2-3 あなた達四人に任務よ
弁当を食べ終える四人。
次の授業までにはまだ時間があり、その時間を使って十六夜と篝は登校時にも話していたように昨日の春とのデートで何が起こったのか、耀が何を話したのかを本人に直接訪ねていた。
耀は春が信じて話しているなら構わない、と昨日の帰りに春に話したことと同じことを二人に話した。
「森の中で互いに似た人物と談笑する夢………か」
「さらに耀は会いたい運命の人がいて、それが春君だったと………」
春が見る夢に何かしら関係しているとは思っていたが、相手はそれ以上であった。
真剣な表情で話を聞いていた二人であったが、聞き終わると同時に話の内容に呆気に取られていた。
「なんだか、凄い話になってきたわね」
「ああ。Cランクの
最初こそ驚いたものの、その後の耀の話を聞いた後ではCランクの喰魔など、どうでもよく思えてしまう。
それほどまでに耀が話す内容は衝撃的なものであった。
十六夜は春へと視線を向け、話を聞いていく中で疑問に思ったことをぶつけた。
「春。お前の夢に現れる女性と白銀は気配がそっくりだったんだな?」
「ああ。最初に支部長室から気配を感じ取ったときは、あの人が部屋の中に居るって思ったほどだからな」
「それは白銀も同じか?」
「うん。私も部屋の外にあの人が居るって思ったもん」
「なるほどな」
二人の返答を聞くと十六夜は顎に手を当て、考えるような
それからすぐにその状態を解き、再び二人に質問をした。
「お前らは夢に現れる人物と相手が
「それはないな」
「私もないかな」
十六夜の質問に間髪入れずに答える春と耀。
即答できるということはなにか理由があるのだろう。
そう思った十六夜が尋ねる前に、春がその理由を答え始めた。
「確かに耀は見た目も気配もそっくりだけど、耀とあの人は同じではないと思う。何か根拠があるわけじゃないけど」
「私も。春と夢に現れるあの人はそっくりだけど、別人だって感じる」
そう話す二人の目には力強い意志が宿っているように見える。
当事者である二人がここまで言うのなら、本当に違うのだろうと十六夜は思った。
「つまり、二人は互いに相手を夢に現れる人物とは別人だと認識しているのね?」
「「うん」」
篝が二人の意見をまとめると、首を縦に振ってそれを肯定する。
息の合った返答を見て仲の良さを感心するのと同時に、本当に昨日会ったばかりなのかを疑いたくなる十六夜と篝であった。
結局のところ、耀は運命の相手以外は春と同じ状況であり、二人の夢について何かが分かることはなった。
少し重い空気がその場を流れる。
しかし、それは何も分からなかったことを残念に思うからではない。
新たに浮上した疑問に対して四人が思案しているからであった。
「これって偶然………じゃないわよね」
「そうだな。同じ夢を見て、夢に現れるやつとそっくりの相手に出会った。しかも、使用者がほとんどいない対照的な闇魔法と光魔法。これが偶然だとしたら出来すぎだな」
篝の問いかけるような呟きに十六夜が答える。
皮肉にも聞こえる発言はいつもと変わらない十六夜だが、
「お前ら二人が出会ったのには何か
「理由………か」
「………」
その言葉が春と耀に深く突き刺さる。
十六夜の発言は直感や憶測から来るものであり、確かな根拠があるわけではない。
しかし、二人は自身に起こる不思議な現象が。何より、胸の内に沸き上がった謎の
「ま、まだ何もハッキリとは分かってないのだから、決めつけるには早いんじゃないかしら?」
表情を暗くさせ、考え込むように俯く二人の姿を見かねた篝が明るく話しかける。
そんな篝の意図を察した十六夜も真面目な雰囲気を崩し、いつものように相手をからかうような笑みを浮かべて篝の話に合わせることにした。
「ああ。それに理由があったとしても、お前らが不安に思うような重たい理由じゃないかもしれないしな」
十六夜の言う通り、二人が出会ったことに理由があったとしてもそれが重たい理由とは限らない。
理由なんてものも憶測から出ただけで無い可能性だってある。
そんな二人の言葉に、春と耀は顔を上げて明るい表情を見せた。
「………そうだな」
「うん。変に悩むのも良くないよね」
先ほどのような暗い雰囲気が無くなったことに篝もまた表情を明るくさせる。
