6月

『だいすきなきみに』

君が泣くから、僕は泣き止ませようと必死になって、君の周りを意味なくぐるぐる回る。

何やってるのって笑ってくれる君が。泣き止んだ君の濡れた目が好きで、目元にキスをしてみたりする。

君が泣くから、君を笑わせたいと思うのに、もう走れない。

代わりに君の涙をぬぐうから、ねぇもう泣かないで。

(2023/06/08)


『汽車』

端を結んだ縄跳びの汽車が、シュッシュポッポと駅に着く。駅員で車掌の操縦士が、出発進行と笛を吹く。遮るものなど何もない明るい日差しの下、汽車はシュッシュポッポと音を鳴らして走る。

色んな駅に着いて乗客が入れ替わって。だけど汽車は私の前にはやって来ない。

決して、やって来ることはない。

(2023/06/15)


『未練』

視界の端で何か揺れた気がして振り返る。何もいない。

戻しかけた視界のやっぱり外側で、やっぱり何か揺れる。

気のせい。気のせいだ。

それが茶色っぽい色でふさふさの毛におおわれていて、くるりと巻いているように見えても。

私の腕の中で冷たくなったあの子を、忘れられない私の、ただの気のせい。

(2023/06/23)


『眩しい』

手を振る君がやけに眩しくて目を閉じた。

目を開いたら、目の前に君。「どうしたの?」なんて言う、君の目の中に僕がいる。

ごうごうと、血の音がする。君の声が聞きたいのに、僕には血の音しか聞こえなくて、だから、君を腕の中に閉じ込めた。

あぁ、どうか。君がずっと、ここにいてくれますように。

(2023/06/26)


『惚れ薬』

惚れ薬、なんて、この世にあるわけないじゃない。

甘い液体はただの砂糖水で、毒々しい色は食紅だもの。普通の食べ物しか入ってないわ。

良く分からない草も変な生き物の一部も、血液だって入っちゃいないんだから。

だからあなたもそうやって、私に愛を囁くふりは、もうやめてくれていいんだからね。

(2023/06/29)

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