16話:「―美少女TSおやぢ、迎撃戦闘機メカ娘へ―」

「――いかがですか?甥子さんと姪子さんのちょっとした舞台は」

 

 撮影の様子を少しの間見ていた血侵へ、背後から透る声が掛かったのはその時だ。

 振り向き、そこに立っていたのは二人の人影。

 一人は白鬼大尉の志頭。

 そしてもう一人。志頭より一歩分前に出て、並び立っていたのは一人の美少女であった。


 白く美麗な肌の端麗な顔立ち。それが、姫カットで整えポニーテールに結った、漆黒の黒髪で飾られている。

 見た目、16~17歳程の少女。

 さらに目を引くは、その格好。

 それは現在、修奈が纏い扮するものと同じ。《心星Z/L-32戦闘投射機》をモチーフとした戦闘機メカ娘のコスチューム姿であった。

 違いとしては、修奈が競泳水着のようなインナースーツであるのに対し。美少女のそれは、全身を覆いしかしその魅惑のボディシルエットを映し出して主張する、ボディスーツ姿であるという差異があった。


 さらにその後ろの志頭も、同様に戦闘機メカ娘コスチュームを纏いそれに扮している。

 志頭にあっては趣意と合わせた、《方神九七式艦上戦闘機》がモチーフのコスチューム姿。

 違いとしては今の美少女同様、インナーがボディスーツである事が見える。

 そして志頭にあっては彼女の白鬼種の特徴も合わさって、なかなかに我儘な属性盛りのキャラクターとなっていた。


「伯父上様に言うのもアレですが、二人ともなかなかにレベルの高い完成度だ」


 その、新たに現れた二人のメカ娘美少女と美女。

 内の黒髪美少女のほうが、そんな評する言葉を血侵に向けて紡ぐ。


「――ひょっとして善制三佐ですか?」


 しかし血侵はその掛けられた言葉には答えず、そしてそう尋ねる言葉を返す。

 現れた、先までは姿の見られなかったその黒髪の美少女。しかしその正体には察する所があってのそれ。

 そしてそれはご名答。美少女の正体は――ぬらりひょん妖怪の三等地佐、善制の。その性転換した姿であったのだ。


「えぇ、お察しの通り。小恥ずかしいのですが、我々も撮影のモデル要員でして」


 その黒髪美少女――へと姿を変えた戦闘機メカコスチュームの善制は。

 ぬらりひょんの険しく異質な顔から変貌したその美少女顔に、少し悪戯っぽい可憐な笑みを浮かべて、肯定と説明の言葉を紡ぐ。


「すみません。次を始めますんで、上長さんたちお願いしまーす」


 そこへ言葉が割り入り掛かる。撮影の要員を務める、LSR職員からの要請のものだ。

 視線をスタジオに映し見れば、修奈と趣意の撮影が終わったようで。入れ替わりに善制と志頭の番が来たようであった。


「おっと。すみません、一度失礼します」


 自分等に声が掛かり。断りの言葉を血侵に紡ぐと、善制と志頭はスタジオの方へと向かっていった。


「おじ様っ」

「来たのか」


 そして入れ替わりにスタジオから。戦闘機メカ娘姿の修奈と趣意が、血侵の元へと歩み戻って来た。


「あぁ、お前らの上司さんからのお誘いだったからな」


 そんな二人を迎え、そしてそう言葉を紡ぎ返す血侵。


「少し変則な催しには面食らったが。まぁ、それはそれとして様になってるじゃねぇか」


 そして、二人の扮する姿を評する言葉を紡ぎ掛けた。


「実は、少し気恥しいのですが……でも、おじ様に褒めていただけて嬉しいですっ」

「ハ……アンタに褒められてもな」


 趣意は言葉通り、少し恥ずかしそうにその可憐な顔の頬を染めながらも、同時に人懐っこい笑みで素直な喜ぶ様子を見せ。

 一方の修奈は、ぶっきらぼうな様子でそっぽを向いてしまうも。その今は美女の顔の頬をまた染め、照れている様子が覗き見えまるで隠せていなかった。


「ふん。貴様は見た目だけは見目麗しいが、その捻くれた性格のせいで台無しだな」


 そしてしかし直後。趣意は何か意地悪そうな顔を作って、その特徴的な武人口調でそんな突っかかる言葉を修奈へと送る。


「はん。お前については、この人の前での猫被りはえげつないまでだな。よく堅物で可愛くない本性を隠せるもんだ」


 それに対して修奈も、また嘲る様にそんな言葉を趣意へと返す。


「ッ――ふんっ」

