15:四人の騎士様によるエスコート

 食事を摂った後は王立図書館へ行き、瘴気を取り除く方法はないか探してみた。

 どの文献にも『瘴気を祓えるのは聖女が持つ奇跡の力、すなわち浄化の力だけ』と記載されていた。


 ギスラン様を神殿へ連れて行き、聖女に浄化してもらう……そんなの無理だ。

 過去、私と指先が触れ合っただけでも熱湯に触れたかのような反応を示していたのに。神聖力を真っ向からぶつけたら、ギスラン様は死んでしまいかねない。


 司書に『魔穴』に落ちた人の話が記載された文献はないかと聞くと、怪訝そうな顔をされた。


『魔穴』に落ちたら死にますよ。『魔穴』の向こうは魔界。人間にとっては毒ガスに満ちた部屋に放り込まれたようなものです。死ぬ以外ありません。


 司書の回答はそっけなかった。


 でも、生還した人がいるんです。

 私が食い下がると、司書は小馬鹿にしたように笑った。


 ――では、その人は人間ではないのでしょうね。




 やるせない気持ちのまま時間は過ぎていった。

 午後六時を告げる鐘が王都に鳴り響く前に、私は《銀獅子宮殿》へと戻った。


 待ち構えていた侍女たちに着替えを手伝ってもらい、いつもより二倍は重いドレスを着込む。


 これからこの国の王と謁見するのだ。相応しい装いをしなければならない。

 胸元と首元はダイヤモンドで飾った。

 ドレスは私の瞳に合わせた琥珀色を基調に、白色も取り入れている。

 開いたドレスの胸元には付け襟を添え、色気よりも慎ましさや上品さを演出。


 頭には黄色の薔薇を象った髪飾りをつけた。


「ありがとうございました」

 侍女たちに礼を言ってから、私は部屋を後にした。


 うう、ドレスが重い……コルセットがきつい……夕食を後にして正解だった……。

 嘆きながらも控えの間を通り抜け、廊下に出た瞬間、私の目はあまりの眩しさに眩んだ。


 それぞれ似合う正装をした四人の美しさときたら、尋常ではなかった。

 四つの太陽が突然目の前に出現したかのよう。

 彼らの周りだけ、やたらと空気がキラキラ輝いている!


「わあ、可愛いねリーリエ。よく似合ってる。天使かと思ったよ」

 それはこちらの台詞です、エミリオ様。

 私の目にはあなた方の背中に純白の翼が見えます。


「……ああ。すごく可愛い」

 私を見つめ、半ば惚けたような顔で頷いたのはフィルディス様。


「ありがとうございます……」

 そんな大げさな反応をされると照れてしまう。顔を合わせられません!


「よし、このままオレと結婚式を挙げよう。ドレスも白っぽくてちょうど良いしさ」

 そう言って、ルーク様は純白のフィンガーレスグローブに包まれた私の手を掴み、ウィンクした。


「え、結婚式? その場合、もちろんリーリエと並んで立つ相手はぼくだよね? ぼくの衣装、黄色と緑でお似合いだし」

 ルーク様の手を引っぺがしてエミリオ様は私の肩を掴み、抱き寄せた。

 彼の体温を感じ、全身がカッと熱くなる。


「落ち着け、お前ら。リーリエが困ってるだろう。リーリエがこの世の誰よりも可愛いのは以前からわかっていたことだ。廊下で暴走するな」

 呆れたように言ったのはギスラン様。

 い、いまさらっと凄いことを言われたような……。


「で、誰がリーリエのエスコート役をやるんだ?」

「悔しいけど、やっぱりここはエミリオだろ。一番身分が高いし、リーリエをここに連れてきた本人なわけだからさ」

「ふふーん。やったね。王子に生まれて良かった」

 エミリオ様は嬉しそうに笑い、恭しく私の手を取った。


「じゃあ行こうか、お姫様♪」

 にぱーっという擬音がつきそうな、最高の笑顔を向けられた。


「はい。よろしくお願いします」

 私は頬を赤くしながらも、エミリオ様に手を引かれて歩き出した。


 四人の美しい騎士にエスコートされて歩く私を、すれ違う侍女や兵士たちが見ている。


「ほら、あれが噂の……」

「どなたを選ばれるのかしら……」

「私なら絶対エミリオ様……」

「氷の騎士様も素敵……」

「あら、炎の騎士様だって……」


 どこからともなくヒソヒソ声が聞こえてきて、私は顔を伏せ、歩くことに集中した。


 羨望、嫉妬、好奇。

 様々な種類の視線を受けながら、私は第二会議室に向かった。

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