「そうそう! それに、すごく明るくてロマンチックな理由の可能性だってあるじゃない! 例えば前世で一緒になれなかった二人が、来世では一緒になろうと誓って転生したのが春君と耀だったりして!」
キラキラとした乙女の目で楽しそうに話す篝。
しかし、そんな彼女から十六夜は顔を背けると肩を震わせ、春と耀は戸惑うような視線を向けていた。
「確かにロマンチックだけど………」
「それはそれで重くないかな? 話の流れ的に前世の私達、『一緒になれないなら来世で』って流れで
「………あら?」
「ぶふっ!」
嬉々として話していたのに、その内容は明るいとはかけ離れたあまりにも重たいものであった。
そのことを二人の指摘で気づいた篝は、思わず間抜けな声を上げてしまう。
そんな彼女の少々お馬鹿な姿に、十六夜は笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。
「アハハハハハハ! すまん、もう耐えられねえ! アハハハハハハ!」
「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
「いや、だってよ………ぐふっ!」
「―――っ! フンッ!」
恥ずかしさで顔を赤くした篝は十六夜の笑い声に腕を組み、顔を背けて拗ねてしまう。
そんな篝の子供のような仕草と十六夜とのやり取りに、春と耀もクスクスと小さな笑い声をこぼしてしまう。
「な!? 二人まで………!」
「いや、だって………な?」
「ね?」
確認を取るように春と耀は視線を交わらせる。
言葉にはしなくても、相手が何を言おうとしているのか分かっていた。
これを笑うなという方が無理である、と。
「う゛う゛ぅぅぅ………!」
顔を赤らめ、せめてもの抵抗のように子犬のような可愛らしい唸り声を上げる篝。
結果として春と耀は元気になったのだが、この状況は釈然としなかった。
それから篝の不機嫌は昼休みが終わっても続き、十六夜がショッピングとその際の費用を持つことを約束したことで機嫌を直すのだった。
※
午後の授業を終え、学校から下校した四人はそのままの足取りで魔法防衛隊星導市支部へと赴く。
春と耀は支部にて、昨日の喰魔との戦闘に関する報告書を提出するために情報課に来ていた。
十六夜と篝は訓練室に行っており、報告書を提出した後で共に訓練することになっている。
情報課は魔法防衛隊の情報や資料を管理する部署であり、防衛隊の隊員に上からの任務を伝えたりもする。
室内の職員の机には必ずパソコンが置いてあり、ファイルや書類の束からも一目でデスクワークの職場だと見て取れる。
そんな情報課の室内を二人が歩いていると、周りから視線を向けられていることに気づく。
何やら小声で会話をしている者もちらほらと居る。
耀も数が多いのが気になり、前を歩く春に小声で話しかける。
「ねえ春。
「いや、違う。いつもは俺が来てもみんな仕事に集中してるし、耀が居るからじゃないかな?」
「でも、私だけじゃなくて春も見られてるよね?」
「それは………なんでだろう?」
新しく支部に来た中学生の女性隊員であり、その整った容姿からも耀が見られるのは分かる。
しかし、なぜ自分まで見られるのか春は分からなかった。
(なんで俺まで見られてるんだ?)
周りの反応を疑問に思いながらも室内の端を歩く二人。
春は左に進行方向を変え、机の間を進んでいく。
耀もその後に続くと、パソコンを見ながらキーボードを打ち続けている一人の女性の姿が耀の目に映る。
短い黒髪にスーツ姿でパソコンに向き合う様は大人の雰囲気を醸し出していた。
春は女性の側まで近づくと、相手を驚かせないようにそっと声をかける。
「
春に名前を呼ばれたことで女性は手を止め、顔を動かすのと同時に椅子を回転させて体を声の聞こえた方へと向ける。
「春君。どうしたの?」
優しく微笑みながら春へと話しかける女性、
春、十六夜、篝の三人が最初に紹介された情報課の職員であり、報告書などを提出するときは大体この人に提出している。
友里は春の隣に立つ耀に気づき、流れるように視線を向ける。
そして、小さく息を呑んで耀の顔を凝視した。
(か、可愛い………!)
