第5話 優しさかお節介か。

「あれ?部屋間違えたかな。」

入口の名札を見てみる。すると、彼女の名前は無かった。

そもそも名札が消えていた。

「部屋間違えて覚えたかな。

仕方ない。今日もまた、逢いに来てくれるだろう。」

そんなこんなでまた部屋に戻った。

しかし、その日から時間が経てど決して佐々木さんが来ることは無かった。



別の日

もう一度あの部屋を見に行く事にした。

流石にかなりの頻度で会っていたのに、いきなり来なくなったのは気になってしまう。

けれど、「佐々木」その名前は入ってなどいなかった。

オマケに別の人がその部屋を利用していた。

なんだか、虚しくなった。

何故なら、佐々木さんの部屋、それは初めて僕が佐々木さんと出会った部屋でもあったからだ。それが、今になると、佐々木さんも、僕もそこに居ない。さらに、他の人が利用している。

「あぁ、またこんな感じか。何なんだろうね。ホントに。」

何とも表現しがたい気持ちがふつふつと湧き上がってくる。

イライラ。寂しい。

一言で表すと孤独。すると、違和感が頭に信号を送ってきた。

「うん?」

何か。視線を感じる。

鳥肌が立つ。

恐る恐る周りを見渡してみる。

すると、見覚えのある人がこちらを見ていた。

「あの!」

「は、はい。何ですか?」

やけに挙動不審な。

「こちらを見ていたのが気になって。」

「何してらっしゃるのかなって。」

「いや、佐々木さんが居なくて…

名札も無くなってるんですよね。」

途端に彼女の顔は恐ろしい物を目にしたかのような青さに変わる。目を逸らしこちらを見ようとしなくなる。

なんて分かりやすい人なんだって思った。

「何か知ってますか?」

「い、いや、別に。あ、仕事あるのでじゃあ。」

「知ってますよね?もう分かってますから。」

「………」

彼女の額は汗ばみ始める。

「夜か夕方時間があれば、会いましょうよ。広場で待ってますから。」

「勝手に動いてはダメなのでは?」

「実はもうすぐ退院出来そうなですよね。

それくらい体は元に戻ってる。

深夜近くになると、流石に病室送りですけど。」

「……」

早足で立ち去る彼女を後ろから俺は、見ていた。






ガタ、ガタ、ガタ。地面が強く蹴られる音。

ガチャン。ドアの閉まる音は静かな部屋に響きわたる。

その中に、交じる激しい呼吸の音。

「どうしよっかな。」

汗にまみれた手で、ポケットからシワシワになったくしゃくしゃの布切れを取り出す。

そして、雫を拭う。

「神崎…」

ガタ。 ロッカーの鍵を開け、ドアを荒く開く。

そして、カバンの中から1枚の手紙を取り出す。

「神崎……あなたの望む幸せとは何なの?」

手紙に真新しいシワが生まれる。

手紙の表面には一滴の雫の跡。

その手紙の間から、一枚の写真が落ちてくる。少し古ぼけた2人の写真。それを丁寧に拾い上げる。

「でも、誓ったもんね。幸せの為に、協力するって。」

手紙の間に写真をそっと、慎重に差し込み、

鞄にしまった。

「ふふふふふ〜、ふふふ〜、ふふふ〜、ふふふん!……」




ガタン。












その日結局僕の元に彼女が現れる事は無かった。






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