足を踏み出すと、その光景にわたしは驚いた。他の人の部屋の扉は全部開いており、全ての部屋を覗いて見たが誰もいなかった。廊下にも誰もいないことから、あとは昨日の大広間にいるかもしれないと、自動ドアに向かう。こちら側にはカードキーを認証する機械は存在せず、人感センサーの前に立つと自動ドアは簡単に開いたので、大広間に入る。

 わたしの予想通り、大広間の中央に全員が輪になって佇んでいた。中央に何かあるのか、全員がそこを凝視している。

「ねぇ、どうしたの? いったい何が──」

 わたしが全員の元に近づくと、彼らの足元が赤く染まっている事に気が付いた。それが血だと知った時は、玉木の怪我が悪化したのかと思った。しかし、その輪の中にベッドのシーツを裂いて使ったのか、応急処置をしている玉木の姿がある。

 じゃあ、いったい誰が怪我をしているの?

 わたしは原因を知る為にみんなの輪の中に入って覗き込んだ。そこには仮面の男が頭を撃ち抜かれて死んでいた。発砲の衝撃で仮面の一部が破損しており、そこから見える顔は思ったより幼く、わたしたちと同じくらいの年齢に見える。男の目は驚いた表情をしていて、カッと目を見開いていた。

「ひっ!、な、何で?」

「知らない。扉が開くようになって、ここに来たらもう死んでいた」

 わたしの問いに田山が淡々と告げる。

「どうするんだよ! こいつが死んだら、俺たちはどうやってここから出られるんだよ!」

「玉木さん、落ち着いてください。とりあえず、この方が何を持っているか調べてみませんか? もしかしたら出口の鍵があるかもしれませんし」

 玉木が仮面の男を指差して怒鳴るが、植本は玉木を宥めて冷静に提案する。

「え、死体に触るの⁉︎ わたしは絶対に嫌だ!」

「俺も触りたくねぇ……」

「わたしも無理です……」

 植本の提案にわたし含めてほとんどの人が首を横に振る。それを見て植本は大きなため息をついた。

「仕方ありません。ここは言い出した僕が調べます」

 植本は死体の側にかがみ込んで死体に触ろうとする。

「待って!」

 植本がしたいに触る寸前に田山が呼び止め、いつの間にか取りに行ったらしいベッドのシーツを植本に差し出した。

「直接触るのは感染症にかかるかもしれないから、これを使って」

「そこまで頭が回りませんでした。ありがとうございます」

 田山に笑顔を見せて植本はシーツを受け取った。田山はその笑顔にどぎまぎとしながら顔を赤くさせていた。いつもだったら茶化していたけど、状況が状況だから、見ないふりをすることにした。他の人もそれどころではないから、わたしと同じ態度を取っていた。

 植本はその場でシーツを切り裂いて両手を覆うと、死体に合掌をしてからズボンのポケットに手を入れる。両ポケットを裏返しにして中に何もないことを全員に見せると、今度は上着のポケットを探り出した。

「あ!」

 植本が小さな声を上げてポケットから持ち出すと、一枚のカードキーと一台のスマホが出てきた。

 それを慎重に拾い、死体とは少し離れた場所に置く。それから内ポケットなども探っていたが、何も見つからなかった。

「出たのはこれだけか」

「しかもスマホ壊れてんじゃん。使えなーい」

 石井がスマホを指差して残念そうに呟く。スマホの画面にはヒビが入っており、中の液体が漏れていて使い物にならない。

「じゃあ、あとはこのカードキーが使えるかどうかね」

「なぁ、気づかないのか?」

「何を?」

 玉木の問いに中川が首を傾げる。

「……無いんだよ」

「は、何が無いんだよ?」

「あいつが俺を撃った時に使った拳銃がどこにも無いんだよ!」

 玉木の苛立ちを含んだ声に全員がハッとした。確かに死体は頭を撃ち抜いているのに、その手に拳銃を持っていない。それどころか、拳銃自体がどこにもないのだ。

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