最初は春へと意識を割いていたことで気づかなかったが、改めて耀に意識を向けたことでその整った容姿に驚愕する。
(え? え! 何この子!? すっごく可愛いんだけど! 篝ちゃんもそうだけど………何なの、最近の女の子ってみんなこうなの!!?)
春や十六夜とよく一緒にいる篝も綺麗や美しいという言葉が似合う美少女であるが、それとはまた違った綺麗で可愛らしい美少女に心の中で叫び散らかしていた。
そして、その対象になっている耀は自分を見つめる友里に対してどうすればいいのか分からず、小首を傾げて戸惑いを見せていた。
「あの、友里さん?」
「………あ、ごめんなさい! じっと見ちゃって! あまりにも可愛いからつい………」
春から声をかけられたことで現実へと引き戻される友里。
初対面の女の子をただ見つめるという不審者とも取れる行動に、友里は両手を顔の前で合わせて耀に謝る。
「大丈夫ですので、あまりお気になさらないでください」
「そう言ってくれると助かるわ」
戸惑いながらも謝罪を受け入れつつフォローもする耀。
その言葉を聞いて友里は心の荷が下りるのを感じた。
そして、初めて会った女の子に自己紹介をするため口を開いた。
「改めて、私は友里静よ。よろしくね」
「昨日配属された、白銀耀といいます。よろしくお願いします、友里さん」
そう言って頭を下げる耀を友里は礼儀正しい良い子だなーと好印象に思う。
「よろしくね耀ちゃん。それで春君。私に用があって来たのよね?」
「はい。昨日の
そう言うと春は手に持っていた報告書を友里に手渡した。
友里は貰った報告書に軽く目を通して特に問題がないのを確認すると、机に書類を置いて二人へと向き直る。
「話は聞いてるわ。群れで現れたDランクの
優しい眼差しを二人へと向け、ケガがないことに安堵する。
知り合いの隊員が任務にて命を落とすことも、そう珍しくはない職場である。
ゆえに、子供でありながら喰魔と戦う春たちのことをずっと気にかけていたのだ。
「一人だったら危なかったと思います。耀と一緒だったおかげです」
そう言うと春は小さな笑顔を作り、自身の隣にいる耀へと視線を向ける。
目には優しさが籠っており、普段から十六夜や篝などの友達や仲間に向ける眼差しとは違っていた。
耀もまた、春と視線を合わせて柔らかな笑顔を浮かべる。
二人の間に漂う雰囲気は友達や仲間のそれではなく、もっと甘い何かであることは間違いなかった。
(なに………この甘い雰囲気)
友里もそのことには気が付いており、昨日出会ったばかりとは思えない二人が作り出す雰囲気に困惑する。
そのとき、隊員から聞いた一つの噂を思い出した。
話を聞いたときはただの噂で、事実ではないだろうと思っていた。
しかし、今の二人を見るとその噂は本当ではないかと思えてくる。
これは確かめるしかないと、自身の好奇心と謎の責任感に駆られた友里は事の真相を確かめることにした。
「二人って、もしかして付き合ってるの?」
「………へ?」
全く予想だにしていなかった質問が飛んできたことで春は固まってしまう。
その際、周りからガタガタと物音がするが三人の耳には届いていなかった。
「はい! 春と付き合ってます!」
春とは反対に輝くような笑顔を浮かべて答える耀。
その声は室内に広く響き渡り、パソコンと空調の音しか聞こえないくらいに静まり返る。
そして、友里はその笑顔と堂々とした耀の返答には呆気にとられる。
望んでいた答えが返ってきたはずなのに、その答えを受け止めきれない友里はきょとんした目で春を見つめ、視線で訴えかけるように答えを求める。
どこかで見たような光景であった。
「………はい。耀と付き合ってます」
少し照れくさそうに右手で頭を掻きながらも嬉しそうに笑って答える春。
そこでようやく受け止めることができた友里は両手を口に持っていき、ゆっくりと息を吐きながら目を輝かせる。
「はあぁぁぁ、そっかー。二人ともおめでとう!」
