10話:「―航空祭はTSにて賑わう―」

 そんな様子で。

 宿音基地航空祭は、主として女体に性転換した男性隊員等の扮するコンパニオンに彩られ始めた。

 各展示機体や装備には、コンパニオンの隊員が取りついて飾り。出店の並ぶ区画通りにも、巡回警備を兼ねたコンパニオン隊員が巡り姿を見せる。

 そして、その扮する姿はバニーガールだけでは無く。

 同じく地隊や空隊のイメージカラーをモチーフにした、レースクイーンの衣装や、チアガールのような衣装など。そのバリエーションも様々であった。

 そんなコスチュームに身を包む隊員等(一部は純粋な女性隊員や、中性的な容姿の女装男子も含むが、主は女体化した男性隊員)の催し、パフォーマンスにより。

 航空祭はさらに賑わい沸く様子を見せる。



「――まったく、こんな色に惚けた催しを」

「何か、嘆かわしいですな」


 そんな中、ある一機の展示される要撃戦闘機の傍では。渋い色で苦言の言葉を零す、二人の男性の姿が在った。

 一名は、筋肉質な体躯と荘厳な顔立ちを持つ、空隊の制服姿の壮年男性。

もう一名は少し長身気味の、いかにも職人といった風体の、作業服姿の壮年男性。

 制服姿の荘厳な男性は、この宿音基地を拠点とする航空団の司令官。

 作業服の職人のような男性は、航空団整備隊の整備長だ。

 どちらも老練のお手本のような容姿外観の彼等が、渋い声色を零す理由。それは現在隊員等により行われるコンパニオンの催しに向けてのもの。

 両名は、惜しげも無く色を振りまくそれに。あまり良い印象を抱いていなかった。


「まぁ……若い者等の催しに、老いぼれが口を挟むのも野暮か」

「我々は、戻り静かにしていましょう」


 しかし二名は、それに表立って異を唱えるまではせず。自分等はその場より退散しようと、身を翻した。


「何言ってんです、司令官と整備長も面子に含まれてるんですよ」


 しかし。そんな司令官と整備長の行方を阻んだのは、数名のエアフォースバニーガールやエアフォースレースクイーン姿の美少女等だ。

 もちろん、それは性転換した男性隊員等の扮するそれ。詳細には、司令部付き要員や、整備隊整備員等の、司令官や整備長の直接の部下の隊員等だ。


「は?」

「え?」


 そしてその美少女に扮する隊員の内の一名が寄こした言葉に、両名は訝しむ声を零す。


「ほら、準備に行きますよ」

「もう始まってるんですから」


 そして司令官と整備長は、その隊員等に連れられ――いや連行されて行った――



 そして。

 先の展示される要撃戦闘機は、また新たな二名のコンパニオンに彩られる事となった。


「……」


 内の一名。要撃戦闘機の主翼付け根に、妖しく寝そべり張り付くポーズを取るは。

 30代半ば程の容姿外観の、絶妙な熟れ始めの艶を見せる美女。

 その正体は――整備長だ。

 女体への性転換に伴い、その見た目は若返っている。

 整った顔立ちに切れ長の目元が映え、それは結い上げた悩ましい黒髪に絶妙に彩られている。

 その熟れつつも豊かな身体は。

 レオタード衣装を主としたレースクイーンイメージの衣装に飾られて強調されている。青色を基調として、白色のラインやポイントを記すそれは、やはり空隊のイメージを形にした、エアフォースレースクイーンだ。


