第3話 空の鯨(3)
「回避しなさい!」
そう声を張り上げ回避指示をだし、内線電話を乱暴に取り上げ、素早く端末を操作し回線を繋ぐ。
『まだ長距離無線は使えないんですか、レーダーは?!』
思わずヒステリックな声を上げる。
『落ち着きんさい。艦長たる者、部下の前で騒ぐなんてみっともない。』
異様に落ち着いた、しわがれ声でそう窘められる。
『ッ!す、すみませんね。それで、復旧状況は?』
『すまんがねもう長距離無線は直らんよ。』
血の気が引き、イヤな汗がじっとりと背中を濡らす。
『な、それはどう言う『先の直撃さね、第2格納庫には長距離無線マストの予備機があったが一緒に吹き飛んじまった。』!!』
無線機が無いと、展開中の3個大隊を呼び戻せない。
今は辛うじてバイパー大隊の援護が有り、何とか持っているこのギリギリの綱渡り状態だと言うのに、この老いぼれババはテレビのリモコンがなくなった感覚で報告してくる。
『!じゃあせめてレーダーは直しておいて下さい!』
そう言って怒りに身を任せ、内線電話を叩きつける。
「艦右舷側!ミサイル再び来ます!」
「機関減速。急速旋回!面舵30!対空迎撃を!」
そう言って現艦状況を示している一枚のモニターに目を向け思わず苦笑する。
度重なる敵PMTFの近接制圧射撃や飽和ミサイル攻撃に巻き込まれた、対空兵器は数知れず。
すでにゼルニケの対空射撃能力は無いに等しい。
飛来するミサイルに対し艦首を立て被弾面積を最小限に留めると言う自らが命令した苦肉の策に思わず頬がつり上がる。
ドーン
艦が激しく振動し艦橋にもその揺れが伝わってくる。
「くそ!せめて無線機が使えれば!」
砲術官が誰に言うでもなくそう叫ぶ。
ドドドドドドーン
連続した爆発音と衝撃、艦全体が激しく振動し金属が軋む異音が艦橋まで鳴り響く。
「ダメージコントロール!被害報告を急がせなさい。!」
「艦底下部にミサイル複数着弾!被害報告多数!」
「第20弾薬庫で火災を確認!」
「速やかに消火作業を始めさせなさい!砲術官!無線機器ならありますよ!ちょうど良いのがね!」
そう言って内線電話を取り上げ、CICに繋げる。
『速やかにバイパー大隊のアリア大隊長に繋げなさい!』
『少しお待ち下さい』
CICの返事を聞き通信先をCICから整備局に変える。
『聞こえていますね。長距離無線機の外部接続準備をお願いします』
そう言って再び通信先を切り替える。
『こちら艦長のフェリアです。アリア大隊長聞こえますか?』
ーーーーжーーーー
「クソが!いい加減堕ちろ!」
引き金を乱雑に引き180mm劣化ウラン弾を敵機に叩き込む。
火だるまと化した敵機が雲の中に消えていく。
『こちらCIC!アリア大隊長聞こえますか?オバー』
突然CICから連絡が入ってくる。
『こちらアリア、k!』
会話を遮るようにけたたましくロックオンアラートが鳴り響く。
ペダルを踏み込み機体の高度を上昇させゼルニケ正面に周り込み、飛行甲板めがけ全力で加速する。
素早く回線を切り替える
『メビウス!シルバー!』
そう言って飛行甲板上でオーバーファイア形態に移行していたメビウスとシルバーと呼ばれた機体の上部を飛行する。
ボンボンボンボンボンボンボンボン
機体の背後がオレンジ色に発光する。
素早く左右のスティックのボタンを小指で押し機体のエアーブレーキを展開、急減速し飛行甲板上部を火花を上げながら強引に着艦する。
『メビウス、シルバー、カバーを頼む。』
そう言って回線を切り替える
『こちら艦長のフェリアです。アリア大隊長聞こえますか?』
無線機から鈴とした声が聞こえてきた。
『!ハッ!聞こえております。艦長殿!』
驚き過ぎて声が少し裏返り変な声を出してしまった。
『・・・・・アリア大隊長、バイパー大隊隷下の全データセイバーを第二整備ハッチに向かわせて下さい。』
『待って下さい!話しが全く見えてきません!』
そう言ってスティックのボールコントローラを操作し、ミニマップを開き第二整備ハッチの位置を確認する。
『データセイバーの長距離通信機能に艦の長距離無線機器を接続します。』
そう言ったフェリア艦長の声は確かな自信に満ちていた。
『な!確かにデータセイバーの長距離通信機能に艦の無線システムを接続させることは可能です』
そこまで言って息を呑む。
『なら!今すぐ、全データセイバーを第二整備ハッチに 。』
