第4話 空の鯨(4)
ビーーーン
分厚い耐冷作業服の越しからでもよく聞こえるように設計されたブザーが鳴り響き背後の耐圧隔壁が施錠させる。
『減圧プログラムを開始します』
当然耳にはめた通信子機から機械的な合成音声が聞こえてくる。
『良いかお前ら。バイザーをしっかり降ろしておけよ。』
班長の声くぐもった声が通信子機から聞こえて、ヘルメットの偏光バイザーを下げる。
『減圧プログラム終了。外部との気圧差1.347hpaです。』
『行くぞ!』
ビーーーン
班長の号令と共にブザーが再び鳴り響き正面のた耐圧隔壁がゆっくり上昇を始める。
眩い光が隔壁板の奥から差し込み偏光バイザーを通過しともなおも網膜をチリチリと刺激する。
班長が走り出したのを合図にそれぞれの持ち場に駆けていく。
格納庫の壁に掛かった機体繋留用アンカーケーブルを肩に担ぎ半開きの対弾シャッターから外に出る。
「まぶしっ!」
さんさんと照りつける太陽の光に思わず手でそれを遮り足を止める。
『マリア!何ボサッとしてんだい?早く行くよ!』
通信子機から景気の良い声を掛けられると同時に背中を叩かれる。
『いったー。強く叩かないで下さいよ。シリアさん』
そう言って両肩合わせて4つの繋留用アンカーケーブルを下げてる女性にしては異様にがたいの良いシリアさんを睨みつけたがバイザーのお陰でシリアさんの顔はよく見えかった。
『オーライ、オーライ、オーライ、よーーーし。』
誘導員が誘導灯でデータセイバーを誘導し、すでに着艦している2機のデータセイバーの隣に器用に着艦させる。
仁王立ちのデータセイバーが突然動き出し、待機形態に移行する。
その姿はまるで、いつか読んだラノベ挿絵のように女王陛下から受勲を受ける騎手様のように片膝を立て頭を垂れる姿が様々だ。
データセイバーの動作が完全に停止したのを確認し、機体の繋留用フックに接続し飛行甲板上に固定する。
『コクピットブロック、解放します。』
通信子機から合成音声が響くと同時にデータセイバーの胸部装甲板が迫り上がり、4対のスライドレールがせりでて、軽い金属音と共に色とりどりの配線が剥きだしの棺桶の用な何かが滑り出てくる。
棺桶の上部が少し開くと同時に煙が隙間から漏れてゆっくり棺桶の上部が完全に展開しコクピットブロックから小柄なパイロットが出てくる。
『寒っ!あ!マーリーヤー!』
陽気な声が聞こえ、データセイバーの小柄なパイロットがこちらに手を振ってくる。
『はーるーか!』
元気な返事をして、手を振り返し晴夏の傍へ駆けていく。
「?」
一瞬、太陽が陰り辺りが暗くなる。
『マリヤ!伏せて!』
耳をつんざくような焦りを滲ませたマリヤの声が響く。
ババババババババババババ
連続した爆発音と共に軽い金属音が分厚い耐冷作業服を通り抜け、鼓膜を揺らすと同時に背後を強い力で押さえ付けられ地面に押し倒される。
『うっ。』
飛行甲板にヘルメットごと頭を強く打ち付け、反射的にヘルメットを抑えながら飛行甲板に片手を付き、ゆっくり体を起こす。
『?なに?これ?』
手にはめたグローブに染みこんだまだ熱を帯びているでろっとした液体を確認すべくバイザーを押し上げる。
ーーーー✝ーーーー
『いや!いやーーー!しっかり、しっかりして下さい!シリアさん!シリアさん!だ、誰か!衛生兵を!は速く血を止めないと!』
無線機から悲鳴に近いマリヤの声が聞こえてくる。
シリアと呼ばれミサイルの破片により引き裂かれた死体を必死に止血処置しているマリヤを眼下に捉え、サイドスティックのトリガーに指を掛けたまま周囲を見回す。
『撃ち漏れらした!済まない!』
無線機から疲れ切った声と共にフランカ小隊の小隊長のクローフィアが通信を入れてくる。
視界に4機のヴァルチャーが映り込み、反転、こちらに背を向け空中を浮遊し周囲を警戒する。
『次はしっかり撃ち落としてよね。』
そう言い放ちコクピットブロックを再び解放する
