15話:「―戦闘機メカ娘コスプレ(TS)広報―」

 翌日。

 血侵は予定通り休日となったが。しかし本日は住まうアパートを離れて昨日から再び、ビーサイドフィールドと隣接する、ティークネスト基地のある行政区域を訪れていた。


「――着いた」


 本日に在っては所有するマイカーを走らせ、血侵はある施設を訪れていた。

 そこはまた広い敷地を所有し、いくつもの大きな建造物を持つ施設――そこは、航空機メーカーの支社兼工場であった。


 中央海洋の地を主として広域に企業範囲を持つ、〝ラースアローア社〟と呼ばれる航空機メーカーがある。

 創業から100年以上の歴史を持ち。最初は小さな航空機試験場から始まり、長い時間を掛けて拡大成長を遂げたメーカーだ。

 軍用機を主として数多くの航空機の設計開発を手掛け。その納入先たる主客として中央海洋共栄圏 航空宇宙隊などを持ち。共栄圏の発展、防衛などにも貢献してきたメーカーでもあった。


「なんでまたLSRに」


 マイカーを留めた来客用駐車場よりそこから見える。ラースアローア社の略称であるLSR、その文字尾を記す社屋上の看板を仰ぎつつ。そんな言葉を零す血侵。

 昨日。善制三佐よりの誘いを受け、そして本日の来場場所として教えられていたのが、このラースアローア社(以降LSR)の支社であった

 確かにLSRは、真艶和や太拳の灼炎の各軍各隊もそのユーザーであり。航空機やその部品がLSRからそれぞれに納められている事から、その関係性や都合は想像できなくも無いが。

 そんな所へ部外者である自身が招かれた理由にあっては、いよいよもって思いつく所が無い血侵。

 いくつかの訝しむ思いを浮かべつつ、血侵は建物を目指した。



 本日に在っては血侵自身は一応プライベートではあるが。

 軍、隊の何らかの場に招かれ赴くと言う事から、半分仕事のような感覚が在り。その上で血侵は、本日は念のためもあって交通管理隊の制服姿でここへ赴いていた。

 それで問題ない旨は、昨日の内に善制や志頭から確認を取ってある。

 その身姿で血侵は、支社施設の入り口正面玄関を潜り内部へと踏み入った。

 内部は開けた空間が広がり。正面には受付カウンター見え、見渡せば会談、接遇、ミーティングを想定したボックス席の並ぶ空間が見える。

 さらに別方を見れば。LSRが設計開発した一世代前の戦闘機の、機種部分を丸々再現した実寸大模型が堂々と展示されている。加えてそれを中心にちょっとした展示広報スペースが設けられていた。