「ハッ」


 そして二人は互いに視線で相手を刺し合うと、次にはそれぞれ不快を示すように声を発し、そしてそれぞれそっぽを向いて見せた。


「おい、お前等――」


 隙あらば互いに突っかかり合う二人の姿様子に。従兄弟伯父として咎め宥める言葉を掛けようとする血侵。

 しかし血侵は直後に、そんな二人のある様子に気付いた。


「っ……」

「……」


 修奈と趣意はどちらも、そっぽを向いた姿勢のまま。しかしどちらもその視線をチラチラと向けて、互いを盗み見ていたのだ。

 そして互いのその顔は、照れて気恥ずかしい様子が――いや、下心。スケベ心が浮かんだ様子がまるで隠せていなかった。

 どうにも二人は互いにつっけんどんな態度を取りながらも。互いの魅力的で少し刺激の強いコスプレ姿には、魅了されてしまっているらしかった。

 そしてその互いの魅惑の姿を、バレないように盗み見ているらしい。もっとも端から見ればバレバレであったが。


(エロガキか、お前等は――エロガキだったな)


 そんな姿様子を見せる二人に、血侵は呆れた色でまずそんな事を心内に浮かべ。しかし直後には自身のその考えに自身で納得完結してしまった。

 実際。一見はクールな印象を持つ修奈と、武人少女といったそれである趣意は。

 しかしどちらも明かせばその内には、色気色欲に率直で、そして耐性の無い部分を大きく持っているのだ。

 そんな我が従兄弟甥姪の特性を思い出しての、呆れる思いを内心で浮かべた血侵。


(しかし)


 だが、そこで同時に。そんな二人の姿様子から、血侵はある確信を得る。

 修奈と趣意は表立っては意地を張り合い、突っかかり合っているが。おそらくどちらも本心から互いを忌み嫌っているわけでは無さそうな。

 むしろ、少なくとも互いの姿に魅了されている様子から。一種の好意すら抱いていると考えても良い。

 そして血侵は結論付ける。

 修奈と趣意の、互いの互いに対する態度は。「気になる子に対して意地悪してしまう」ソレであろうと。


(エロガキか)


 そんな結論から。またそんな表現の言葉を、呆れと同時に内心で発する血侵。


(だが――問題は無ぇか)


 しかし同時に。

 甥子と姪後の両者の間に。一種の好意こそあれど、本心から互いを憎み忌み嫌うようなそれは無いであろう事に確信が持て。

 血侵はまた内心で、胸を一撫でするような一言を零した。


「まぁまぁ、お二人とも。そんなにいがみ合わずに」


 そんな所へ見計らったかのように、言葉を割り入れて来たのはLSR職員のファートだ。

 仲裁するよう台詞だが、しかしその色は柔らかく、表情は何か面白く見守るような温かい目。修奈と趣意の喧嘩を、しかし心配するほどの物では無い事は察しているようだ。


「この後の用意にも掛かりませんと。お二人とも、張り切っていたでしょう」


 そして、何か促す言葉を紡ぎ掛けるファート。


「あっと、そうでした……っ!今日の肝心なトコっ」

「ッ……あぁ、そうだったな」


 その掛けられた促す声に、二人もそれぞれそっぽを向く姿から、ハッと何かを思い出したかのような様子を見せる。


「せっかく、〝伯父上様の分〟も用意したんですから」


 そして次にファートが発したのは、何か含みのある少し悪戯っぽい言葉。


「はい?」


 伯父上、すなわち自分を示す以外他にないその言葉に。そして何らかの用意企みがある事を露にするその言葉に。血侵は思わず言葉を零しファートを振り向き見る。

 そしてしかし直後に、血侵は自身にまた別の視線が注がれている気配を感じ取る。


「あ」


 視線を前に戻し見れば。

 そこには頬を染めて、そして目に見えて顔を綻ばせニヤつかせた従兄弟姪。趣意と。

 同じく頬を染め、そっぽを向きながらもチラチラと血侵に視線を向ける従兄弟甥(今は美女)。修奈。

 いやらしさと下心をまるで隠せていない、隠す気も無い様子の視線を注ぎ。血侵を狙う、色欲に塗れた二人の若い獣がそこに居た。


「――」


 最早その姿様子から、その内に欲望塗れのろくでもない企みがあることは明らか。

 そんな甥子姪子の姿と視線に、血侵はまた呆れた顰めっ面を浮かべた――



 

