9話:「―空の祭典とTSバニーガール―」

 航空祭の展示、出しものが行われる主要会場区域を離れ。

 血侵は、修奈と鬼系の彼に導かれて基地内のある施設を訪れた。

 そこは基地内に住まう隊員用の隊舎施設。その中でも、操縦士学生に当てられた建物であった。


 その建物内の一階層の一室。

 ベッドとロッカーが4つほどあり、整えられながらも生活の痕跡のあるそこは、操縦士学生等に当てられた居室であった。

 どうやら修奈等が使用している一室。そこに修奈等と一緒に、血侵も通されていた。


「いいのか?」

「身内さんですし。まぁ特例ってことで――俺はちょいと、別の連絡に離れます。修奈は準備しといてくれ」


 関係者限定区画に血侵が立ち入った事に、疑問を浮かべる血侵自身だが。鬼系の彼はそんな言葉を残すと、血侵と修奈を残して一度離れて行った。


「まったく……」


 再び、呆れ交じりの溜息を零しつつも。

 修奈は観念した様子で。その〝準備〟であろう、着替えのために上着を脱ぎ始める。


「あ、俺は外した方がいいか」

「気にしない。いらない気を使わないでいい」


 そこで血侵はそんな配慮提案を口にするが。修奈はまたぶっきらぼうにそれが無用のものである事を発する。

 そして修奈が制服のジャケットを脱ぎ払い、Yシャツやズボンベルトを解いて楽な格好になると。


 ――それは。〝変化〟は始まった。


 修奈の顔が。骨格が見る見る内に変貌を始めた。

 その凛々しくも少し角ばった男性青年の顔立ちは。少し丸みを帯びた可愛らしい物へ。

 目は凛とした釣り上がりを保ちながらも、パチリとしたまた可愛らしい物へ。

 短い黒寄りの茶髪は一転、急速な伸びを見せ。一瞬後には腰を越える、美麗なロングの髪へと変貌。

 身体も変化。

 胸筋はワガママなまでの豊かな乳房へと変わり。腰はくびれを作り、尻や腿もまた豊かに健康的に膨らむ。


 そして現れたのは。美少女と美女の間と言った様相の、一人の女。少し縮んだが、女としては長身気味な160rw後半の体に、長く美麗な髪が映える。

 その正体は――修奈自身。

 そう、性転換体質だ。

 修奈は彼もまた性転換体質者であり。その身を凛々しい男性のそれから、美人の女性の姿へと変貌させたのであった。


「たいしたモンだな」


 その一連の様子を見。そんな一言を零す血侵。

 昨日。自身が性転換する姿にはしゃいでいた趣意の事を、好き者だと思ったものだが。端から見れば性転換の様子は確かに神秘的と言え、一種の魅力を感じざるを得なかった。


「気にしないと言ったが、あまりジロジロ見るな」


 そんな血侵の言葉視線に。美人へと変貌した修奈はその長髪をゆらりと靡かせつつ、そんな警告の言葉を送る。

 そして豊かな乳房や腰回り足回りでは窮屈となった、Yシャツやズボンを脱ぎ払い。目的の〝衣装〟へと着替えを始めた。



 それからさほど立たず、修奈は着替えを完了させ。

 そこに完成したのは。そのワガママなまでのボディを際どいコスチュームで包んだ――魅惑のバニーガールであった。

 それは地隊のイメージカラーをモチーフにした、アーミーバニーガール。

 レオタード、ニーソックスに長手袋から、バニー衣装の要である兎耳まで、その全てがオリーブドラブ色を基調とし。衣装の各所に黄色のラインを走らせ、一部要所をワンポイントで飾っている。

 修奈は女体への性転換の上で、そんなアーミーバニーの姿に扮していた。


 これは本日の航空祭で、いくつかの所在部隊が合同で行う出し物だ。

 女体化した男性隊員等がバニーガールに扮し、コンパニオンとして航空祭を彩る事を目的としていた。

 そしてその要員に、修奈も含まれていたのだ。


「見目麗しいぞ」


 そんな変貌を遂げた修奈に、血侵はそれを面白がるように眺めつつ、揶揄い交じりの評する言葉を送る。


「やめろ」


 一方。美人と化した修奈はしかしその美麗な顔を、またぶっきらぼうに顰め。そんな言葉を返した。


「――修奈、準備できたみたいだな」


 そこへ背後より別の声が飛び来た。血侵と修奈がそれぞれそちらを向くと、居室の出入り口に先の黒鬼の彼が立つ姿が在った。

 連絡の要件を終え、戻って来たのだろう彼。そしてしかし、その黒鬼の彼の厳つい顔には、何やら困った様子のそれが浮かんでいた。


「何かあったか?」


 それを見止め、その様子からすぐに不都合があったであろう事に察しを付けた修奈は、尋ねる言葉を返す。


「あぁ、それが。福悠義(ふくゆぎ)が来賓の接遇シフトから抜けられないそうで、こっちに来るのが難しいそうだ」


 それに対する黒鬼の彼の返す言葉。

 どうにも、コンパニオンに扮するメンバーの一人が。別の役目から抜けられずに、催しの人員が足りなくなってしまったらしい。


「まずいな……展示一機に着き、二人は着かなきゃならないのに」


 続け、渋い様子で言葉を零す黒鬼の彼。

 コンパニオンに扮する隊員等は、実際の所はただ航空祭を彩るだけではなく。展示装備に付いての警戒警備。または基地内を巡回しての保安警備の役割を、同時に伴っているのだ。

