記憶

洋治とはじめは幼馴染で、いつもつるんでいた。はじめと違って洋治は明るくて、素直で行動力があった。大学を卒業してから洋治は夢をかなえるために東京に行った。一方ではじめは東京に行く勇気や目標もなく、地元に残った。そんな洋治をうらやむ気持ちがなかったとは言い切れない。自分よりも優れている友達をねたむなんて悲しいけどよくある話だ。もちろん、親友として好きな気持ちに偽りもない。ただ、どうしても洋治に対する邪念を捨てきれないでいた。そんな洋治が、今日突然、はじめの前に現れた。はじめは最初、洋治のことが分からなかった。それはしばらく会っていないということもあるけれど、どこか自分が知っているあいつではないような気がしたからだ。そして、はじめは今、その理由を知った。洋治は、本当にまったのだ。あいつは最初に「探し物をしている」と言った。自分を探しているのだと。はじめは最初それを軽くあしらおうとした。よくある「自分探し」だとか、そういうたぐいのものだろうと思ったからだ。でもそれは、洋治にとって言葉通りの意味だったのだ。洋治は本当に、精神的な意味でも、肉体的な意味でも、自分をなくしてしまった。だからこそ、はじめに探してくれと言ったのだ。はじめは後悔するとともに察した。

「あいつは、俺にも自分をなくすなって伝えたかったのかもな、、、」

「何の話?」

突然、降りかかってきた声にはじめは驚いた。振り返ると、、、洋治がいた。

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