第五話 表と裏、双子の城フェヴリエ
不規則な振動に合わせて、ガタゴトと音がしました。座布団はあるものの、急激な振動におしりが痛くなります。
建付けの悪い窓から外のほこりっぽい臭いが漏れてきます。しかし、流れていく外の景色は爽快で、いつまで見ていても飽きません。
フェヴリエ城は一つではありません。私たちが生活している城は荒野側にあるので
しかし、兵士上がりのお父様は『こんなところで国は守れない』と、国軍の建物を改築して外城としたそうです。
本城のある首都ルヴェルソーは荒野から内陸へ歩いて一週間ほどかかります。昼夜問わず歩いても三日間かかる距離。万一、トレントに城壁を破られたとしても、本城まで攻め込むには、時間がかかるでしょう。
私としては国を司る国王は本城にいるべきだと思うのですが、お父様とお母様はかなり自信があるようでした。
私たちは年に一度、本城へ行きます。国のために貢献してくれた人々へ、国王自ら褒章を授与する儀式のためです。
毎年の訪問日は決まっていません。トレントとの戦いの状況などにより変化します。
もちろん、歩いていくのではなく、魔導車という魔術で動く乗り物を使って移動します。
家族三人で移動中、水入らずで過ごすのも一つの楽しみでした。普段は国王と后という立場のため、ゆっくりと話すこともままなりません。
「本城では、礼儀作法を見られているようで堅苦しいですわ」
「そのためにユーゴからも教えてもらっているのでしょう。練習の成果を見せるときですよ」
兵士ばかりの外城とは異なり、文官がいる本城では、私の一挙手一投足を見られている気がします。
お母様から普段の勉強の成果を見せるように言われてしまいました。
お父様とお母様へさまざまな話をしました。これまで勉強してきたこと、兵士たちの様子、ときどき訪れた街の様子などです。お父様もお母様も楽しそうに聞いてくれました。
これほどまで、理解してくれるのに、魔術と武術を学ぶことだけは禁止されている理由がわかりません。危険のため、トレントのいる荒野へ近寄ってはいけないことは理解できるのですが。
「あ! お父様。お母様。本城が見えてきましたわ」
フェヴリエ城本城は、小高い丘の上にそびえる黄色い壁と茶色い屋根の城。周りをぐるりと城壁で囲まれた城の四つの角は塔であり、その上部は見張り台になっています。
遠くから見る本城は、まるでおもちゃの城のようでした。
中央の城から屋根続きに複数の建物が並んでおり、政治の中心である役人たちの議事堂へとつながっています。
城の後ろは森になっており、丘全体が孤立しています。住民が暮らす街のどこからでも見えるフェヴリエ城は、ルヴェルソーの街全体を守っているようにも見えました。
兵士の彫刻が施された狭い門を抜けると前庭があり、緑に覆われた庭の中心には噴水があります。
ここで魔導車から降りて城へ入りました。
「では、リュヌはビアンカと一緒にいくのだな」
「はい。お父様」
ビアンカは本城にいる魔術士です。その昔、お父様と彼女は、この国で一、二を競う魔術士であり戦友でした。
しかし、お父様が国王となり国軍を退役したのと同時に退役し、この本城を守る魔術士となったそうです。
当時、世界を統括するバシリッサ国は、先代の盟王が
そして、お父様が外城へ移れたのも、彼女が本城を守ってくれるからだそうです。
「ビアンカ。リュヌを頼むぞ。くれぐれも余計なことを教えたりしないようにな!」
「ルイ。相変わらず、親バカね。大概にしないと、あとで悲しみに溺れてしまうわよ」
「そ、それでもだ……」
国王であるお父様も、お母様と同様にビアンカには頭が上がらないようです。
日に焼けた色黒の肌に、赤みのかかった
「じゃあ、リュヌ。行きましょう」
「はい」
私は、ビアンカが大好きです。お母様のように優しく私を迎えてくれますし、何より魔術士です。教えてはくれませんが、毎回魔術を見せてくれました。
「姫様。それではわたくしもお暇をいただき、チャールスのところへ行ってきます」
ユーゴにはチャールスという双子の弟がいます。二人は非常に似ており、並んでいてもどちらがユーゴか区別がつきません。
唯一、異なるのは、ユーゴには首の後ろに大きなホクロがあります。ただ、普段は襟のある服装のため、見分けがつきません。声も顔も同じため、チャールスが横にいても、まったくわかりませんでした。
「はい、わかりました。久しぶりに弟さんと合うのですから、ゆっくりしてきてくださいませ」
「ありがたき、お言葉。感謝いたします」
私は皆と分かれてビアンカの部屋へ向かいました。
彼女の部屋はきれいに整理されており不要なものは一切ありません。本棚には壁を埋め尽くすほど、魔術の本が並んでいます。
「じゃあ、そこに立って。いつものとおりよ」
「はい」
私はビアンカの言うとおり、青い幕の前に立ちます。
幕には私の等身大の外形を縁取った線が引いてある。肩に相当する部分には黄色のカラー標本のような濃さの異なる黄色の帯が描かれていました。
彼女の言うには、これを使って私の健康診断をするそうです。別に私は不治の病にかかっているわけではありませんが。毎年、本城へ来ると、この健康診断をしています。私としては魔術が見られるので楽しみです。
私の前には上下に金属棒の突き出した道具が置いてありました。金属の上の棒は私の頭の頂上辺り、下の棒はあごの辺りの高さにあり、手を伸ばしても届かない場所にあります。
「じゃ、いくわよ」
「はい」
「バシッ」
「キャァ!」
目の前の棒から、大きな音とともに火花が発生しました。少しだけ折れ曲がりながら火花が強い光を放ちます。熱さはありませあんが、少しだけ空気の焦げたような臭いが鼻をつきました。
これきしのことで悲鳴を上げてはいけないのですが、ビアンカしかいませんので問題はありません。
「えっ!」
「どうしました?」
すぐに、ビアンカは目を見開き、大きな声を出しました。普段から冷静な彼女には珍しい。
私の体調に異常が見られたのでしょうか。気になります。
「い、いや、なんでもないわ。これがエレクトリカルの魔術よ」
「エレクトリカルの魔術」
毎回、こうやって魔術を目の前で見せてくれるのです。前回はサーマルの魔術でした。
目の前にあるガラスの容器で包まれた二つの棒へ魔術を発動すると、筒の中が青い炎で充満して驚くほどの音がします。
似たような魔術が発動されるのかと思っていたのですが、まったく別の魔術でした。驚かされたことには変わりませんが。
「それより、あなた。魔術の練習はしていないわよね?」
「え! そ、そんな。お父様にとめ、止められていますから、……」
大失敗でした。き然と『していません』と答えるべきところです。なぜシドロモドロになってしまったのでしょう。
やはり、ビアンカと一緒だと安心してしまうのでしょうか。
「まあ、いいわ。魔術を勉強するのはあなたの自由だわ。私は教えられないけどね」
「そうですか……」
本当は彼女に魔術を教えてもらいたい。この国でトップクラスの魔術士から教えてもらえれば、きっと魔術が上達するはずです。
しかし、お父様との約束なのか、決して教えてくれませんでした。
――わたくしも、あのようなすばらしい魔術を自由に使えるのでしょうか? ビアンカから教えてもらうには、どうすればよいのでしょうか?
ないものねだりをする自分に気づいてはいますが、魔術を身につくける夢は捨てきれないのでした。
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