「……何が面白いのだ」


 部下に言われるがままに、寝そべり悩ましいポーズを要撃戦闘機上で取っている、美女と化した整備長は。しかし困惑の渋い色をその整う顔に作っている。


「見線くださ~い」


 そんな整備長をよそに、要撃戦闘機を囲うギャラリーは沸き賑わっている。携帯端末を向けて、要望を求める男性来場者が居たり。


「蔑んでくださーいっ!」


 何か昂った様子で、そんな要望を送ってくる女性来場者が居たりした。



 一方。

 同じくその要撃戦闘機の主翼翼端には。

 ちょこんと可愛らしく座る、10代前半程の美少女の姿が在った。

 その正体は――司令官だ。

 見た目にあっては、性転換に伴い整備長以上に若返っている。

 その小さく整う顔には、生意気そうな目尻の釣り上がった目元が映え。それは、長くボリューミーなツインテールに結われた、白金(プラチナ)に輝く髪型に飾られている。

 体は、微かな凹凸のみを形作るローティーンのそれ。

 その体は、青色のスクール水着のようなスーツを主とし。極めて丈の短いジャケットとミニスカートを纏う衣装に飾られている。

 それもまた、先の整備長の元とはデザインの異なる、エアフォースレースクイーン衣装であった。

 その麗美な容姿と際どい衣装姿の、ロリータレースクイーンと扮した司令官に、来場見学者はまた沸いている。


「ぁ……あれあれ~?お兄さんお姉さんたち、ひょっとしてアタシで興奮しちゃってる~?」


 そんなロリ美幼女へと変貌した司令官は、その顔に妖しく悩ましい微笑を浮かべ。その小さな舌を軽く突き出し、近くに指先を添えるポーズと合わせて、そんな台詞を来場者に向けて紡ぐ。


「アタシ中身はおじさんなんだけど~?そんなアタシで興奮しちゃうとかヤバくな~い?ヘンタイヘンタイっ。キャハッ」


 生意気そうな顔で紡がれる、煽るような嘲笑の台詞。いわゆるメスガキムーブであった。

 もちろん、厳格な性格の司令官は本心からこんなセリフを発しているわけではない。いわゆるキャラ作りからの演出だ。

 司令官は整備長と一緒に部下等に連行されて行き、性転換からコスプレさせられたのだが。その際にそれぞれキャラ付けを吹き込まれ、パフォーマンスとしてそれに合った台詞を述べる事を求められていた。

 大分抵抗のある要求であったが、変な方向にまで生真面目である司令官は、自身に要求された役目を蔑ろにすることは出来ず。こうしてメスガキムーブを演じ振りまくに至っていたのであった。


「あはは、可愛い~」


 そんなメスガキおっさんと化した司令官のメスガキムーブ姿に。

 それをしかし微笑ましく可愛らしく思い、そんな言葉を上げる来場者のお兄さんがいたり。


「くっ……メスガキおっさんめ……わからせなければ……!ぁぅ……でも弄ばれたくもある……っ!」


 何か欲情を昂らせていくらしく、怪しく呟く来場者のお姉さんがいたりした。



「偉いさんも大変だな」


 そんな。司令官や整備長等といった基地の主要人物が、女体化コンパニオンに扮しパフォーマンスを演じる姿様子を、隣の要撃戦闘機の展示スペースに見つつ。

 血侵は他人事のように零す。


「修奈、伯父貴さん」


 そんな所へ、端より血侵等を呼ぶ声が掛かる。

 視線を移し見れば、その少し先より歩み寄ってくる、また一人のアーミーバニーガールの姿が在った。

 2rwに届く長身と鍛え上げられた筋肉を蓄える強靭な体躯が、特徴的な黒寄りの濃灰色の肌色に彩られている。

 そしてしかし筋肉に負けず主張するは、バニー衣装から零れんまでの豊満な乳房。

 何よりその白髪のショートカットに飾られるは、凛とした美麗な美人顔。

 そして額から生える日本の立派な角。

 黒鬼系種族の女のアーミーバニー――その正体は先の、修奈の同期学生の黒鬼系の彼であった。彼も御多分に漏れず、性転換してコンパニオンに扮していた。


「交代の者が来たんで、休憩に入ってください」


 歩み寄って来た黒鬼の彼(今は彼女)は、続け二人に告げる。その背後には別のアーミーバニーの美少女と美女の二人組の姿もある。言葉通り、交代の者が来たことから休憩に入る要請を伝えに来たのであった。


