仮面の男

「はぁ、面倒くせぇな。憶測ばかり言っても仕方がねぇだろ? 扉なんかこじ開ければいいだけじゃねぇか」

 そう言って玉木は扉の一つに近づき、隙間に指を挟んで力を込める。

「流石に無理じゃない?」

「やってみないとわからないだろ?」

 石井の問いに玉木が口角を上げて、掛け声と共に指に力を入れた。

 すると開かないと思っていた扉はすんなりと開いたので、見ていたわたしたちは驚きの声を上げる。

 自分の力で開けた玉木は誇らしげな表情を浮かべるが、扉の外を見て固まる。

 そこには拳銃を構えた白い仮面を被った黒いスーツを着た男が立っていたからだ。玉木が何か言う前に大きな音が響く。それは仮面の男が玉木に向かって発泡した音だと気が付いた時には、玉木はその場で跪いていた。

「ぐっ、うぅ……」

 玉木が呻きながら右脚の太腿を両手で抑えている。その指の隙間から少しずつ血が溢れて白い床に赤い斑点が散る。

「う、うわぁ⁉︎」

 わたしの隣にいた中川が情けない悲鳴をあげて尻餅をついた。わたしもあまりの行動に声が出ずに動けないでいる。

「え、どういうこと?」

「撃たれたの⁉︎」

 ほかの人たちもわたしたちの状況を知ってどよめくが、仮面の男が拳銃を騒ぐ人たちに向けると、ピタリと静まり返った。

「全員、中央に集まってもらおうか」

 仮面の男は玉木の頭に拳銃を押し当てて命令する。仮面の男の声はボイスチェンジャーを使っているのか、テレビでよく聞く耳障りな高い声をしている。仮面の男の拳銃が自分たちに向かないように大人しく中央に集まる。

 玉木も痛みに堪えて移動しようとするが、仮面の男が拳銃をさらに強く押し当てる。

「お前はそのままでいい」

 玉木はジロリと仮面の男を睨むが、下手に動くと命が危ないと察したのかそれ以上は何もしなかった。

「では、初めまして。俺はこのデスゲームの司会者だ。と言っても、お前たちの中には最初で最後の挨拶になるから、末長いお付き合いにはならないか」

 ハッと小馬鹿にするように仮面の男が言うが、誰も反応しない。いや、仮面の男を刺激すると何をされるか分からないから、全員黙視している。

「お前たちには、この空間と隣の部屋を使ってデスゲームをしてもらう。もちろん、お前たちに拒否権はない。逃げたり抵抗しようとすると、どうなるか分かっているだろ?」

 拳銃の安全装置に手を掛ける仮面の男に玉木は拳銃を見つめて荒い息を吐き出し、額からは汗が吹き出している。今にも殺されそうな状況に誰もが息を飲んで見守る。

「まだ準備が出来ていないから、デスゲームは明日からとなる。俺が入って来た場所にそれぞれ個室を用意してあるから、次の指示が出るまで大人しくしていろ。あ、ちなみに個室には一室につき一人しか使えないからな。二人が一緒の部屋に入れば、部屋から二度と出られないように作られている」

 本当かどうか分からないけど、ここは素直に従ったほうがいいかな。

 仮面の男が玉木を無理矢理立たせて、先程仮面の男が出てきた扉に入って行く。しばらくすると、

「こっちに来い!」と仮面の男が大声で叫ぶ。

 わたしたちは仮面の男の指示通り扉をくぐると、長い通路に八つの扉が並んでいた。扉は全て空いており、わたしは近くの部屋を覗き込んだ。

 部屋はビジネスホテルのような個室になっていた。シングルベッドに机と椅子、テレビが備え付けられている。

「おい、さっさと入れ!」

 仮面の男の言葉に驚いたわたしは、見ていた部屋に足を踏み入れてしまった。すると、空いていた扉が勝手に閉まり、ピーッという機械音が響いて施錠音が鳴った。

「え、嘘⁉︎」

 わたしは慌てて扉のノブに手を掛けるが、ガチャガチャと音を立てるだけで開かない。

「ちょっと、誰か開けてよ‼︎」

 わたしは扉を何度も叩いて抗議するが、返事はなかった。しかも防音設備がされているのか、扉に耳を当てても外の音が一切聞こえない。扉から出るのを諦めたわたしは一歩後退りをすると、扉に電子パネルが付いていて、時間らしき数字が表示されていることに気付いた。それはマラソンに使っているようなデジタル時計みたいで、数が減っていることからタイマーの役割りをしているようだ。

「これがゼロにならないと、開かないってこと?」

 時間になるまで部屋から出られないと予想したわたしは、腹いせに扉を蹴ってから部屋の中に視線を移した。パッと見た感じ、安いビジネスホテルのような造りをしているが、この部屋にもさっきの部屋と同じように窓はどこにも見当たらない。その代わり、タイマー付き扉とは反対側に扉が一つ見える。

 他にはテレビにシングルベッド、備え付けの机に一脚の椅子が付いている。

 何かこの建物に関する手掛かりがないかテレビの側にあったリモコンを手にして、テレビの電源を入れようとするが反応はない。リモコンの蓋を開けたけど、電池があったので、電池切れかテレビが故障しているのかも。……いや、もしかしたら仮面の男が故意にテレビを壊している可能性もある。使う意味をなくしたリモコンをベッドに投げつけて、次は備え付けの机を見てみる。机には簡易なメモとボールペンが一つずつ置いているが、特に怪しいものはない。ベッドも先程投げたリモコンが置いてあるだけで、何の変哲もないものとなっている。部屋の奥に扉を開けるとシャワー室とトイレが設置されていた。

 試しに蛇口を捻ると水が出たので、お風呂には入れそうだ。

 ひとしきり探したところで、部屋には食料が見つからなかった。食料があれば、引きこもっていられたのにと考えたが、それを防止する為に置いていないのかも。

 食料は最初にいたホールの開いていない扉にあるかもしれない。デスゲームに参加しないと、食料を貰えないのかもしれない。ここは仮面の男の言う事を聞くしか……。

 そう考えて自分がデスゲームに参加する気になっている事に気がついて、その考えを消すように頭を横に振る。まだ全員がデスゲームに参加するとは言っていない。むしろ全員で協力すれば、あの仮面の男を捕まえて、この建物から出られるかもしれない。

 まずは参加するフリをしてから仮面の男を油断させて、他の人に仮面の男を捕まえる計画を話そう。

 わたしはベッドに体を預けてこれからどうするかを考えた。しかし、疲労と緊張のせいか考えがまとまらないうちに、うとうとと眠気が襲い、そのまま意識を手放した。

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