ゆっくりコクピットブロックがスライドして
き減圧プログラムが動きだしコクピットブロック内部に外の冷却が侵入し体温を再び奪っていく。
『済まない。』
そう言ってクローフィアは通信を切った。
『チッ。役立たずどもが。』
ーーーーー‡ª‡ーーーーー
ピーピーピーピーピーピー
近接磁気センサーがけたたましい音を上げ敵機の接近を告げてくる。
「堕ちろ。」
誰に言うでもなくそう呟きトリガーを引く。
敵機の胸部装甲板を180mm劣化ウラン弾が貫徹し重力に抗うすべを失った敵機が純白の大地に吸い込まれていく。
ピピピピピピピピピーーーーー
ロックオンアラートがけたたまい悲鳴を上げる。
「!サイドワインダー!」
高速で接近するミサイルを視界に納め、ペダルを踏み込み機体を加速する。
素早くレティクルを正面の敵機に合わせロック、ブッチャーメイスを取り出し敵機の射撃に一切怯む事無く突撃する。
衝突する直前で機体右半身のエアーブレーキを展開し回転し敵機を避け背後が取る。
ギャンーーー
金属を引き裂く独特の音が機体の分厚い装甲板を通り抜けコクピットまで聞こえてくる。
「正面敵残り5機。いける。」
コクピットを潰した敵機を盾にし機体をさらに加速させる。
盾にした敵機に閃光ミサイルを撃ちつけ盾を撃ち出す。
敵陣全面で機体のエアーブレーキを全て展開、高度を急激に低下させる。
「爆ぜろ。」
そう小さく呟くと同時に盾にした敵機が激しく閃光を放つ。
エアーブレーキを収納、それと同時に背部ラックを展開し突撃制圧砲を装備、下方から一気加速し敵陣内部に食い込む。
頭部に特徴的なアンテナを装備した隊長機をロック。
トリガーを引き、胸部ガトリング砲を射撃する。
閃光により視界を奪われた敵機はなすすべなく展開された弾幕に引き裂かれ、重力に引かれ無様に落下していく。
炎上する敵機をギリギリで躱し背後から迫ってくる、サイドワインダーの赤外線誘導を躱す。
背後でミサイルが爆発し視界の周囲が明るくなるが一切気にせず敵機をロックし射撃、通り抜けざまに1機撃墜し敵陣の頭を抑える。
空中で急速反転、再び降下する。
視界が回復した3機の敵機が上昇を始める。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
自分の呼吸音でさえ煩わしく感じながら徐々に白くなっていく視界に耐える。
ピピピピピピピピピピピピピピピ
衝突警報がけたたましく鳴り始める。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッッぁぁぁあああ!」
再度上昇してきた3機の敵機の内2機を素早くロックする。
レティクルが変形すると同時に左右のスティックの引き金を同時に引き、射撃、さらにスティックを左側に乱雑に傾け撃破した敵機の真横を通り抜ける。
エアーブレーキを掛け急減速、空を滑るような異常な機動を描きながら敵機の背後を取る。
「終わりd!」
突然視界が真っ赤に染まり反射的に機体を後退させ爆炎の中から離脱する。
『そこの所属不明機に通達します。直ちに戦闘行為を中止しなさい。なお命令に従わない場合は武力を持って制圧します。』
無線機から女性特有の高い声が聞こえてくる。
機体に撃ち込まれた燃焼弾から敵機の位置を逆算し予測データを元に機体を右に回転させながら先程仕留め損ねた敵機に流れるように照準を定める引き金を引き撃墜する。
光学センサーが機体正面の敵機を捕捉しズームアップ、特徴的な機体デザインと部隊マークをライブラリーで検索する。
その間に通信回線を変更し小隊回線を開く。
『ザーーーーーーー』
耳障りなノイズがコクピット内部に木霊する。
『アルファーライカンを確認、ケルベロス大隊だ。総員充分に警戒、これを撃滅する。』
そう言い放ちペダルを踏み込む加速する。
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