第2話 空の鯨(2)
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ
パイロットの居住性を全く考えられていない狭苦し過ぎるコクピットの内部、額に汗を浮かべ激しく息切れ起こしているアリアが視線を上げる。
それに追従し機体の視線も潰した敵PMTFのコクピットから外れ、視界に納まっている敵機をオレンジ色で表示でハイライトする。
ピーピーピーピーピーピー
近接磁気センサーがけたたましい音を上げ敵機の接近を告げてくる。
慣れた手つきでスティックを操作しクローを格納するも異常を示すポップアップが視界の端に表示される
「チッ!」
舌打ちしクローしサイドスティックをからパージコマンド選択、実行。
ボンボンボン
コクピットまで響く低い爆発音と共に変形したクローをパージ、胸部クラスターを吹かし敵の射撃を火花を散らしながら左右へスライドしながら後退する。
赤色でハイライトされた敵機を睨みつけながらスティックに付いているトリガーを引き機体胸部のバルカン砲を射撃牽制する。
その間に背部ウエポンラックが機体の胴体と両腕の間に滑り込みラック自体がせり出し右手に装備していたブッチャーメイスを回収し回転、逆側に付いている『180mm突撃制圧砲』を取り出す。
虹彩の動きとスティックに付いているボールコントローラを親指で回転させ素早くレティクルを合わせる。
レティクルが変形し敵機のロックオン完了を告げる。
トリガーよりも一回り大きい引き金を引く。
毎秒10発のレートを持ってして撃ち出された、高速の180mm劣化ウラン弾が2機の親衛隊仕様のPMTFの複合装甲を容易く貫通しミンチにする。
ピピピピピピピーーーーーー
けたたましい音がコクピット内部に木霊し、咄嗟にペダルを踏み込みクラスターを吹かし機体を跳躍させ機体に内包されているフレアをありったけ放出する。
ボンボンボンボン
視界がオレンジ色一色に染まり機体震度がコクピットまで伝わってくる。
機体の温度上昇を知らせるアラームが鳴り響き爆煙から脱出すべく機体の高度をさらに上昇させる、のではなく逆に斜め下に降下する。
ピピピピピピピピピーーーー
再び鳴り響く耳障りな警告音を聞き流し機体を上下左右、ジグザグに飛行させ敵機の銃撃を回避する。
戦術ドローンからの映像を横目で確認する。
「数は4。行けるか。」
そう呟きスティックを一気に傾け、雲の中に機体を沈めデコイを発射する。
すぐさまバッテリー駆動に切り替える。
左スティックに付いているスイッチを入れ、光学センサーを切り替え赤外線カメラの結果を反映さ、敵機のジェネレーターが発する熱源を頼りに敵機が通り過ぎるのを待つ。
4機すべてがデコイに引かれ、目の前を通り過ぎる。
最後尾の敵機が通り過ぎ他のを確認しバッテリー駆動からジェネレーターに切り替え最後尾の敵機の後ろを取り、撃発。
敵機が炎上し異変に気づいた残り3機が急減速し反転する。
左右のスロットルレバー手前に引き戻し左右のスティックの小指のボタンを押し込む。
機体のエアーブレーキが一斉に展開、急減速と同時に上昇。
3機の敵PMTFの頭を抑える。
視界に映る3機の敵機にそれぞれ照準を合わせる。
レティクルが変形しロックオンが完了。
左右のスティックに付いているトリガーと引き金それを同時に引き、射撃する。
両手で装備している180mm突撃制圧砲が胸部に内蔵されているガトリン砲が放つ90mm黄リン徹甲弾がそれぞれロックした敵機にめがけ正確に放たれる。
180mm劣化ウラン弾の直撃を受けた2機は文字通り蜂の巣となり重力に引かれ落下しいく。
不幸にも胸部の90mm黄リン徹甲弾を叩き込まれた敵機は装甲内部にばら撒かれた高温の熱と黄リン燃焼時に発生する大量の有毒ガスで炙られ、やがて死にいたる。
他の機体とは一歩遅れて落下を始めた敵機を視界に止める事も無く機体を回転させた刹那
バーーーン
自機の周囲を多いその身を隠していた雲が一気に晴れる。
ピピピピピピピピピーーーーー
「!新手か!」
ロックオンアラームがけたたましい悲鳴を上げ自機のロックオンを知らせる。
ペダルを踏み込み機体を上方へ一気に加速させ高度を上げる。
続けて機体を傾ける急旋回し、急降下。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッっああ!」
呼吸が苦しくなり視界の端が白くなるがその全てを振り切り、右スティックのボタンを押し込む。
機体右半身の格納されている全てエアーブレーキが一斉に展開、訓練でも体感したことのない慣性に襲われスティックを握っている腕の各種関節が悲鳴を上げる、が全て無視しペダルから足を話し機体の慣性だけを利用し低速落下させる。
それと同時に、スティックのボールコントローラとヘッドギアの虹彩補正で素早く機体正面から迫り来る数発の空対空ミサイルに照準を合わせ、トリガー、引き金そして頭部ガトリン砲のトリガーであるスティック正面下部の出っ張り、その全てを同時に引く。
低速落下を続け、迫り来るミサイルを両手の180mmチェーンガンが胸部の90mm黄リン徹甲弾が、頭部ガトリン砲がそれぞれ撃墜していく。
アリアの視界をオレンジ色の爆炎が包み込み。
「!」
一発のミサイルが展開された弾幕を幸運にも突破しアリアの機体に猛進する。
頭部を稼働させガトリン砲の照準を定めるも今までの経験がもう間に合わない事を告げる。
ならと咄嗟にフレアを放出しミサイルを回避できない。
『No Bullets Left』
視界の隅にフレアの残弾が無い事を告げるポップアップが表示される。
「!」
最後の足掻きとばかりに両腕を胸部全面でクロスする。
バン!
突視界が真紅に染まり、機体の高温を知らせるアラームがけたたましくコクピット内部に木霊する。
「これがまさに、『タイムリーな介入』ってやつかな?アリア大隊長殿。」
無線から皮肉めいた陽気な声が聞こえてくる。
「・・・任務中だ私語は慎めミレーユ。」
「はいはーーい。てかそれよりもまず、何か言うことがあるんじゃないんですか?」
「ああ、そうだな。」
そう言って、無線の通信ボタンを押し回線を開く。
「バイパー大隊全機に通達、グラウラー小隊は引き続き各小隊の情報支援を継続せよ。フェンサー小隊以下、各小隊はキューブホーメーション!ゼルニケに敵機を近づけさせる!」
そう言ってペダルを踏み込みスロットルレバーを押しミレーユの機体を置いていき加速する。
「ほんとに、うちの大隊長は単細胞なんですから。」
ミレーユはそう言ってペダルを踏み込み大隊長機の後を追いかける。
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