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「きっと、悪い人じゃないんだと思います!」
「だからって、こちとら霊感なんて一つもないのよ」
「私だってありません!」
「じゃあ、なんでそんなもん見えんの」
「人に取り憑いてるからですよ!きっと、誰かに助けて貰う為に体を借りてたんですよ!」
その日、
夏実は、小さな探偵社で事務をしている。國岡は、その探偵社の社長であり探偵だ。いつもよれたスーツに、髪を切るのが面倒だと、伸びた髪を後ろで小さく結っている。やる気がこれっぽっちも垣間見えないが、不思議と仕事に困る事はなかった。
「あのなぁ…うちは何でも屋でも心霊探偵でもないんだよ、仕事だって山積みだってのに」
「そんな事言って、働いているのは
「あいつは迷い猫探しが上手いからな。俺は不倫専門で、」
「だから今暇でしょ?」
「…ったく、」
やる気はないのだが、やると決めたら國岡の行動は早かった。
早速、洋館の持ち主を見つけると、その洋館の持ち主に話を聞きに行く事が出来た。洋館の持ち主は、還暦を過ぎた
洋館は祖父が大事にしていた物らしく、祖父が亡くなってからもその意思を継ぎ、綺麗に残していたという。
「迷い猫が住み着いてるなんて言って、大丈夫ですか?」
「じゃあ、幽霊が可哀想だから中を確かめたいって言えるか?」
「どうぞこちらへ」
こそこそと話していると、スーツ姿の男性に声をかけられた。
彼は、中谷の息子だ。洋館の中に入る為、付き添ってくれている。門を開けて進む彼の後を、二人はこそこそ話しながらついて行く。
「幽霊なのに家に入れないのか?」
「はい…だからなのかな、色んな人の体を借りてるんですよ」
「人の体借りても入れないんだろ?それで、お前の初恋相手にも取り憑いてたって訳か」
「…きっと、困ってたんですよ」
「おいおい情を移すなよ、奴はもうこの世にいないんだぞ」
「…分かってます」
玄関までのアプローチを行き、重厚感のある玄関のドアをくぐると、中の様子に驚いた。綺麗にしているといっていたが、使わないのが勿体ない程、掃除が行き届いているのが、玄関先だけでも窺えた。
國岡は、猫の目撃情報が本当にあったかのように話しながら、部屋を調べる振りをする。二階の窓から見えたらしいと、自然と二階へと意識を誘導し、自分は息子と話しながら、夏実をあの窓の部屋へと促した。
指示されるまま部屋を覗くと、中にはベッドや机が置かれており、今でも十分暮らせそうだ。どの家具も、凝った彫りもので飾られた洒落た物ばかり、ここは女性が使っていた部屋かもしれない。窓の下には机があり、その上には本が数冊立て掛けられている。どれも古い洋書のようだ。
そっと机の抽斗を開けてみると、中に手紙があった。
「ディア…コウ?」
手紙は英文だが、宛名は日本名のようだ。その手紙の下には写真があった。
「え…」
夏実は自分の目を疑った。
写真に写っていたのは、綺麗な女性と、
それから二人は、迷い猫はもうここには居ないようだと、不審に思われないようにこっそりと猫が居たであろう痕跡を捏造し、どうにか怪しまれず、洋館を後にする事が出来た。
國岡の手には、あの手紙と写真がある。あの後、國岡が夏実の様子を見に来て、こっそり持ち帰っていたのだ。
「聞いたらあの洋館は、中谷とは無関係の家のようだ。爺さんの友人が住んでいたらしい」
夏実は写真を指差した。
「…あの、この人、深水さんにそっくりなんです」
「洋館前で会ったっていう?」
「はい、でもおかしいです。私は小さな頃、会ってるのに」
写真は随分古いものだった。深水の体を借りたとしても、今は大分年齢を重ねている筈だ。
「すっごい似てるご先祖さんか?深水の連絡先は?」
「分からないです。だって…」
そこで、今の深水の姿を思い浮かべ、今更ではあるが違和感を感じた。深水と会ったのは二十年前、その時から比べて、深水の外見的印象は全く変わらない、それもおかしな話だ。
「そいつも幽霊じゃないのか?」
「え、だって、深水さんの体を借りたって言ったんですよ?」
「お前、そそっかしいから、何か騙されてるんじゃないの?じゃなきゃ、深水はこの男の家系で、たまたまそいつと似てたって事じゃないか?」
「…そ、え?」
「とりあえず、手紙だ」
「英語ですよ?」
「舐めんな。読めるんだよ、これでも」
それから國岡は手紙に目を通すと、「幽霊にも字は読めるのかね」と呟いた。夏実が冗談かと顔を顰めると、國岡は肩を竦めた。
「しゃあない、調べてみよう。行くぞ」
「…はい!」
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