自己紹介と手掛かり
「わたしは
「はいはい。俺は
「ルリカで〜す。わたしと星矢は恋人同士だから、よろしくね」
「俺たちも同じだな。デートをして別れた後から記憶がない」
自己紹介の流れになっていたので、わたしも名乗ることにした。
「わたしは新田明良、わたしは自室で寝てから気付いたらここにいた。向こうの女と同じ制服を着ているけど知り合いじゃない」
わたしがアゴで羽間をさすと、羽間は慌てて挨拶をした。
「は、羽間優です。わたしもみなさんと同じですね……」
「僕もそうです。僕は
わたしが最後に起こした男もそう言って便乗する。そしてまだ名乗っていないガタイの良い男に全員が視線を向ける。
「……
面倒臭そうに呟いて名乗ったが、これによって最悪なことが分かってしまった。
「え、じゃあ誰もここがどこか分からないし、助けを呼ぶ連絡手段がないってこと?」
「助けって、まるでココが危ないみたいなことを言ってるけど?」
「じゃあ、なんでわたしたちはどうしてここにいるのよ? 目が覚めたら知らない場所で、知らない人たちと一緒にいるなんて変よ」
田山の言葉に石井が馬鹿にする態度を取るが、田山の次の質問に押し黙る。
「まるでドラマやゲームでみるようなデスゲームの導入みたいですね」
植本がそう呟くと、玉木がハッと笑う。
「あんた、賢そうに見えたが、随分ユニークな冗談を言うんだな」
「あながち冗談でもないですよ。皆さん、自分の首元に違和感がありませんか?」
玉木の嘲笑に植本が困った顔をしながら、自分の首元に指を刺す。植本の首には服の襟元で隠れて気づかなかったが、銀色の機械のようなものが付いている。何か作動しているのか、時折赤色のランプが点滅している。
植本に言われてわたしも首元を触ると、冷たく固い機械の感触がする。自分からは見えないが、触った感じ植本が付けている物と同じような形状をしている。そして全員に視線を向けると同じ首輪が付いていた。
「なに、これ……」
「くっ、外せねぇ!」
他の人たちも同じ首輪が付いていると気付き、外そうとする。わたしも得体のしれない機械を外したくって、両手で力を入れてみたがビクともしない。どう頑張っても素手では外すことが出来ない。
「無理に外さない方が良いですよ! こんな得体の知れない物、下手に刺激すると悪いことしかありません!」
無理矢理首輪を取ろうとする人たちに、羽間が必死で止める。その言葉に全員がハッとなり、首輪から手を離した。
「まさかこれが爆発する、とか?」
「何かの合図で首輪に内蔵されていた毒が、首筋に注入されて殺されるって展開、映画で見たことあるな」
田山が戸惑いながら口にすると、中川がぶっきらぼうに付け加える。
意識がない内に用途の分からない機械を付けられ、いきなり知らない場所に連れている状態に恐怖しかない。
ぶるり、と体が震えるが、それを他の人に知られたくないので、震えを隠すように両手で体を抱きしめる。
「とりあえず、何かあるか見てみないか? 何か手掛かりがあるかもしれねぇし」
「さっすが、星矢! わたしも星矢の意見に賛成〜」
確かにわたしと羽間で先に全員を起こしていたので、まだ部屋自体を何も調べていない。
「そうね。このまま何もしない訳にもいかないし、この部屋で待ってるだけは時間の無駄ね」
「手分けして探しますか?」
「とりあえず各々がテキトーに探せばいいんじゃない? 何かあれば声を出せばいいし」
わたしの言葉に納得したのか、全員が辺りを見回したり移動を始める。
わたしはその場で改めて部屋を見回す。部屋は全体が真っ白でだだっ広い。どこか施設の大ホールみたいな印象を受ける。ただ、部屋には窓らしきものが見当たらない、いや窓だけでなく扉もどこにあるのか分からない。
「扉がない……?」
「何言ってんだ。あそこにあるだろ」
わたしの呟きに玉木が呆れつつある場所を指差す。その先には中川と石井が壁を叩いている。わたしが彼らに近付くと、彼らが叩いているのは壁ではなく自動ドアだったことに気がつく。壁と同じ素材で出来ているため、一目では気づけなかった。
「駄目だ。全然反応しない」
「っていうか、こっちにセンサーがないのはおかしいでしょ⁉︎」
石井の言葉にわたしは上を向くと、本来ある感知センサーがどこにも見当たらない。扉の横に四角い機械があるが、ドラマでよく見るカードキーをかざして開ける物のように思える。
「ここに何かをかざさないと扉が開かないみたい」
わたしが機械の存在を二人に知らせると、二人は揃ってしかめっ面をした。
「あー、そうみたい。他はどうなってんの?」
石井がそう言って振り向くと、何かに気付いたのか急に走り出した。ちょうどわたしたちと反対側の壁を、羽間と植本が触っている。
「そっちにも自動ドアあった⁉︎」
「は、はい。ありましたけど……」
「こちらも開きませんね。どうやらカードキーが必要です」
石井の勢いに気圧される間と困ったように植本が答える。
こちらと同じような機械が自動ドアの横に設置されていて、それ以外に開ける方法がない。
それから全員で部屋をくまなく探したが、二つの自動ドア以外何もない。上を見ても埋め込み式のLEDライトがわたしたちを照らすだけだった。
「これ、本当に大変なことになってるんじゃないの?」
「そうだよな。窓もない密室に閉じ込められているし、俺たち誘拐されたのか?」
何もない事に田山が顔を青ざめると、中川も不安を煽るような発言をする。
「誘拐って、うちビンボーだよ? まあ、可愛いから攫ったっていうなら分かるけど……」
「わたしも普通の一般家庭だよ。誘拐だったら、身代金を用意しろと言われても、大金なんて出せないって」
石井がぶりっ子して自分の可愛さをアピールしているが、わたしは首を横に振って真面目に答える。
「家庭事情が関係ない誘拐って線はありませんか? 例えば、人身売買とか……?」
「じゃあ、この首輪は逃げた時に場所が特定するように付けた発信機ってこと⁉︎」
羽間の物騒な言葉に田山が首輪を掴んで騒ぎたてる。キンキンとした金切り声が、いまだに痛む頭に響く。
「やめろ、頭の痛みが悪化するから騒ぎ立てるな」
玉木は自分のこめかみあたりを押さえて、大きなため息をつく。
「田山さん、落ち着いてください。まだそうだと決まった訳じゃないのですから」
「そう、ね。騒いで悪かったわ」
植本が宥めると、田山は少し顔を赤らめて静かになった。田山も植本のことが気になっているらしい。
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