『右手』

右手で捕まえたあなたを、左手にすら渡したくなくて、必死に握りしめていたのだけど、躓いた拍子にうっかり放してしまった。

あなたは私の手を抜けて、ふわりと浮かぶと、そのままふわふわと空に昇って行ってしまった。

見えなくなるまで見送る。何にもなくなったこの右手の中に、一体何を入れようか。

（2023/02/16）

『卵』

お腹の中、消化されずに残ってしまった卵を、そのままお腹で飼っている。

時折それはぐるぐる回ってゴロゴロ鳴いて、私に空腹を思い出させる。

はしゃいで時間を忘れている時も。涙に暮れて食べるどころじゃない時も。それには全く関係ないようだ。

今日もそれは、元気にぐるぐるゴロゴロ鳴いている。

（2023/02/20）

『ぐるぐる』

こん、と小石を蹴飛ばして、ころころ転がっていくのを眺める。

目につく全部を蹴飛ばして足元を綺麗にしたら、少しは気が晴れるかなと思ったけど、沈んだ気持ちは変わらなかった。

ぐるぐる靴で地面を混ぜる。心の中とおんなじに、ぐるぐる、ぐるぐる。

綺麗に混ざりきったなら、元気になれるのかな。

（2023/02/24）

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