第4話

と、いうことで俺は部活に入ることにした。


といっても、翠蓮院さんが入ってる部活の文芸部に入るわけじゃない。


順当にいけば翠蓮院さんと同じ部活に入った方がいいんだろうし、住山もそう考えて俺にその提案をしたんだろうけど、それだとダメなんだ。


なぜなら、絶対俺の精神がもたないから。


翠蓮院さんと一緒に部活するなんてことになったら、それはもう大変なことになると思う。


俺から話しかけようとしても漏らすし、俺の名前を呼んでくれたりなんてしたら漏らすなんてもんじゃない。アヘ顔になっちゃうと思う。アヘ顔に。流石に他の部員たちとか、ましてや彼女の前でアヘ顔なんてするわけにはいかない。


だから俺は・・・・・・


「それで、翠蓮院さんのファンクラブに入ることにしたんだ」


「そう、それが一番私に最適だと思ってね!」


朝の教室、ホームルーム前のざわつく教室の中、俺はドヤ顔で住山にそう言い放った。


我ながらなかなかいい考えだと思う。


「確かにいい考えかもね」


「ね!そう思うでしょ!」


「確か翠蓮院さんのファンクラブって部員の地位によって、半径何メートル以内に近づけるとか何分話せるとかが決まってるんじゃなかったっけ?」


そう、彼女のファンクラブは階級制になっていて、一番上の最上級幹部になれば色々と面倒な制約とかなくて翠蓮院さんに普通に話しかけて接することができるけど、一番下である部員見習いの場合、半径十五メートル以内に入れないし、もし十五メートル以内に入って話さなきゃいけない場合でも3分以上は話しちゃいけない。そういう厳しい階級制のもとに成り立っているのが翠蓮院鏡花ファンクラブというものなのだ。


そう、この厳しい階級制!この階級制が今の俺にとっては好都合なんだ!俺はこの階級を成り上がり、その間に徐々に慣れていって、やがて最上級幹部になる頃には翠蓮院さんと話しまくれるようになる!


つまり、これは俺の成り上がり物語だ!成り上がり!うん、なろう系っぽい!なろう系っぽい!


「でも、そこって危なくないの?確かそこって、正式に許可をもらってない非合法の部活で、生徒会から目の敵にされてるって聞いたけど・・・・・・」


「私のこの情熱の前にはそんなこと関係ないよ!翠蓮院さんと話せるようになるためなら、たとえ生徒会や教師を敵に回しても構わないね!」


「い、いや構いまくると思うけどな・・・・・・・ま、まあ、とにかく頑張って。僕も僕なりに頑張ってみるよ」


ん?なにかコイツも目指すものとかあるんだろうか。なんだろう。次の小テストで百点を取るとかかな。・・・・・・・そういえば俺のこの前の小テストは十五点だったな。


いや、俺あの時は過去最高に調子が悪かったからね?うん。勉強も全然してなかったし。次こそは高得点取れるよ、一京点は取れるね。


まあ、とにかく放課後になったらファンクラブの部室を訪ねてみよう。


あと、図書室で女子とうまく話せるコツみたいな本借りてこようかな。



翠蓮院鏡花ファンクラブは決まった部室といったものは当然ない。


だからファンクラブへ入部したいものは職員室の前にある花瓶の下へ、『鏡』と書いた紙を挟んでおくと、五分後ぐらいには時間と場所の書いた紙が挟まってるので、その時間その場所に行けば会うことが出来るんだ。


それで俺も放課後、指定された時間に指定された場所に行った。そこは校舎の三階の端っこにある空き教室で、サングラスをかけた男子生徒二人がSPみたいに教室の扉の前で見張っていた。


