第10話 ご自愛と尊重
自分にとって意味のあるものにする。
よく聞いてきた言葉。
私は思う。自分に基準を置いたとき、
この言葉は成り立つ。
けれど、自分が確定していない時、この言葉の意味を知る事はとても難しく感じる。
何が自分にとっていいものか。私には分からない。
思春期に入る。
周りの人に興味が湧くようになった。
その中で、気になる人もできるようになった。
中学生の夏。同級生に恋をした。 中学生最後の冬 別れを経験した。
高校生の夏。彼に恋をした。 今も継続中だ。
ただ、私の初恋は小学生の時の幼なじみだった。
私は違和感を初めて抱いた。
人に恋をする事は当たり前。そんな感覚は分かってた。けれど、全ての人に恋心を抱く自分を受け入れる事は困難を極めた。
周りと異なる事を避ける性格が、根底に敷かれていたからだ。
「おはよう。」
「心愛!おはよう。」
毎朝優しい彼女はクラスの何人かの男女に挨拶をする。その中に、私も含まれていた。
毎朝送られる挨拶の言葉と笑顔は給食の次に楽しみであった。
そんな毎日は続かなかった。
彼女は急に学校に来なくなった。
「頑張ってくるね。葵の為にも。」
登校が途切れた7日前くらいに彼女が言ったセリフだった。
何事も考えていなかった一言に当時の彼女はどれだけの意味を込めていたのか。私は考える事もせず、そのまま片隅に置き去りにしていた。
風化してしまった物を元に戻そうだなんて都合のいい事なんてできるはずがなく。
ただ、呆然とあの言葉を脳裏に咀嚼することしか出来なかった。甘い本来の味が出るはずなのに、うつつに残ったのは苦い後悔の味。
親から彼女の入院を知らされたのは1週間後である。
「お見舞い行ってもいいのかな?」
手の中のハンカチを握りしめながら、
背を向けた母に尋ねてみる。
「貴方がそう思ったのなら、それが一番なんじゃないかな。」
そう言いながら、ジーンズの右ポケットに手を突っ込んだかと思うと、光沢を纏った硬貨数枚を私の手を開き、叩きつけた。
「差し入れ選んで、行っておいで。一人で行ける?一緒にいこうか?」
「大丈夫。」
私だってもうあと何ヶ月かしたら中学生だ。
これくらい1人でやれるはず。
なにより、2人きりになりたい。この想いはきっと無粋なものでないはず。きっと…きっと…。
突き当たりを右に曲がり、商店街に入る。
行きつけの饅頭屋で、1つ摘んで病院へ向かう。
重い金属製の扉はいつもより重い。
残念な事に、フロントは人で溢れかえっていた。
「心愛さんいますか?」
「名字は何かな?」
「新島さんです。」
「こちらへどうぞ。」
後をとぼとぼついて行く。
窓から差し込む光は異様に明るい。
目の前に会いたかった心愛が目前に。
考えるだけで、足取りは軽くなった。
名前を書いていたであろう板の上には
「新島 心愛」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
ゆっくりフロントのお姉さんは戻っていく。
ゆっくりドアのノブに手をかけ横に引く。
ベッドの傍には大人が1人。少女に寄り添っている。
「あおいちゃん?」
「おばさん。こんにちは。心愛は大丈夫なんですか?」
「気にしないで。それほどの事じゃない。今さっき差し入れに持ってきたお菓子とご飯を食べて、おなかいっぱいで眠ってるのよ。せっかく来てくれたのにごめんね。」
「いえいえ、これ良かったら。」
「ありがとう。よろしく伝えておくわ。」
「失礼します。また。」
喋りたかったなぁ。という欲と、そんなものを見せたくないという葛藤が頭を埋める。
二分の一成人式の時にいわれた
「あなた達もあと半分で成人です。大人の階段のその先も徐々に見えてくる」
こんな事で弱音を上げていてはダメだ。
重いドア引き切ったあと、漏れた言葉は
「信じてるよ。」
顔を必死に吊り上げた。
その日は感情を一日中吐き出した。
たくさんの涙を袋に溜めた後安定を装い
廊下を抜けて外へ出た。
しかし、私は吹いているはずの風とその冷たさを感じることが出来なかった。
こんな自分を尊重すれば見えてくるのは周りとの違いであったから。
自愛と尊重が同じものでは無いのだと心に沁みた
僕が愛した君は今 5の遣い @cat7fish3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕が愛した君は今の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます