第9話 奇襲(3)

『当該情報と完全に一致する飛行体を捕捉。

アルヒェ全機の進路の許可を申請』

女の声を模した合成音声が電波に乗せられ中継衛星を介し、MMC本部の中央戦略指示AIの元に送信される。

『こちらのオーディンコントロール。申請を受諾、進路の変更を許可する。』

男の声を模した合成音声がその声に応える。

『当該対象の対空戦闘能力は低下していると断定。直接空挺強襲戦術を実行せよ。』

『アルヒェ全機了解。これより直接空挺強襲戦術を実行する。』

アルヒェと言われた大型AIはその鈍重な機体の機首をゆっくり下げ降下し機体下部の軌道空挺支援戦略空母を光学カメラで捉える。

『相対速度A+2、機体フラップ展開まで3、2、1。展開、相対行動M-1.3許容範囲値。相対速度A±0実行可能速度までの減速に成功。ハンガー展開、パッケージへの中和剤注入を開始。「ハティー」の基礎体温の上昇を確認。作戦遂行に影響は確認出来ない。セーフティーハーネス解除。最終セーフティー解除。活性化ゲル変換率78%。

Our Father in heaven, hallowed be your Name; your kingdom come; your Will be done on earth as in hearven. Give us today our daily bread. Forgive us our sins as we forgive those who sin against us. Lead us not into temptation; but deliver us from evil. For the kingdom, the power, and the glory are yours now and forever.