今はもう、日がオレンジ色に輝く頃だ。廊下の窓から夕陽が差し込んでいる。


とりあえず、扉の前にいる彼らに話しかけよう。


・・・・・・・


空き教室の中へと入ると、教室が一面黒い布で覆われていて、秘密結社みたいな格好をした男子生徒が五人、長机に横に並んで座っていた。


なんか面接会場みたいな感じだけど無駄に圧がすごい。なんでこんなヤバい組織みたいな演出してるんだ。この黒い布はいつの間に張り巡らせたんだ。


ちょっと怖いから様子を窺いながら教室へ入っていくと、ざわつきだす面接官たち。なになに?なんなの?怖いんですけど。


俺が少し怯えていると、五人のうちの真ん中にいる面接官が声を発した。


「静粛に!・・・・・・すまない、ここに来る入部希望者はだいたいが男子生徒なものでな。思いがけず可愛らしいお嬢さんがいらっしゃったので、こちら側も少し動揺してしまったのだよ」


「はあ・・・・・・・」


こんな頭巾の上からメガネかけてるような奴に可愛いとか言われても嬉しくねえなあ・・・・・・・。いやまあ、俺は男だから基本どんな男に可愛いなんて言われても嬉しくないんだけどね。


「まあまあ、とにかく座ってくれ」


「はい」


真ん中の面接官に促され、俺は面接官の前に置かれた椅子に座った。真ん中の面接官はしげしげと俺を眺める。


「ふむ・・・・・・まあとりあえずは、君が生徒会や教師から送られた密偵じゃないか試させてもらうよ」


真ん中さんがパチンと指を鳴らすと、端っこの面接官の方がソーサーの上に乗せたカップを持ってきた。


見ると何やらお茶のような飲み物が入っている。


「それの中身は翠蓮院鏡花様の尿だ。そう尿が入っている。君の心意気が本物かどうか試すために、その尿を飲めるかどうか試させてもら—————」


「ごくごく・・・・・・・」


「っておいぃぃぃぃぃぃ!ノータイムで躊躇なく飲むやつがあるかよ!?女の子だよね!?っていうか人間だよね!?」


わざわざ立ち上がって突っ込む律儀な真ん中さん。


「なんかお茶みたいな味しますね」


「そりゃそうだ。本物の尿を飲ませるわけがないだろう流石に」


「そっか・・・・・・本物じゃないんだ・・・・・・」


「なんで残念そうなんだ・・・・・・・」


いや違うよ?別に俺は好きな人のおしっこを飲みたい変態さんじゃないからね?ただ、ちょっと残念かなーって思っただけで・・・・・・・。だからそんなに引かないでください。


いや、っていうかそっちが飲めって言ったのに引かれるっておかしくない?


こほんと咳払い一つして、場を仕切り直す真ん中さん。


「ま、まあとにかく心意気は伝わった。歯の一本をクラゲに変えて吸わせたとかでもないだろうし・・・・・・・別にいいが、普通はこう・・・・・・・もうちょっとなんかこうあるもんなんだぞ?葛藤とか」


「へえ、そうなんだ」


俺は別に好きな人のおしっこを飲むのに躊躇したりはしない。その人の汚いところまで愛するっていうのが俺の信条だ。


「そうなんだって・・・・・・まあいい」


真ん中さんは椅子に深く座り、腕を組んで俺の方を見つめる。というか、他の面接官は完全に空気だね。


「ふむ・・・・・・一応聞いておくが、サークルの姫的な存在になりにきたりしたわけではないだろうな?」


「いえ、違いますけど・・・・・・・そんな人がいたんですか?」


「ああ、いた。どうやら人間には自らの欲望のためなら、他人の尿も飲めるという輩がいるらしい。そのせいで一度壊滅させられそうになったことがある」


「へー、そんなことが・・・・・・・大丈夫です!私はこんな人たちにモテたいとは思いませんから!」


俺はドヤ顔で言い放った。


「・・・・・・・どうやら本当のようだな。なかなか心にくるものがあった。でもまあこれで・・・・・・・」


そこで真ん中さんは一気にシリアスな雰囲気を醸し出す。そんな雰囲気はこの作品には合わないと思うけど・・・・・・。


「これで君は我らがファンクラブへの入部試験を受けられる資格を得たというわけだ」


無駄にシリアスな雰囲気を出しながら語る真ん中さん。そんな雰囲気出しても無駄ですよ。


「入部試験?」


入部試験か、なるほどね。


さすがは天下の翠蓮院鏡花ファンクラブだ。どうやら簡単に入部出来るわけじゃなさそうだ。


俺はごくりと唾を飲み込んだ。

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