「あぁ、了解」

「んじゃ、もらうとするか」


 それを受け、二人は休憩時間をもらい過ごすため、場を後退して展示スペースを離れた。




「――お、巡回十四國の管理隊」


 呟く血侵の声。

 場は出店の並び賑わう区画に隣接する一スペース。そこに、血侵は自分にとって近しい存在を見た。

 視線の先に在り見えるは、いくつかの車車輛が並ぶまた一つの展示スペース。

 そこに展示されるは、消防組織の特殊消防車。警察組織の警ら車。他、人の興味を引く特殊な車輛がいくつか。

 そしてそれぞれの従事する、職員隊員の姿が見える。

 そこは、航空祭に招かれた他組織の展示車輛が展示されるスペースだ。そこもまた航空機展示に引けを取らない、来場者による賑わいを見せている。

 その内に血侵が見止めたのは、淡い紺色で塗装される、SUVミニバンの緊急車両。

 昨日夕方にも見たばかりの、こちら――十四國の道路パトロール会社、すなわち交通管理隊の巡回車であった。

 管理隊も本日の航空祭に招かれ、展示を行っているようであった。


「アンタの同業者か」

「あぁ」


 修奈も同じく視線を向けつつ尋ね。血侵はそれに肯定で返す。

 そしてそれぞれ巡回車始め展示車輛のスペースに、興味の視線を向けつつ、緩やかに歩みを進める二人。


 休憩時間をもらった二人は、現在は小腹を満たすがてら、出店の並ぶ区画を物色している最中であった。

 姿格好にあっては変わらず、それぞれ美少女と美女のバニーガール姿だが。一応休憩中の身である事を示すべく、それぞれコスチュームの上から航空隊被服装備である黒色のジャンパーを羽織っている。

 しかしそれでも、なかなかに見目麗しい二人の姿は目を引き。行き交う来場者の視線を少なからず集めていた。

 もっとも、行きかうコンパニオンは二人だけでなく。同じく休憩中、もしくはホストを兼ねた保安巡回に巡る、バニーガールやレースクイーン姿でコンパニオンに扮する隊員等はいくらか見え。

