第4話 あなたの愛した花言葉。
「伝え方って様々なんですよね。
物を介してみたりとか。
でも、やっぱり感情って大切だと思うんですよ。
人間らしさっていうのかな。
感情って人間の生まれ持った固有の特徴でもあると思うんです。
それに気づいてあげる力も時には大切です。」
俺な
テレビをつけた際にゲストで来ていた名の知れた作家が話した言葉だ。
伝え方は様々か……
ふと見渡す。何か使えそうな物は……
普段考えない事となるとそう簡単に思いつかないものである。
ふと時計に目をやると時刻は11時56分
あっ……やべ。
12時に佐々木さんとの待ち合わせには、、
遅れる訳にはいかない!
出せる限り、全速力で足で地面を蹴り飛ばす。
片足運動を繰り返しつつ、最大限の周りへの配慮も怠らなかった。
広場の真ん中の大きな木。その下には彼女がぽつんと座っている。その影はとても小さく見えた。
「ごめんなさぁぁぁい」
目の前の彼女は振り返った。
しかしそこには身知らぬ顔の、女性が女の子を抱えていた。
「えっ……?」
心の底から湧いてきていた申し訳無さと焦りは一瞬にして困惑へと色を変えた。
「ママ、このおじさんだれぇ〜?」
女の子が発したその一言は僕の気持ちを困惑から類まれない羞恥心へと変えた。
人違いを起こし、自らを地獄へ貶めた悲しき
おじさんに皆の視線が集まってくる。
恥ずかしさが極限に達し、体は謎の緊張に犯される。体が石のように動かない。
張り詰めた空気の中どうしようもなく時間だけが流れていく。
すると、
「神崎さん!遅れてすみません。」
その一言は張り詰めた空気感を切り裂いた。
「えっ?」
振り返ろうとした瞬間、腕を思い切り引かれた。
そのおかげで、体の緊張は解けた。
しかし、足が絡まって彼女と僕はそのままずっこけてしまった。
「ぶは。ハハハ。」
周りの人はその滑稽な光景に笑い声を上げる。先程の氷のように冷たかった空気感は嘘のように、お茶の間で談笑をしているかのような暖かい雰囲気へと表情を変えた。
俺と彼女も焦りに焦って転けるという状況におかしい状況に笑いの感情が溢れ、羞恥心をも凌駕してしまった。
その内、周りの人が僕たちに手を差し伸べてくれた。
そして、別れた。
その時ですら、相変わらず僕らは笑顔だった。笑って別れるなんて何年ぶりなんだろう。そんな気分に陥った。
結局真ん中の木はやはり人が多かったので、
木の近くのベンチに座った。
なんだろう。事故以来女性の隣に座ってなどいなかった。いや、そもそも女性の看護師の方としか接していなかった。
いざとなると、体が自然と強ばった。
何を話そうか。そもそもどう話の切り口を出せばいい?この状況を打破するには?
よく考えたら相手について全く知らない。
「神崎さんって外に出たいですか?」
「そうですね〜。やっぱりずっと病院だと息が詰まりそうですね〜。」
アイコンタクトの際に見える、彼女の真っ直ぐな目が僕の心にくすぐりをかける
「やっぱり、花畑とか木のそばで寝っ転がりたいです!」
「木って例えば?」
彼女に深堀された事がなかったので、心拍が跳ね上がったのを感じた。まぁ、彼女の気を引けたのならいいか。
「それこそ、あの大木によく似てますよ。」
先程の大きな木を指差しながら、伝える。
すると、
「そうですか。」
僕には彼女が決して明るい気持ち1色に染まっているようには見えなかった。
しかし、次の一言を話す時には、いつも通りの彼女に変わったいた。
「もうひとつだけいいですか?」
少しおちゃらけた表情でこちらを見る。
「何でしょうか?」
「人と関わっていたいですか?外に出ても
ずっと。」
はっとした。心が締め付けられた。
鼓動が早まる。
「それはどういう意味で?」
「あなたの思うままに答えてくれてもいいんですよ。」
「……」
とても、試されているかのように。頭がクラクラする。隠れボスを目の前にしたかのように。
いや、僕には思う人がいる。顔を下に向けた。みれる気などしなかった。
「もちろん人と関わっていたいと思います。
病院生活で、もう孤独は散々味わいましたから。それに…」
「それに?」
「今までもお伝えしてきましたが、僕には寄り添ってくれた人が居る。消息は分からないけど。ただ、彼女の想いを裏切る事はしたくないので。僕の恋が再び花咲く日はまだ遠いかもしれませんね。」
これでいい。ハッキリと。これが僕ができる最大限だと。彼女を振り回しどん底に突き落とす結末など。そんなの僕、いや彼女が許さない。
顔をそっと上げると今度は涙を流す佐々木さんが居た。
「良かった…」
「えっ?」
「あ、いや、何でもない。何だか、神崎さんが健康な状態に戻っていってるような気がして。」
佐々木さんは陰ながら僕の事を心配してくれてたんだと。初めて知って目頭が少し熱くなった。
そして、
「あなたらしくて素敵。」
彼女のその一言を聞いた瞬間頭の中にある思い出が見えた。
それは、僕が君と話してる時だった。
「将来何がしたい?」
「この手で美しいものや心に響く物書いていきたい。そして、僕が書いた絵で想いをとどけたい。」
「どうして絵にこだわるの?言葉で伝えたっていいじゃない。」
「僕は人と話すのが苦手でね。心を開くのに時間がかかる。だから、相手を目の前にしては本当の想いを伝えきれないような気がするんだ。」
「へぇ〜」
「それに、絵ってさ人それぞれ感じかたって異なるからさ、色んな人の考え方が分かって面白いんだよね。」
「確かに色んな人に刺さりそう。
本当、あなたらしく素敵だと思う。」
「逆に聞くけどさ、何がしたいの?」
「私は花が好きだから、とにかく花を使ってなにかしていきたいかな。」
「花か…あんまり分かんないな。どういう所が好きなの?」
「ちょっと似てるけど、花1本1本にも意味があってね。花言葉とか名前の由来とか。」
「へぇ〜。何だか深いね。」
「そうでしょ?」
「それも君らしくていいね。」
「ちょっと真似しないでよ。」
「へへへ。」
あの頃の彼女の真っ赤な頬と笑う顔、それは彼女にとても似ていた。
そんな気がする。
「ありがとう。」
気づいたら窓に映る景色は暗くなっていた。
あの後何事も無く、別れた。
少し、しんみりとした雰囲気ではあったけど。
そういえば、
「また、いつか」
そんな言葉も言ってたな。どういう意味なんだろう。
まぁいっか。
そして、僕は目を閉じた。
次の日彼女の部屋に行ってみた。
そこには、新品のベッドとピンクの薔薇3本が花瓶に添えられていただけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます