第7話

「新藤くん、聞いたか?」


如月は息を呑むような表情で新藤を見た。それに対する新藤も目を丸くして頷く。


「はい、聞きました…」


「あいつ…吾輩は猫である、と言ったよね」


「……胡散臭いですね」


「ああ、胡散臭い」


疑いの目を向ける新藤と如月に、宮崎は憮然とした表情を見せた。


「なぜ、吾輩の態度をそんな目で見る? 吾輩は人々の集合意識から、猫のイメージを反映させて、キャラクターを作ったつもりだ。人は猫の人格に対し、このようなイメージを抱いている、と解釈したのだが」


「集合意識…どう考えても、一部の人間のイメージを参考にしているとしか思えないが」


呆れるような如月を宮崎は睨み付ける。


「そんなことは、考えなくて良い。それより、吾輩に何の用だ? 人は言葉というものが使えるのではないか。幸い、吾輩もこの状態であれば、自由に言葉を使える。だとしたら、用件を話せばいい」


新藤と如月は顔を見合わせ、どうしたものかと、お互いの意見を求めた。


如月が「お前が行け」という具合に顎で指示したので、新藤は渋々といった表情で、宮崎の方を見上げる。


「えっとですね、猫さん」


「ミャン太」


「え?」


「吾輩の名だ。ミャン太と呼ばれている」


「ほう。名前は既にある、というわけか」と如月。


「では、ミャン太さん。私は貴方が今、取り憑いている、その女性から依頼を受けています。自分の体が夜な夜な勝手に動いているから、何をしているのか調べて欲しい、ということでした。それから、もし何者かが彼女を操っているのだとしたら、その目的についても把握したいそうです。だから、貴方を尾行して、貴方が何をしているのか、僕たちは確認しようとしていました」


「なるほど。それは、静流に悪いことをした。いや、悪いことをしている、と最初から分かっているつもりだ。しかし、吾輩にも事情がある」


「では、その事情と言うものを教えてもらえないでしょうか?」


「ふむ…人間には悪いやつもいる、と吾輩も学習した故、誰それ構わず、事情を話すことは憚れる。しかし、静流が信用している人間であれば、話しても良いのかもしれない。私は静流について信用しているからな」


「では、お願いします」


しかし、宮崎は一向に話し出すことはない。数秒、沈黙が流れ、新藤は首を傾げる。


「どうしたんですか?」


「……ふむ、それがだな」


宮崎が自らの心情を説明しようとしたときだった。何者かが、こちらに近付く足音が聞こえた。真っ先に宮崎がその方向を確認し、新藤と宮崎もそちらに視線を向けた。


人影は真っ直ぐと新藤たちの方へと向かってくる。既に夜中と言えるのような時間だ。もしかしたら、面倒事になるかもしれない、と新藤は思ったが、それは予想を遥かに超える、面倒事であった。


「お? こんな時間まで探した甲斐があったぜ」


公園の街灯が、その人物を照らすと同時に、隣の如月が小さく悲鳴を上げた。


「し、新藤くん…あいつ!」


如月は震える指先をその人物に向ける。そして、その人物は口の端を吊り上げるようにして笑った。


「見つけたぜ、如月葵」


その人物は、謎の襲撃者、乱条であった。

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