第5話 空の鯨(5)

数機の『ライカン』とたった1機で互角以上に渡り合っている敵機に照準を合わせ焼夷ミサイルを撃ち込み、空になったミサイルポットをパージし加速する。

「爆発した?チッ!SMFDか!」

そう言って通信チャンネルを切り替える。

『そこの所属不明機に通達します。直ちに戦闘行為を中止しなさい。なお命令に従わない場合は武力を持って制圧します。』

そう言って、ディスプレイ中央に表示されている正面の所属不明機に降伏勧告を言い放つ。

正面のディスプレイに表示された敵機がゆっくり回頭しこちらを向く。

何とも言えない悪寒が走ると同時に無線機から大隊長の声が聞こえてくる。

『そこのライカン!今すぐ回避し!』

回頭した敵機が装備していた射撃兵装でライカンを無慈悲に撃ち抜いた。

『美咲!半分連れて雷撃中隊を護衛しろ。来るぞ!R戦隊!フォーメーションウィング!迎撃する!』

大隊長はそう言い放ちR戦隊を引き連れて陣形を組む。

『L戦隊は私と雷撃中隊を護衛する。全機!編隊を崩すな!』

そう言ってペダルを踏み込み機体を加速させ鈍重な雷撃中隊の先頭に躍り出た刹那、視界の端を飛行していた雷撃装備の『ライカン』が爆散する。

「!敵部隊の増援か!」

思わずそう叫び通信回線を開く。

『全機密集陣形!敵機を迎撃しろ!』

そう言ってサイドモニターに表示されているレーダーに目をやるが敵機は1機しか表示されていない。

『美咲!そっちに行ったぞ!』

大隊長の焦りの滲んだ声と右のモニターが激しいく赤光する。

『下か!』

咄嗟にそう言って視線を下に向け急上昇してくる敵機をロックオンし射撃する。

ギャーン

金属がちぎれる轟音と共に機体がわずかに震度する。

モニターが赤く点滅しサイドモニターに機体状況がポップアップされる。

『無事か!美咲!』

『チッ!右腕を持ってかれましたが数発たたき込みました!』

そう言ってサイドモニターを操作し右腕への電力供給回路を遮断し背部ラックから2丁目のチェーンガンを装備、先刻より明らかに速度が低下してた敵機をロックオンし追撃する。

『美咲!バックストライクだ!行くぞ!』

無線機から大隊長の指示が聞こえさらに加速し敵機を追い立てる。

レーダーに映る大隊長機を確認しながらタイミングを合わせる。

敵機の下方から一気に急上昇しながら敵機の正面に弾幕を展開する。

それとほぼ同時にエアーブレーキを展開し急減速し高度を下げると同時に機体を反転させ敵機の機体の正面下部を取る。

「堕ちろ!」

スティックのトリガーを乱雑に引きチェーンガンを射撃する。

放たれた150mmAPFSDSが敵機の下部胸部装甲板の正確に捉え貫通する。

しかし敵機は明らかにコクピット部分に被弾したにも関わらず、黒煙を上げながらも後続の砲弾を異常な反射速度で回避し反転、未だこちらにチェーンガンを向けようとゆっくり腕を動かすが爆発し、チェーンガンを左腕ごと落下させる。

『降伏しろ!どの道その機体じゃあもう永くは戦えない!その腕前を持っているパイロットなら分かるはずだ!』

大隊長がオープン回線でそう敵パイロットに向け語りかける。

静寂が戦場を包み込む。

『今ならその腕前を見込んで私から直々に総帥に推薦しよう。もし入団がダメだったとしても君が所属しているゲリラ組織よりも好待遇を私が約束しよう。』

大隊長がそう言って投降を促すが一向に返信は帰ってこないと思ったその時、一瞬だけ回線にノイズが走った。

『な、め、るなよ。』

無線機から今にもかき消えそうなか細い声が聞こえてくる。

『貴様らの、ような。薄汚い、政治団体が。我々の、組織を、ゲリラ、組織だと?舐める、なよ!』

敵パイロットは荒い呼吸音と共に怒号を放ち次いで何かを叩きつける音が聞こえる。

『Pilot Survival Program Activated Pilot vitals decreased, aircraft self-diagnosis program activated, scan completed.

There is no abnormality in the combat system, and it is judged that the combat action can be continued.

(パイロット生存プログラム起動 パイロットバイタル低下、機体自己診断プログラム起動、スキャン完了。戦闘システムに異常は無し、戦闘行動を継続可能と判断。)』

無線機から雑音の多い合成音声が聞こえてくると同時にアクチュエーターの稼働音が聞こえてくる。

『何を!』

大隊長の声が無線機の電波に載せられ空間を波及する。

『Laser cutting machine, deployment. The pilot's head is fixed and an anesthetic is administered. Begin craniotomy.

(レーザー切断機、展開。パイロット頭部を固定、麻酔薬を投薬。開頭手術を開始します。)』

無機質な合成音声がそう言い放った刹那、ゴキッという乾いた音とクチャクチャと生々しい音が無線機から聞こえてくる。

『Connect the central processing unit with the pilot's brain structure. Connect clear. Start Mephosto.(中央演算処理装置をパイロットの脳構造と接続。コネクトクリア。メフォスト起動。)』

合成音声がそう言い放つと同時に敵機が加速しこちらに急速に接近してくる。

『!こっの!』

あらかじめロックしていた敵機を迎撃すべくスティックのトリガーを引き射撃する。

『!加速した!』

敵機がさらに速度を上げこちらの機体の真横を通り過ぎる。

『!?まさか!美咲!』

大隊長の悲鳴近い声が聞こえすぐさまペダルを踏み込み機体を加速させ雷撃中隊の方へ猛進する敵機を追尾する。

  ーーーーーー#%#ーーーーーー

今まで感じた事のない憎悪が腹の底からわいてくる。

「コロシテヤル!コロシテヤル!殺してやる!温室育ちの奴隷どもが!」

そう叫び、機体を加速させる。

機体を右にロールさせ高度を下げ背後からの射撃を回避し敵重装編隊を下方から急襲する。

左右に機体を高速で移動させ弾雨を強引に突破し射撃、通り抜けざまに3機を撃破し敵編隊の頭を抑えエアーブレーキを素早く展開し急減速、再度降下し背後から迫ってくる2機に対し射撃し真横を通り過ぎ敵編隊の内部に潜り込む。

弾倉内部の全ての弾を撃ち切った突撃制圧砲を正面の敵機めがけ投擲し牽制、敵機の射撃のタイミングをずらしその間に距離を詰め、敵機の頭部を鷲摑み胸部ガトリング砲をゼロ距離で叩き込む。

炎上した敵機をそのまま盾に前進、別の敵機に叩きつけ盾を足蹴に空中で1回転し射撃、炎上した敵機の爆発に巻き込み2機を同時に堕とす。

胸部クラスターを吹かし高速で後退、機体を反転させその勢いを載せたまま背後の敵機に裏拳撃ちを叩き込み頭部を破壊する。

すぐさま回転方向と逆にクラスターを吹かし急制動、頭部がなくなった敵機の腰に蹴りを入れ先程から粘着してくる敵機めがけ蹴り飛ばす。

「シネ!死ね!奴隷どもが!地獄に堕ちろ!野蛮な血族どもが!」

そう叫び胸部ガトリン砲を放ち敵機を背後から射貫き炎上、爆散させる。

それを横目に近接武器を構えた敵機を視界の端で捉える。

「良い武器じゃね~か!使ってやるよ!」

怒号を滲ませた声でそう叫びながら機体を加速させ突っ込む。

敵機の間合いに入る寸前で機体を逆進させ武器を振らせる。

「馬鹿が!これだから脳みそ空っぽな雌ぶたもどきが!いいか!近接戦ってのはな!」

この世のありとあらゆる不条理に抗うように叫び、敵機の頭部ではなく上部装甲にマニピュレータに着いている強化カーボン製のネイルを突き刺す。

そのまま敵機の薄い上部装甲を捻じ切り引き剥がし、投げ飛ばしコクピットブロックを剥きだしにする。

「こうやるんだよ!」

そう叫び機体のネイルでコクピットブロックを叩き潰す、それと同時に背後のラックを展開し敵機から近接武器を抜き取る。

迫るくる複数のミサイルを捕捉し、敵機の胸部に突き刺したマニピュレータを引き抜き敵機を蹴り飛ばす。

ボンボンボンボンボン

蹴り飛ばした敵機がミサイルの盾となり爆発する。

それを横目に背部ウエポンラックが機体の胴体と残った右腕の間に滑り込みラック自体がせり出し、奪い取った近接武器を展開する。

刀の刃を潰したような近接武器を乱雑に抜き放ち頭部に特徴的なアンテナを備えた隊長機を睨みつけ剣先を向ける。

「来いよ、卑しい売女の末裔ども!はは、ハハハハハハハハハハハハ!」

なにが楽しいのか全く分からないが心が満たされる感覚に包み込まれながら機体を加速させる。

敵機の弾幕に一切怯むことなく突撃する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る