第6話 空の鯨(6)
ギャンガンガガガン
金属が砕け火花を上げる。
150mmAPFSDSが銃弾で豆腐を撃ち抜くかごとく正面装甲である複合装甲をいとも容易く貫徹し、コクピット部分に集中的に叩き込まれたAPFSDSは機体の胸部装甲を穴だらけにする。
それでもヴァルチャーは突撃を止めない。
最後の足掻きとばかりに加速し砲弾が直撃し中途半端に折れ、刃渡りが短くなった刀の残骸を逆手に持ち変え、アルファーライカンの上部装甲めがけ一気に叩きつける。
ギャーン
金属が擦れる高音が辺りに響き渡り突き立てた刀が火花を上げながら力無く滑り落ちる。
刹那、ヴァルチャーの胸部装甲が一瞬の閃光に包まれる。
閃光はヴァルチャーの複合装甲もろともコクピットブロックを融解させ、ドロドロになった液体金属が胸部装甲に空いた穴からこぼれ落ちる。
バンバンバンバン
機体の複数箇所から火の手が上がり、複数の複合装甲板が爆発し落下、内部フレームが剥きだしになる。
アルファーライカンの腕から焼き焦げた使い捨て集束レンズが排出され機体を反転させ燃え堕ちるヴァルチャーから離れようとクラスターを逆噴射する。
刹那、ヴァルチャーのラックが展開、アルファーライカンを掴む。
「EFEG all safety devices disengaged, reactor overdrive. initiate self-destruct sequence(EFEG全安全装置解除、リアクターオーバードライブ。自爆シークエンスを開始します)」
融解したコクピットブロック、その内部にあったスピーカーから壊れかけた合成音声が響き渡り空気中に霧散する。
ヴァルチャーの背後に接続されているフライトパックが真紅粒子をいたるところから大量に排出し強力な磁場を形成しアルファーライカンを一瞬にして引き寄せる。
ギギギギギギギギギギギギギギギ
2機の機体の金属フレームや金属装甲板が軋みを上げながらヴァルチャーのフライトパックを中心に歪み潰れていく。
機体が完全に磁場に押し潰される刹那、アルファーライカンの胸部装甲が弾け飛びその中からオレンジ色の球体状のコクピットブロックが射出される。
空中を落下するオレンジ色の球体を焼け焦げた装甲板で全身を包み込んだ機体が追いかけ下に滑り込むように受け止めそのまま徐々に減速する。
『隊長!無事ですか?』
『ああ、私は無事だ。雷撃中隊は?』
『たった今連絡が入りました。複数のアンノウン大隊に急襲を受け撤退すると。』
『!まだ残っていたのか!まさか!私の妹は、帆乃香は、サンダーボルト戦隊は・・・全滅した、の、か?』
『そうです。』
誰かの怒号が、罵声が、うめき声が無線の電波に載せられ彼女の悲しみを覆い隠すようにこの美しい大空を一瞬にして波及する。
『大隊長、ヘッドクオーターより通信です。
「作戦領域に展開中の全てのPMTFは撤退行動に移れ」との事です』
『そうか。・・・・・・そうだよな。ごめんなお姉ちゃんがもっと強かったら守れたのにな。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・』
無線機は壊れたレコーダーのように同じ単語を吐き続けていたがその音量も徐々に小さく薄れていく。
『・・・ケルベロス大隊、全残存各員に通達します。大隊長は負傷により現在意識不明のため、現時刻より副官である私が大隊長指揮権を継承します。』
凜としたその声はすぐさま大空を伝播し未だ各空域で戦闘を続けているRL各戦隊に送信される。
『我々、ケルベロス大隊はこれより撤退行動を支援します。ストームバンガードとしての忠誠を示せ!』
その声を合図にさらに各空域での戦闘は激しさを増しこの青白い大空を純白の雲を黒煙や真っ赤な血、そして溢れんばかりの憎悪で汚していく。
ーーー同日:親衛隊高等弁務官区本部ーーー
『あの忌まわしい事件から今日で3日がたちました。現場である議事堂跡地には今も瓦礫が残っており、追悼の献花がされています。』
今時、珍しい女性のレポーターが現場の様子を中継する。
『警察関係者やNISCからの情報によりますと今回のテロ攻撃には、我らが誇り高き祖国である自由連邦政府に対し卑劣にも宣戦布告したリーヴスラシル皇国の関与のが疑われているそうです。』
映像が切り替わり重症を負った元帥が事件後すぐさまおこなったスピーチの映像が映し出される。
『え~~。国民の皆様、落ち着いて聞いていただきたい。本日のお昼頃、緊急議会を開議していた最中に我々は何者かの自爆テロに合い私以外の全ての議員の死亡が確認されました。
私も重症を負っており以前完全な状態とは言えません。
ですが私はここで今回の自爆テロによって死亡した議員並びに尊い犠牲で許容されるべき犠牲であり職務を全うした親衛隊隊員に対し深い哀悼を表します。
しかし私は国民の皆様にここで立ち止まっているべきではない事をお伝えしなければなりません。
先ほど自由連邦共同体の外縁加盟国であるスベリア国、シュベリナ王国、テラード国、ガーダ国の四カ国に対しての未確認国家所属軍の越境行為が確認されました。
未確認国家は自らをリーヴスラシル皇国と名乗り以前、こちら側の対話に応じていません。
これらの問題は自由連邦共同体の安全保障上極めて重大な問題であり、新政府に対するより一層の理解と協力をお願s「チッ!馬鹿らしい!」』
そう吐き捨て、長い黒髪を後頭部で一束にまとめ上げた女性が机を叩き乱暴な手つきでライターを取り出し、咥えたタバコに火を点ける。
「ふ~~~~。」
吐き出した白い霧越しに机の上に乱雑に広がっている大量の書類が視界に映る。
「チッ!『ギチャ』」
女は書類を目にした途端、握っていたライターを室内灯の光を鈍く反射している右腕の義手で握り潰し思いっ切りテレビに映っている元帥に向け投げつける。
「なにが協力だ!なにが尊い犠牲で許容されるべき犠牲だ!貴様は二度も同じk「『コンコンコン』失礼します。」ッ!入れ。」
女はついていたテレビを消しそう言い放つ。
ドアがゆっくり開き背の高い少女が入ってくる。
「総帥、ご確認いただきたいことが御座いまいm!」
少女は机の上を覆い尽くしていた書類に目を留めると言葉を詰まらせバツの悪そうな顔をする。
よく見ると少女の肩が微かに震えている。
「どうし、ああ、済まない。君はタバコが苦手何だったな」
総帥と呼ばれた女は島並がタバコが嫌いなことを思い出し、机にはめ込まれているタブレットを操作して窓を開きタバコを義手で持ち放り上げ握り潰し火を消す。
「それで?要件は?」
そう言って机の引き出しを開き、潰したタバコをひきだしの中の灰皿に捨てて机の上を埋め尽くしている『戦死名簿』を集めファイルに閉じていく。
「は、はい。それが・・・・今期のアカデミー卒業生だけでは各部署に配属する最低定数に圧倒的に足りていません。そこでアカデミーの卒業を繰り上げをおこなうと回ってきた書類に書かれていたのですが・・・・」
そこまで言って島並が言葉を詰まらせる
「なんだ?貴方も繰り上げには反対か?」
そう言って全ての戦死名簿をファイルに閉じ椅子から立ち上がりファイルが大量に敷き詰められた本棚の一番上、唯一空いているスペースに仕舞い込む。
「貴方も?」
そう言って島並は首を傾げる。
「そうですよ。参謀総長にも耳にタコが出来るほど言われ、警備部門長や諜報機関長にも言われました。」
そう言って机の中から卒業証書を取り出し羽ペンを持ち、今期の繰り上げ卒業生分の証書にペンを下ろそうとし、島並が目の前に一枚の書類を見せつけてくる。
「なんだ?」
そう言って書類をつかみ内容を確認する。
「人員削減活動の一環として機能が被っている、もしくは他の部門で代用が可能な部門を統合し必要人員の大幅な削減が可能になります。これなら繰り上げ卒業をぜずとも必要最低限の人員を補充できます。」
そう言って島並は資料を指さしそう答える。
「分かった。それにしてもよく間に合ったな。さすがだ。」
そう言って羽ペンをインク立てに立て、卒業証書を机の一番下の引き出しにしまう。
「ありがとうございます。」
そう言って、島並は踵を返し退出する。
「ふ~~~~~。」
大きくため息をつき椅子に背中を預け深く座り椅子を回転させ窓から見える夜空を見上げる。
「いつまでも貴様の思い通りに物事が進むと思うなよ。」
そう言って両面の義眼が夜空をズームアップし夜の帳にその巨大な機体を紛れ込ませた複数の輸送機を捕捉する。
ふと振り返り机の上に投げられている通信子機を手に取り慣れた動作で耳にはめ込み回線を開く。
『私だ。そうだ、鯨の目は潰した。いいかしくじるなよ。』
『フッ。シクジルダト?笑ワセルナヨ、我々ヲ誰ダレダト思ッテイルンダ?。』
ノイズに混じってしわがれた合成音声が聞こえてくる。
『そうだったな。まあ、君達が失敗することはまずあり得ないだろうな。』
そう言いって総帥は不気味な笑みを浮かべる
『そうだろう?MMC局長?』
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