「えぇとだ」


 そんな各光景を端に見つつ、まずは受付手続きをと思った血侵であったが。

 正面の受付カウンターは今は無人であり。そしてそれを見止めるとほぼ同時のタイミングで、血侵はミーティング空間の一角にある人影と気配に気づいた。

 そして視線を向ければそこに。おそらく血侵を待っていたのだろう、善制と志頭の姿が見えた。


「算荼羅さん」


 内の善制が血侵の名字を呼び、そして善制等はこちらへと歩んで来た。

 今日に在っては、善制と志頭はそれぞれの軍、隊の制服姿であった。

 善制は緑を基調とするネクタイスーツの、地隊の制服。

 志頭は白を基調とする詰襟の海軍制服。


 そして。二人に加えてもう一名、一緒に歩み来る人物の姿が在った。

 人物は、この中央海洋にはよくみられる獣人。その内でも羊系の獣人の女性。

 その格好は軽作業を想定に居れた、作業服を兼ねた制服姿。そしてその旨に記された「LSR」の刺繍文字から、LSRの職員であることはすぐに分かった。


「ファートさん、こちらが算荼羅さんです――算荼羅さん。こちらはLSRの広報課長の、ファートさんです」


 相応が相対した後に、まず先んじて善制が。その羊獣人の女性を、そして血侵をそれぞれ紹介。


「初めまして、LSRのファートです。本日はLSRラインイースト支社へようこそ」

「あ、初めまして。〝東中央海洋基幹道路〟の交通管理隊の算荼羅です」


 そして続けてファートと紹介された羊獣人の彼女と、算荼羅は自身でもそれぞれ自己紹介の言葉を名乗り交わす。

 補足すると、「東中央海洋基幹道路」が血侵の属する基幹道路会社の名称だ。


「LSRの方――ですか。すいません、自分は今日は詳しい所までは聞かされてないんですが――まず、部外者の自分が入って大丈夫なんですか?」


 そして血侵は、不躾を承知ながらも。まずは疑問に思っていた事柄を真っ先に尋ねる。

 ここは航空機会社の施設であり、ましてLSRは軍や隊組織にも製造品を納める会社だ。企業秘密、機密、そこまでいかなくとも部外者が関わるには良しとはされない物事が多いだろう。そこに懸念を抱いての、まずをもっての確認の言葉であった。


「大丈夫です、ご心配なく。詳細には私は広報課の人間でして、これからご覧いただくのは、広報広告の催しですから」

「広報――ですか?」


 それに応じてのファートの言葉は、しかしその心配には及ばない事を伝えるもの。

 それに血侵は、また少し不思議そうに言葉を返す。


「そうですね、早速ご覧いただきましょうか。ご案内します」


 そんな血侵にファートはそう提案し。そして一同はその案内の元、支社施設のその目的の場所を目指した。




 案内されたのは支社施設の一つの棟の、一階層の一室。

 そこは広く内部空間を取った多目的室であった。

 善制と志頭は何か一端別用があると外れ、今は血侵一人がファートに案内されそこへ到着。


「こちらです、どうぞ」


 ファートに促されて入室し。そしてその室内の光景様子がすぐに目に入る。

 広い室内はしかし光源が落され、多くは薄暗く保たれている。そして何か大小の機会備品類が、ものによっては整えられ、ものによっては乱雑に、室内中に置かれていた。

 そして全体は薄暗い室内の、しかし壁際の一角には。

 設置されたいくつかの照明光源が向けられ、その一角を煌々と照らしていた。


 その多目的室を用いて広げ設けられていたのは、一種のスタジオ空間であった。

 その照らされた一角の真ん前には、仰々しい撮影機器が三脚を用いてドンと置かれ。今もシャッターを切る音が響いている。


 そして――そのレンズが向けられ照明で照らされる〝舞台〟の上に。

 他ならぬ趣意。そして修奈の姿を見つけた。


「あーぁ」


 二人の姿を見つけ。そしてその二人の姿様子を見止めた血侵は、そこで何か納得するような間延びした声を零した。


 その照明とシャッターフラッシュを浴びる修奈と趣意。

 その二人の格好は、なにか色鮮やかでしかし際どい造形の衣装を纏う姿――いわゆる、コスプレ姿。

 明かせばそれは――戦闘機をモチーフにした、〝戦闘機メカ娘〟のコスチューム姿であった。



 まず修奈にあっては。男性の身体から女性へ、黒寄りの茶色い長髪の生える美女の姿へと性転換している。

 そして彼改め彼女が纏うは。

 競泳水着のようなしかし要所要所を切り欠き、谷間や腹部や腰や背中を露出させて、妖しい色気を彩るインナースーツ。そして長手袋にニーソックス。それらでその豊かなボディを包み。