 それには指定員数が定められており。黒鬼の彼の様子は、このままではそれを充足できない事への、困惑を示すものであった。


「……それなら、丁度空いてる性転換体質者が一人いるじゃないか」


 しかし次に。アーミーバニーガールの美人、修奈は。それまで一貫してぶっきらぼうな色を浮かべていたその麗しい顔に、そこで初めて何か悪戯を企むような笑みを浮かべて。

 そんな言葉を紡いで寄こす。


「――はん?」


 その言葉と視線は、血侵に向けられていた。




 場所は戻り、駐機場(エプロン)区画先の練習機の展示スペースへ。

 展示される亜音速のジェット練習機の傍に配置して立ち、その魅惑の姿で場を彩り飾る、二人のバニーガールの姿がそこにあった。

 内の一名は、アーミーバニーガールに扮する修奈。

 綺麗に凛と立ちながらも、簡単なポーズを形作り。コスチュームに飾られた、その美麗な姿とワガママなボディと合わせて場を飾り。

そして先までのぶっきらぼうっぷりから反した、微かな微笑を見せて来客、ギャラリーを沸かせている。


 そしてもう一名。修奈とはまた別種の美少女の姿が在る。

 修奈の髪色と酷似した黒寄りの茶髪の、少し毛先の長いショートボブの髪に。その髪に飾られる凛とした顔が印象的。

 歳は女体化した修奈より若干若めの、健康的な美少女といった風体だが。反して身体は豊かで、同時に抜群のプロポーションを魅せている。


 それは昨日にも見た美少女。

 そう、その正体は――他ならぬ血侵自身。

 その性転換した姿だ。


 その血侵の抜群のプロポーションを現在飾るは、少し濃い目の青色を基調とするバニーガール衣装。

 バニー耳、長手袋、ニーソックスなどには白色のラインが入り流れ。さらに記章類がワンポイントで要所を飾っている。

 それは空隊のイメージカラーをモチーフにした、エアフォースバニーガール。

 そう、今にあって血侵は。修奈と合わせたバニーガールに扮し、コンパニオンとして場を飾っていたのだ。


「――おい、いいのかこれ?」


 その美少女エアフォースバニーガールとなった血侵は。

 普段の淡々とした様子の表情ながらも、律義に簡単ではあるが場を飾るポーズを作り。

 同時に、近くで同様に場を、展示機を飾っている修奈に言葉を飛ばす。


 これが修奈が思いついた、欠員を補填する案。性転換体質である血侵を、コンパニオン要員とする策であった。

 血侵も元は、中央海洋の航空宇宙隊で隊員であった身であり。そして現在も交通管理隊として、安全保安に従事する身である。さらには修奈の身内と言うこともある。

 それ等から都合の付く身と判断され、血侵に状況への応援の要請が成されたのだ。

 そこにはおせっかいな従兄弟伯父への、修奈の悪戯心もあったのだが。

 そして血侵自身、困っている所への助力を惜しむ事は良しとせず。とりあえず曖昧な行程よりの返事を紡いだところ。

 そこからあれよあれよという間に準備手配は進み。

 血侵は性転換、美少女への変貌から。エアフォースバニーガールコスチュームにその身を包み、この場に立って飾る事となったのであった。


 しかしいくら元は軍事組織隊員であり、そして基地所属隊員の身内とはいえ、行ってしまえば部外者に違いは無い。

 ただコスプレで場を飾るだけならまだしも、コンパニオンは保安保全警備の役目を兼ねる。それに自身が当たる事があまり良くは無い事は明らかであり、血侵はその旨を修奈へと向けたのだ。


「万一の時は俺が前に立つ。一応、部隊長や現場レベルには話を回して、説得もしくは何とか誤魔化してる。後は、あんたがうまく立ち振る舞ってくれるかだ」


 血侵の向けた疑問の言葉に。しかし修奈はそんな説明の言葉を返し、最期にその美女の顔に不敵な笑みを浮かべて視線を寄こす。

 どうにもやはり、今の状況にあってはグレーゾーンらしい。それをうまく乗り越えられるかは、血侵次第であるようだ。


「やれやれだな」


 そんな美女と化した従兄弟甥からの試すような言葉に、血侵はその美少女姿に反したいやぢ臭いぼやきの言葉を零す。

 しかし、なりゆくとはいえ一応拒絶はせずに引き受けてしまったのだ。そうである以上、なんとかやってこなすしか無かった。

 気付けば血侵の魅惑の美少女バニー姿は、なかなかの来客の視線を集め。時折携帯端末のカメラのシャッターを切る音も聞こえる。


「んお」


 その中で、展示スペースを隔てるガードロープの向こう。来客の中に目に付いたのは、女学生と思しき女子達の一組。

 女子達は、どうにも血侵の姿に魅了された様子で。「ほわー」とした顔で視線を奪われる、あるいは目のやり場に困っている姿を見せている。


「ほぉん」


 そんな女学生達の姿様子に気付き、そこで血侵が思いついたのは、ちょっとしたサービス心と悪戯心。

 血侵は女学生達に向き直って、その視線を交えてやると。

 少し前かがみになって、そのバニー衣装飾られる零れそうな程の胸の谷間を少し協調。

 そして、人差し指を唇に軽くあてがい、ちょっとした投げキッスを女学生達に送って見せた。

 そんな見た目は美少女エアフォースバニーガールな、中身おやぢの小悪魔な悪戯な仕草を送られ。

 女学生達は次には目に見えて照れ慌てた、まるで初心な少年のような狼狽える様子を見せた。


「悪い美少女おやじだな」


 そんなパフォーマンスに、端隣から修奈の呆れる声が届く。もっともそんな修奈も自身のアーミバニー姿で来客を魅了しているが。


「ふふん」


 そんな言葉に、血侵は不敵な笑みで返して見せた。

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