そこまで言って艦長はハッと息を呑む。
『大隊長して大隊全員を危険に晒すことは容認できません。』
確かにデータセイバー全機を接続し通信ネットワークを構築し艦の長距離無線の発信機に利用する事は確かに可能である。
これは『PMTF基本応用教本』に書かれており、平時におこなう応急処置的な物のとして推奨されている。
ただし、それはあくまで平時の話しであり有事まして、戦闘中では全く話しは変わってくる。
『敵のミサイル誘導の撹乱や通信妨害、友軍機の演算支援をしているデータセイバー、それらがおこなっている友軍機支援行動を停止にすれば、今現在死ぬ気で戦っている部下たちが文字通り七面鳥堕としのごとく撃墜されます。』
そこまで言って再び息を飲む。
『それをするなら、私は推進剤・及びの各種弾薬類の補給、それをおこなえば我々だけの戦力で敵をげきt『それが無理なのは君が1番よく分かっているだり?アリア大隊長。』・・・・・・。』
その事実は、自らがPMTFを駆るパイロットであるアリア自身がよく分かっていた。
推進剤切れで碌な補給を受けられず、飛行甲板上でただのデカい対空兵器と成り果てていた、メビウス、シルバー、その両機を見れば一目瞭然であった。
『チッ!ならあんたらが受け入れてくれば済む話だろうが!』
思わずそう無線機に怒鳴りつける。
『すでに艦全体で損傷率は40%を切りました。もはや本艦だけで対空戦を継続するのは不可能です。それは貴方だって同じはず。』
ボール
不意に視界の端で1機のPMTFが爆散する。
視界の端に映る友軍機リストのタブが無慈悲に少し短くなる。
『・・・・・・・・・ッ了、解。』
怒りに震える声を何とか抑え殺し、回線を切り替える。
『・・・・・・・・・・・・』
重たい沈黙が狭苦しいコクピットを包み込む。
覚悟を決め、息を大きく吸い込む。
『グラウラー小隊!聞こえているな?第二整備ハッチ前に集結し整備班の指示に従え。
フェンサー、フランカ、各小隊はグラウラー小隊を護衛しろ。ファンタゴ、フォージャ小隊は私と共に艦の対空防衛任務に就く。』
そこまで言って、一度息を飲む。
『大隊各員。一度しか言わないから良く来て欲しい。私は、副官が、大隊各員が私の事を影で「単細胞生物」と馬鹿にしている事を知ってる。いつもいつも面倒くさ事を副官に押しつけて、事務作業から惨めに逃げ回っている事に対して、文句を垂れている事も知っている。
ただ私はそんな、何気ない日常が好きだ。この艦の、人間味溢れる仲間たちとの交流が大好きで、それを心底、守りたいと思っている。
私の日々のわがままに付き合わされている大隊各員なら付いてこれるはずだ。
我々はこの日の為に、この戦いのために全力を尽くす。敵を壊滅的な打撃でねじ伏せるてやれ!私たちは、いや、我々は自身の命を賭け、例えすべてを失ったとしても、我々はその使命を完遂する!行くぞ!』
そう言ってペダルを軽く踏み込み機体の高度を上昇させる。
『・・・・まったく。あの時、腹が痛いと言って執務室から逃げ出した時の書類はまだ残取ってありますよ。帰ったしっかり処理して貰いますからね、ア、リ、ア、大隊長殿。』
突然無線機からミレーユの生意気な声が響き、何とか創った緊張ある空気を一撃で粉砕する。
クスクスと笑い声が聞こえてる。
『あ~~あ。どうやら賭けは貴方の負けのようですね。クラビーア少尉。』
『いや、まだです。アリア大隊長殿!具体的にはいつ頃気づかれたんですか!これは今後の私の食事が「もやし」一筋になるかならないかの重要な問題なんです!慎重に答えてください!』
そんな馬鹿げたやり取りに当てられコクピット内部に漂ってた重々しい空気が自身の心の凝りと共に吹き飛ばされる。
『さ~~て!それじゃあ殺りますか!合計撃墜数が1番低い小隊が大隊全員のディナーを奢ることにしましょうか!あ、異論は認めません。これは大隊長の変わりにいつも事務作業を肩代わりしてきた副官特権です!』
副官であるミレーユはうれしそうに声を弾ませそう言い放つ。
『まったく・・・各小隊は作戦行動に移れ!親衛隊の雀どもに空の過酷さを教育してやれ!』
あきれ混じれにそう言い放ち補給を終え接近する敵PMTF編隊の中の1機をロックしスロットルレバーを乱雑に押し上げ機体を加速させ
突撃する。
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