君のためなら女子になる

オオサキ

プロローグ

「よーし、よし。俺いけてるぞー。今日もかわいいぞー、俺」


俺は部屋にある全身映せるタイプの鏡の前で、くるっと一回転しながら一人で自画自賛してた。


と、いつの間にいたのか。ドアの隙間から覗いてた妹の柚利(髪はロングで、やや茶色。もう制服を着て学校に行く準備をしている)がそれを見て


「うわ、変態がいる」


と、生意気ににやにや笑いながら聞き捨てならないことを言う。


「なんだお前!勝手に人の部屋を覗くなよ!てか変態じゃねーし!」


「いやいや、そんなカッコしながら鏡見て自画自賛してるとか、変態でしかないでしょ」


「うぐっ・・・・・・」


そう言われると反論できない。


確かに、俺は男子なのに明るい茶色の髪を肩のあたりまで伸ばし、可愛らしいピンでとめて、そして女子の制服を着てる。


つまりは、女装をしている。言い訳のしようもないくらい、ちゃんと女装してる。


・・・・・・うわ、冷静に見てみると今日もかわいいとか言ってる場合じゃねえ。完全に変態だ。心折れそうになってきた。


しかし、俺は断じて変態だと認めるわけにはいかない!この格好をすることをやめるわけにはいかない!なぜなら・・・・・・


「そう!俺の幼馴染である翠蓮院鏡花(すいれんいんきょうか)ちゃんをすぐそばで守るための方法は、これしかない!!!!これしかないんだあああああああ!!!!」


俺は天に拳を突き上げて絶叫した。


「うるさいよお兄ちゃん。近所迷惑でしょ」


「そう、話はちょうど幼稚園ぐらいまで遡る・・・・・・」


「あ、回想入るんだ」


幼稚園の年長ぐらいの頃、だから妹である柚利はまだ生まれてすらない頃だけど、父親の仕事の都合で俺はこの町に引っ越してきた。


そして、うちの向かいにある豪邸に住んでたのが翠蓮院鏡花という同い年の女の子だ。彼女とは通う幼稚園は違ったものの、家が近いから帰り道で一緒になったりとか、近所のスーパーで会ったりとか、近くにある公園で会って一緒に遊ぶことになったりとか、偶然会って一緒に遊ぶみたいな流れになることが多くて俺たちはすぐに仲良くなった。


まあ、小学校の高学年くらいからは一緒に遊ぶのはなんとなく気恥ずかしくなって、登校する時とかに挨拶する程度の仲になってしまったけど・・・・・・・俺の気持ちは子供の時から変わってない!


彼女は子供の時からずっと完璧で非の打ち所のない・・・・・・そう、俺にとっての女神様みたいな存在なんだ!超絶女神様だ!それは子供の時から今まで変わってないんだ。


問題はここからだ。彼女は幼稚園から中学生までずっと私立の、しかも女子しかいないところに通ってきたんだ。お嬢様だからね。


そんな超・箱入りお嬢様の翠蓮院鏡花が、なんと今年の春から共学の高校に通うことになったんだ。社会勉強の一環とかなんとかで。


それを聞いた時、俺はめちゃくちゃ心配になったね。だってそういうのって薄い本でよくありそうな展開じゃん。世間慣れしてないお嬢様が初めての共学で・・・・・・みたいなのってよく見るよ!えっちい奴で!


あんな子が普通の共学になんか通ったら、汚れた男子どもの毒牙にかかってそれはもうものすんごいことになってしまうに違いない!それはもうすんごいことに!男子なんかみんなオオカミなんだから!


だから俺は彼女のことを一番近くで守るため!女子になるとそう決めたんだ!


「何度聞いても、別に男の格好のまま守ればよくない?って思うんだけど」


「何言ってんだ!男の格好のまま翠蓮院さんの側でうろうろなんてしてたら変な噂とか立っちゃうだろ!俺なんかとの噂を立たせるなんて、そんなことになったら切腹するね!」


「あっそう・・・・・・」


「万が一にもそんなことになった時はお前に介錯を頼むぞ!」


「やだ」


つれない奴だな。


まあいい。とにかくそういうことで、大体経緯の説明は終わったから、妹とともに階段を降りてリビングで朝食を食べ、「いってきまーす」という挨拶をして家を出た。


眩しい朝日を浴びながら、俺は思った。


俺は君のためならなんだってする。そう、君のためなら女子にだってなってやる!


「やってやるぞー!」


俺は朝日に向かって拳を突き上げた。

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