第1話
学校に着いたぞ!
今日も元気に登校だ。ふんふんふーんと、鼻歌を奏でながら校門を抜けて大勢の生徒たちに紛れて一人の女装野郎が行く。
「おはよー、瑠璃」
「あっ、おはよー」
クラスメイトで友達の女子に挨拶されたから、俺も挨拶を返す。瑠璃というのは俺の名前だ。瑠璃は本名で、元々女子みたいな名前だから使ってるけど、苗字の方は偽名にしてある。本名は鈴木だけど、この学校では俺は三条を名乗ってる。俺は三条瑠璃(さんじょうるり)という名前の女子生徒として、男の俺とは完全なる別人としてこの学校に通ってるんだ。
俺と翠蓮院さんが通ってるこの高校は、公立ではなく私立だ。私立翠蓮学園。名前からしてわかる通り、理事長はなんと翠蓮院さんのお母さんが務めてるんだ。社会勉強をさせるためと言っても、やっぱり完全に目の届かないところに通わせるのは嫌だったらしくて、自分が理事長を務めるこの学園に通わせることにしたらしい。ここなら共学だし、私立とは言ってもそんなに敷居の高い感じじゃないから十分社会勉強になるってことで。
だから、俺はその話を聞いて翠蓮院さんのお母さん、理事長のもとへ直談判しに行ったんだ。娘さんを守るために女装させてくださいって。
そしたらなんと二つ返事でオッケーもらっちゃった。
そしてその場で三条という偽名と女子制服を貰ったんだ。
『女子制服もいるし、バレないように偽名とかもあったほうがいいわよね?』
『は、はあ、そうですけど・・・・・・』
『というわけで、用意したものがこちらになります』
『いや3分クッキングのテンション!』
・・・・・・みたいな感じで。
びっくりした。ギャグ漫画かと思うくらい展開早かった。というか下手したら通報されるところまで覚悟してたから、いいの!?って感じで、何かのドッキリだったりしないかと嬉しいよりむしろ怖かったよ。
まあでも、俺の翠蓮院さんを守りたいという思いがそれだけ強かったってことだな!誠実さが勝利したんだよ!
ただ、女装した姿を理事長に見せたら全身舐め回すように見てきたところがちょっと気になったけど・・・・・・。
だから俺の女装は理事長公認なんだ。
ちゃんと両親にだって話をして許可も取ってある。俺は基本的に正直に生きることをモットーとしてるからね!
うちの両親は共働きで、あんまり家にいない変わりに、基本放任主義というスタイルをとってるからこういうことも割とすぐ許してくれる・・・・・・いやそれってもはや放任主義ってレベルじゃなくないか?自分の息子が女装して女子として学校通いたいって急に言い出して、すぐいいよーって言ってくれる両親とか、もう放任主義とか超えて聖人レベルの寛容さだぞ?
もっと親孝行しなくちゃな・・・・・・・。
と、まあこんな感じで俺は女子として普通に学校生活を送ってるから、クラスメイトの女子も俺のことを普通の女子と思って仲良くしてくれてる。
騙すのは正直をモットーとして生きてる俺としては心苦しいけど仕方ない。あの子を守るためだからね!嘘も方便だ!
ということで、俺は完璧に女子を装いつつ、同じクラスで仲のいい女子三人と話をしながら教室へと向かった。
「瑠璃、今日の小テストの勉強した?」
「もちろん!完璧にしてきたね!」
「あれー?でもこないだもそんなこと言ってたけど、二十点くらいしか取れてなかったよね?」
「失礼な!二十一点だよ!」
「一緒じゃーん」
「とにかく、今回は完璧に勉強したんだから前回みたいなことにはならないよ!」
「えー、ほんとにー?」
そんな日常会話をしながら教室へ入っていって、それぞれ自分の席についていく。
むう、最近なんか俺、バカキャラみたいに扱われ始めてない?
全く心外だな。前に二十一点取っちゃったのは・・・・・・・あれはちょっと調子が悪かっただけだ!今回はかなり頑張ったしいけるいける!百点超えて百二十点まで取れるね!いやむしろ一億点は取れる!一兆・・・・・・そう一兆点ぐらい軽く取れる!
・・・・・・・いやそんなことはどうでもいいんだ。小テストのことなんかどうでもいい。そっちの方も問題だけど・・・・・・今一番俺が悩んでる問題は別にある。今俺はとある悩みを解決するために悪戦苦闘、七転八倒、七転び八起きしてるんだ。
今の俺の最大の悩み。それは・・・・・・
あれだけ翠蓮院さんを守るとか息巻いて大言壮語していた俺が、入学してから三週間経った今もまだ翠蓮院さんと話せていないこと。
それが目下最大の悩みなんだ。
だから小テストなんかで悩んでる場合じゃない・・・・・・あっ、やめてやめて!責めないで!
い、いやだって仕方ないじゃんか!確かに何やってんだって言われても仕方ないけど!でもお前らだってそうじゃないのか!憧れの翠蓮院さんに自分から話しかけるなんて・・・・・その・・・・・・は、恥ずかしいんだよ!照れちゃうんだよ!・・・・・・緊張しちゃうんだよ!
ただこれはかなりまずい状況だ。まさかこんなことで計画が頓挫するとは思わなかった。早くしないと、学校一の陽キャチャラ男野郎とかにエロ漫画さながらの扱いを受けてしまう!
というかそれより、俺がただただ女装して学校に通ってるだけの変態性癖野郎になってしまう!
どうにかして翠蓮院さんに話しかけて、友達になって、襲いかかる男どもを斬り刻んでいかないと・・・・・・!彼女に話しかけれる方法を、何か考えないと・・・・・・・!
俺は朝っぱらから机に突っ伏し、頭を抱えながらうんうんと唸り始めるのだった。
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