空中投下を開始します。』

まったく感情のこもっていない合成音声でそう言い放ちハンガーに大量に内包されている外殻保護結晶を切り離し落下させる。

重力に引かれ落下した大量の外殻保護結晶の内、数十個が空中で分解し大小さまざまな結晶の破片を空中で撒き散らし内部のハティーを解放する。

目覚めたハティーは両手と両足を広げ空中を器用に移動し眼下で探照灯を照らしているPMTFに狙いを定め降下する。

   ーーーーーー✝ーーーーーー

バンバンバン

飛行甲板の上で復旧作業に従事していた複数のPMTFが黒煙を上げ暖色系の光を発しながら擱座する。

『敵襲!全機ブレイク、ブレイク!』

無線機にそう吐き捨てスロットルレバーを引き下げ、ペダルを踏み込み胸部クラスターを吹かし機体を高速で後退させる。

「正気か!」

そう吐き捨て頭上の大型輸送機から落下して来た人影を睨みつけスティックを操作し突撃制圧砲の砲身を叩きつけ吹き飛ばす。

バン

吹き飛ばした敵兵は空中を飛んでいきゼルニケから落下する直前で自爆する。

「!自爆兵か!このイカれた宗教信者どもが!」

そう吐き捨て通信回線を開く。

『こっの!纏わり着くnザーーー』

聞き慣れた声が聞こえた刹那、すぐさまノイズが走り視界の端でPMTFがまた1機爆発炎上し、擱座する。

機体を滑らせるように飛行甲板上を移動する。

脚部のクローが装甲板こすりつ火花を上げなら的かも味方かも割らない人影を無差別に轢き殺し、飛行甲板の端まで移動しそのまま機体落下させる。

慣れた浮遊感を感じながら機体高度を確認しEFEG機関を始動させる。

体が押しつけられる感覚に耐えながら通信回線を開く。

『こちらシュラッグ!CIC!状況を説明してくれ!』

『ザーーーー』

「クソが!」

無線機からの誰も求めていない返答に誰に当たるでもなくそう吐き捨て回線を切り替える。

『こちらシュラッグ!臨時混合大隊各機に通達!』

そう言いながらペダルを踏み込み機体高度を上げ飛行甲板を眼下で捉える。

ただでさえ夜の帳が降り、月光だけが唯一の明かりである月に最も近い場所。

その月光でさえ、ゼルニケの上空を優雅に飛行している大型輸送機に遮られ届かない。

『阿呆か!滑走路をわやにしてどないすねん!』

無線機から臨時副官の真奈美の特徴的な方言が聞こえてくる。

光学カメラがナイトビジョンに切り替わり補正が入り視界が薄暗い緑色になる。

『真奈美!ここを頼む。第2、第3小隊!アロヘッド陣形で突入!削り落としてやれ!』

そう言ってペダルを踏み込み上方へ加速する

ジェットエンジンやEFEG機関、イオン推進機が主軸な現代に置いて明らかに時代錯誤なローターに照準を定め引き金を引き射撃する。

放たれた180mm劣化ウラン弾は輸送機の二重反転ローターに吸い込まれていき、ブレードを粉砕し貫通する。

体勢を崩した輸送機の真横をすり抜け慣れた手つきでスティックを操作し脚部クロスを展開。

敵大型輸送機の上に取り付きコクピットに照準をさせる。

「No biological reaction(生体反応無し)」

粗雑な合成音声がコクピットに響く。

その報告にわずかに驚くがレティクルが変形したのを確認しほぼ反射的に引き金を乱雑に引き射撃。

180mm劣化ウラン弾が輸送機のコクピットを一瞬で引き裂く。

『全機、敵は無人機だ。容赦するな!1機残さず駆逐しろ!』

  ーーーーーー$✝$ーーーーーー

『真奈美小隊長!如何しますか!』

部下がそう言ってくるがこの機体のナイトビジョンでは敵味方の判別は付かずナイトビジョン越しに白く発光するマズルフラッシュを睨みつける。

『行くしかないやろ!』

そう怒鳴りつけ機体を反転させ加速する。

『!ちょ!どこ行くんですか!副長!』

そう言って第1小隊の生き残りが追従してくる

片側のエアブレーキを展開し急速反転、背部のクラスターを吹かし減速する。

『ええか!EFEG機関を停止、オーバードブーストで強引に加速してそれぽいのを片っ端から轢きいいてまう』

そう言い放ち感覚を頼りに首に掛けた紅白の御守りに手を掛ける。

パラパラと真紅の部分が剥げ落ち、汚い赤色が姿を表す。

「大隊長、どうかうちらを護って下さい。」

小さくそうぶつやきスロットルレバーを一気に押し上げスイッチを入れオーバードブーストを点火する。

『全機突撃!』

そう言い放ちEFEG機関を停止させ滑空、少しの浮遊感を感じた直後、轟音と共に機体が激しく上下に震度する。

ピーピーピーピーピーピーピーピー

機体の異常を検知した警報システムが悲鳴を上げるが全て無視し視界に捉えるマズルフラッシュの閃光めがけ機体を加速させ轢き殺す。

スティックを傾け機体のサイドブースターを吹かし機体を回転、さらに多くの閃光を掻き消していく。

一瞬、視界が閃光に包み込まれ直ぐさまナイトビジョンみよる補正が薄れる。

「!」

汚い緑色に塗りつぶされた視界の端で体中に長方形の黒いケースを括り付けている敵兵士を確認する。

反射的にペダルを踏み込み機体の脚部スラスターを吹かし自爆兵をスラスターのジェット熱に巻き込み焼き殺す。

バンド!

直後凄まじ爆発音と共に機体が吹き飛ばされる

ピピーピピーピピーピピーピピー

視界の端にウィンドウが表示される。

表示されたウィンドウを素早く確認し体勢を立て直すべくスロットルレバーを上げる。

「しまっ!」

気づいた時にはすでに手遅れだった。

時間の進みが急激に遅く感じ眼下の耐冷作業服で身を包んだ少女の瞳を見つめる。

「ぁぁぁぁあああああ!」

思わずそう叫びスロットルレバーを戻し驚異的は速さでコマンドを選択、実行。

機体の突撃制圧砲の砲身が飛行甲板上を叩きつけ火花をまき散らせながらその砲身が捩じ曲がり機体を少女一人分だけ機体を浮かせ少女を潰すのを回避する。

ガギャーーーン

金属が擦れる轟音と共に今まで感じた事の無い衝撃が体を襲う。

極小のコクピットにエアバッグなど搭載されているはずも無く体を激しく殴打する。

「うっ。」

ピピーピピーピピーピピーピピー

痛む体を何とか起こし視線を上げスティックを動かし機体を起こそうとするも機体は一切動く事無く、その変わろに視線の隅の大量に表示されている警報ウィンドウが表示される。

汚い緑色薄れた視界に黒い人影が映り込む。

刹那、不気味な感覚が全身を駆け抜け背中からじっとりとしたイヤな汗が噴き出す。

不意に黒い人影の首がゆっくりと動き6つの黄緑色の不気味な光を光学カメラが捉える。

「ほんま。さいあk。」

最後まで言い切る事無く自爆兵が爆発。

機体が激しく揺れ極小のコクピットに後頭部を叩きつけ一瞬の痛みと共に視界が暗転した。

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