 善制と志頭等、上官コンビの撮影が終わり。

 そして再びモデルを交代して、スタジオ舞台へは再びシャッターフラッシュが切られ瞬き始める。

 そのシャッターフラッシュを浴びるは再び、戦闘機メカ美少女&美女姿の趣意と修奈。

 そして、新たにもう一人。

 趣意と修奈に両脇を飾られ挟まれ、センターに位置する三人目の美少女の姿があった。

 黒寄りの茶髪の毛先長めのショートボブの元に、凛々しい可憐な顔立ちが映える美少女。その面影は修奈や趣意によく似る。

 そうそれは――他ならぬ美少女へと変貌した、血侵であった。


 その美少女へと性転換した血侵が纏うは――修奈や趣意と同様の戦闘機メカ娘コスチュームだ。


 スクール水着のような。しかし谷間や腹部や腰や背中などの要所を、切り欠き露出させて色気を演出するインナースーツ。そして長手袋にニーソックス。

 それらでその、美少女顔に反したワガママなボディを包み。

 そのインナースーツは各所を飾るは、やはりプロテクタやパーツのような装飾。

 そしてやはり、後ろ腰や腰回り、耳元や頭部に装着して生やすは。また戦闘機の主翼や尾翼をモチーフにした装飾小道具。

 コスチュームの配色は、鮮やかな青色を基調として。その各所にラインやワンポイントが走り飾られ主張。

 とどめに血侵が持ち抱えるは、戦闘機の胴体を模したクッションの小道具。


 血侵のかつての所属でもある、中央海洋共栄圏 航空宇宙隊では。現在新型の迎撃戦闘機として配備が始まっている、〝Lsr-19〟と言う名称のLSR社製の機体が在るのだが。

 血侵が纏い扮するは。そのLsr-19をモチーフとした。戦闘機メカ娘コスチュームであった。

 それを示すように、ご丁寧にコスチュームの主翼パーツには。中央海洋共栄圏 航空宇宙隊の国籍表記が記されている。


 そんな迎撃戦闘機メカ娘姿に扮し。血侵は修奈と趣意と一緒に、シャッターフラッシュを浴びていた。


「――」


 血侵は状況流れから現在、なし崩し的に魅惑のポーズを決め、その表情にも凛としたそれを何とか取り繕っているものの。よくよく観察すれば、そこには困惑と呆れの色が見て取れた。

 そんな血侵をよそに。

 その両脇を飾り。いやポーズを決めながらも、獲物を逃がさんまでの様相で位置しているは趣意と修奈。

 二人はどちらもその顔に、撮影機を意識した凛とした表情を作り飾りながらも。

 隙あらば下心丸出しのやらしい視線を、血侵の身へと向けて来ていた。


 修奈と趣意、二人の狙い企みはこれであった。

 二人は本日この場へ参観する事となった血侵を巻き込み。メカ娘コスチュームを着せて、その姿を拝み堪能する気満々であったのだ。

 そしてどうにもLSR社広報側も、自社製の新型機を模したメカ娘コスチュームのモデルに丁度いい人物を探していたらしい。

 そこへ鴨葱の如く現れた、新型機の配備先である中央海洋共栄圏 航空宇宙隊に元は所属していた経歴を持つ血侵。

 かくして甥子姪子とLSR社は結託し、今の現状への運びとなったのであった。


 そのいらない方向への注力っぷりに、血侵は内心で呆れ脱力するしか無かった。



「ったく。自分は操縦士でもなんでもない、ただの雑用事務だったんだぞ」


 引き続きポーズを維持し、シャッターフラッシュ浴びつつ。しかし血侵は小さな声で、少しの懸念混じりのぼやきの声を零す。

 血侵は航空宇宙隊での指定職域は事務方であった身であり、航空機に直接関わっていた身では無かった。いくら大きくは元所属とはいえ。そして今のコスチュームでの撮影が、細かくをそこまで重要視するものでは無いとはいえ。

 自分が代表者面して戦闘機モチーフの姿に扮する事を、血侵はお門違いのように感じてしまっていたのだ。


「いいでは無いですか、おじ様」


 しかしそこへ横より掛けられ来たのは、趣意からの言葉。


「むしろ、これまでそう務められて来たおじ様に、巡って来た主役の場と考えてしまいましょう」


 趣意が紡ぎ伝えるは、そんな提案の言葉。


「いただけるものは、いただいてしまえ」


 続け反対隣より修奈も、そんな言葉を寄こす。

 同じ軍人、隊員として二人は血侵の内心を察し。フォローとしてそんな言葉を送って来たのだろう。二人とも、そういった面は聡い子であった。

 最もどちらも。その視線は今も下心丸出しで、戦闘機メカ美少女姿な血侵を嘗め回していたが。


「――」


 二人の言葉に少し後押しされつつも。そんな二人の様子に、血侵はやはり同時に呆れる思いを浮かべてしまった。

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