「あはは、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
祝いの言葉にお礼を返す二人。そこで室内が一斉に沸き上がった。
「マジか!?」
「えええええええ!?」
「昨日来たばっかりだよねあの
「なのにもう黒鬼君と付き合ってるんだ………!」
「ウワサは本当だったってコトォーーー!?」
「羨ましいぞあんな可愛い子と………!」
「俺だってまだ彼女居ないのに………!」
驚き、困惑、歓喜、嫉妬など様々な声が聞こえてくる。
一体何だと周りに視線を向けるが、友里が投げかけてくる質問によってそれは遮られる。
「それでそれで! 付き合ったきっかけって何かしら!?」
「えっと、私が一目惚れで春を見た瞬間に告白したんです」
「そっかー、春君カッコイイもんねー。春君はなんでオーケーしたの?」
「お、俺も一目惚れです」
「はあぁぁぁ。いいわねー、恋愛ドラマみたいで素敵ねー!」
大興奮のあまり二人を質問攻めにしてしまう友里。
二人はすでに学校でも同じ質問をされているが、周りがこんな状況なために若干戸惑いながら答える。
恋愛話にうっとりしている友里に二人は疑問を抱く。
なぜこの人がそんなことを聞いて来たのかと。
付き合っていることを隠すどころかクラスメイトにも話した二人だが、まだ防衛隊内では知っているのは告白を見ていた十六夜と篝と支部長である幸夫の三人だろう。
幸夫が他人のプライベートを軽々と話すことはまずない。
十六夜はからかい目的、篝は興奮のあまり他人に話してしまうことはあるだろうが、昨日の今日で会っていない友里にまで話が伝わっているとは考えづらかった。
態度や雰囲気から察せられた可能性はあるが、いきなり付き合っているという聞き方になるとも思えない。
理由に検討がつかず、春は直接友里に尋ねることにした。
「友里さん。なんで俺たちが付き合ってる、なんて聞いてきたんですか?」
「なんでって、いま支部内で噂になってるのよ? あなた達が付き合ってるんじゃないかって」
友里の言葉に二人は目を見開いて驚愕を露わにする。
なぜそんな噂が出てきたのか。
その原因を探ろうと、耀は友里に噂について尋ねる。
「噂って、どんなのですか?」
「えっと、昨日あなた達が抱き合ってるのを見たって言う人が居て、そこから付き合ってるんじゃないかって話が出たみたいよ」
「あー」
「あれか………」
その説明で二人はすべてを納得した。
確かに抱き合っているところを他の隊員に見られた。
来たばかりの耀が相手だったことも、噂が広まるのに一役買ったのだろうと二人は察した。
「だから耀だけじゃなくて俺も見られてたのか」
「理由が分かってちょっとスッキリしたなー」
先程のように騒がしくはないが、いまだに会話を続ける情報課の人たち。
彼らを見ながら春は悪い噂でもなければ喜べばいい内容でもなく、どうすればいいのだろうと複雑そうな表情で、耀は疑問が解消されたことで小さく笑いながら呟いた。
そんな全く違う反応を見せる二人に、面白さと可愛らしさを感じた友里は優しい笑顔を浮かべる。しかし、すぐに友里は何かを思い出したようにハッとした表情になる。
「そうだった! 春君」
「はい?」
「十六夜君と篝ちゃんって今支部内にいる?」
「今は訓練室にいると思いますけど」
「じゃあ
友里から先ほどまでの和やかな雰囲気が無くなり、会ってすぐのような落ち着いた大人の雰囲気を醸し出す。
そんな友里に呼応するかのように二人は気を引き締め、その表情を真剣なものへと変える。
ここは魔法防衛隊の情報課。
それが二人に友里の変化の理由を教えていた。
そして、その理由を友里はゆっくり、且つハッキリと口を開いて目の前の二人に伝える。
「あなた達四人に
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