 そのインナースーツは各所を、一種のプロテクタやパーツのような装飾で飾っている。

 さらに目を引くは。修奈が背中や腰回り、耳元た頭部に着けて生やす大小の機械翼。それはまた戦闘機の主翼や尾翼をモチーフにしたもの。

 そのコスチュームの配色は、全体を緑色柄を基調として。それに映える明るい色が各所にラインやワンポイントとして主張している。

 翼にはご丁寧に国籍表記やエンブレムまで。

 極めつけに修奈がその片手に抱えるは、対艦ミサイルを模したと思しき大きなクッション。


 修奈は。彼の愛機である戦闘機、《羅仏Z/L-32》をモチーフとした。

 戦闘機メカ娘のコスチュームに身を包み、それに扮していたのだ。



 そしてもう一人、趣意も同様だ。

 趣意が纏うは。同じく競泳水着のような、しかし各所を切り欠き露出し飾るインナースーツに、手袋とニーソックス。それらで美麗な美少女ボディを主張している。

 そしてやはり付随するは、インナー各所を飾るプロテクタパーツ。そして足や腕や腰や背や頭部を飾る、戦闘機の主翼や尾翼モチーフの翼。

 配色は明灰色を基調とし、やはりそれに映える別の色がラインやワンポイントとして主張。

 やはり翼には国籍表記やエンブレム。

 極めつけに趣意が抱き抱えるは、そのモチーフ戦闘機の胴体を模した模型小道具。


 趣意が扮するは。彼女の愛機である《方神九七式艦上戦闘機》がモチーフの、戦闘機メカ娘であった。



 その戦闘機メカ娘に扮する二人は。舞台、スタジオの上で背中合わせとなり。

 趣意は凛とした微笑で、修奈は澄ました表情を作り。それぞれのポーズを取ってシャッターフラッシュを浴びている。何か、そこには妙なプロ意識のようなものが見えた。


「なぁるほど」


 その光景様子を視認し。血侵は再び納得の色の言葉を作る。

 本日の修奈や趣意、善制や志頭の「毛色の異なるお役目」とはこの事だったのだろう。広報という点でも納得だ。

 皇国軍や自由藩県体の各隊。LSR社や、中央海洋共栄圏隊にあってもが。こういった軍人、隊員や職員がコスチュームに姿を披露する、一種のグラビア、アイドル広報を時に行っている事は血侵も知っている所であった。

 ちなみにこれは、物々しいイメージが在り華の無いと思われがちな軍、隊のイメージを少しでも払拭し。理解や募集への後押しになればと考えられ始まったものであった。

 実際の所、募集などの効果に影響しているかは微妙な所ではあるのだが。世間からは良い反響もそこそこあり、イメージを柔らかくしているだけでもいくらかの効果は得られているとも言えた。


 ともかくこういった催し施策であれば。身内の参観を兼ねて、血侵を招いても問題は無いのも理解できた。


「しっかし、毎度思うがいい趣味だな」


 血侵は納得の言葉を零したが。同時に少し呆れ交じりの評する言葉を零す。

 確かに戦闘機メカ娘コスプレというコンセプトは、華を狙ったという部分を考えに入れても、なかなかにマニアックなものであった。


「確かにマニアックさは否定できませんが。公式広報や各種専門雑誌などに掲載させてもらっているのですが、結構評判が良いんですよ」


 少し困り笑いを浮かべながらも、そう返すはファート。

 このコスプレ施策が、モーター紙や模型紙、ミリタリー紙などを飾り。ちょこちょこ電子ネットワークなどで話題として上がっていることも、血侵も知っていた。


「あいつらも良くやる」


 ファートのそれを聞き、「はー」と頷き反応を返しつつ。

 そして血侵は、スタジオでフラッシュを浴びる修奈と趣意を再び見る。

 趣意にあっては想像に難く無くノリノリの様子でポーズ表情を決め。修奈も何か真剣に撮影に臨んでいる様子だ。

 修奈にあっては最初はおそらく渋った事が想像されたが。以外と根は生真面目で、始まってしまえば何事にも真剣に取り組んでしまうのが彼(今は彼女)だ。

 そんな様子で。

 メカメカしく仰々しくも、色を見せ魅惑の姿を演じる二人を。

 血侵は少しの間、見守っていた。

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