 そして同じく来場者の視線を集め、魅惑の姿で少しその来場者たちを惑わせていたが。


「――ん?」


 その出店区画を巡り物色していた途中。

 血侵はある光景に気付き見止めた。


「どうした?」

「いや」


 続け血侵のそれに気づき尋ねる修奈。一方の血侵は、その顔を微かに顰めて視線をある一点に送っている。

 出店の並ぶエリアの端。そこに相対する三人分の人影があった。

 内二人は、来場者であろう、傍目にもなかなか可憐な女子二人。

 そして対する一人は、高めの身長に金髪が目立つ人物。一瞬特徴から男性かと思うが、すぐにそれが顔立ちから女性だと分かる。

 そして何より、血侵はその顔に見覚えがあった。


「昨日の姉ちゃん」


 そうそれは。昨日に市民プールにて性質の悪い男二人(後に美女に転じたが)に絡まれていた、王子様のような外見容姿の女であった。

 そして何より目を引くは、その姿。

 白で統一された詰襟の上衣に、綺麗な折り線の入った服装――軍服だ。

 それは、洋隊――この太拳の灼炎の組織する海上戦力組織、すなわち諸外国における海軍。その隊員が纏うものであった。


「洋隊の隊員だったのか。おまけに、パイロットみえてぇだ」


 その事実に微かに驚き、さらに紡ぐ血侵。

 遠目にも微かに見える、その王子様のような彼女の胸元に飾られる記章。それはウィングマンバッジ、航空機操縦士を示すものであった。

 おそらく、本日の航空祭に招かれた航空機の操縦士なのだろう事が、そこから伺えた。


「――少しだけでもお話がしたいな。魅力的な君達と、お近づきになりたくてね」


 そして、そんな王子様のような洋隊操縦士の彼女の台詞が零れ聞こえて来る。

 聞くにどうやら、王子様の彼女は相対している女子二人との一時を希望している。端的に言って、口説いているようであった。


「え、えぇと……ですが……」

「アタシ等も、もう帰るトコだったんだよ……」


 一方。口説かれている静かそうな女子と、気の強そうな女子の二人からは、何か困った用な声が零れ聞こえて来る。

 どうにも食い下がられての勧誘を受け、少し対応に難儀しているようだ。

 相手が見目麗しい王子様のような女である事から、まだ二人の警戒の色は薄いが。はた目にも微かな困惑の色が見える。


「ちょっとお茶するだけさ。退屈はさせないと約束できるよ」


 しかし、さらにしつこく。そして自身気にそんなことまで言ってのける王子様のような女。

 そこまでから。その見目麗しい見た目に反して、王子様の女が少し厄介な性質と気付き始めたのだろう。気の強そうな方の女子の顔の、警戒の色が少し強くなる。


「あの姉ちゃん。昨日絡まれてたのに、今日は絡む側になってやがる」


 そんな一連の光景を見止め掌握し、そして血侵は少し呆れた声を零した。

 言葉通りそれは。昨日は絡まれる側だった王子様のような女が、一転して本日は絡む側に回っている光景に呆れるもの。


「知り合いか?」

「昨日、色々あってな。止めた方がいいかもしれん」


 尋ねた修奈に、返しそして促す血侵。

 昨日の市民プールでの事の顛末から。王子様のような女もまた、その内にはなかなかに碌でもない獣欲を宿す存在である事を知っていた血侵は。今の状況を止めに入るべきと考えた。

 まして今は、まだ荒事にはなっていないとはいえ。洋隊隊員が民間人に絡んでいる状況だ。良しとは言えない。

 というか今も。王子様の女のその作った魅惑の笑顔の瞳にはしかし、女子を頂こうとしているだろう宿した獣欲が、よく観察すれば微かに見える。


「ったく」


 一言悪態を零し。血侵はその場に介入すべく、一歩踏み出そうとした。


「せっかく出会えた機会だ。手放してしまうのは惜しいと――ひィっ!?」


 しかし、その前に。

 その王子様のような女から、それまでの口説く甘区のキザな言動から一転、面白いまでの甲高い悲鳴が上がった。


「あん?――あ」


 唐突なそれに、血侵も目を少し見開く。

 そして相対していた女子二人は、王子様の女の突然の変化に、目に見えて驚いている。

 見れば。その王子様の女の背後には、いつの間にか別の人影が立ち。そして――その手先指先で、服越しに王子様の女の尻肉を思いっきりツネっていた。


「――何してんだよテメェは」


 そして上がる、高く透るもドスの利かされた声色。

 そこに立つ、行動と声色の主。それはウェーヴ掛かった金髪が特徴的な、見目麗しい美女。

 パンクを意識した服装格好に、その豊かなボディが飾られて主張している。

 血侵はその女にあっても知っていた。

 そう。昨日市民プールにて、王子様のような女に絡んでいた性質の悪い男。

 それが血侵の趣意の策略からの流れで、図らずして美女に性転換した姿を見せ。果てに王子様のような女にお気に召され、お持ち帰りされて(そしておそらく頂かれてしまったであろう)しまった男(今は女)であった。

 そんな金髪女は、今は王子様の女の尻をツネりながら。そのキリリとした釣り目の瞳で、王子様の女を睨み上げている。


「ひぇ……あはは……ちょっと可憐な娘さんたちとお話してただけさ、ハニー……」


 それに、王子様の女は顔を青ざめさせ。大分苦しい言い訳の言葉を紡ぐ。


「騙せるか。途中から全部ダダ聞こえだったぞ」


 しかしそれに対して、また透りながらもドスを利かせた言葉を紡ぐ金髪女。


「この俺を堕としてモノにしといて、他に目移りしてんじゃねぇぞ」


 そして続け、言葉を紡ぐ金髪女。そこには怒りと、さらには嫉妬と執着のそれが見えた。


「っ……悪かったな」


 それから一転、金髪女は女子たちに視線を向けると。少しバツの悪そうな顔で、そんなぶっきらぼうな謝罪の言葉をぶつけるように紡ぐ。


「オラ、行くぞ」


 そして金髪女は王子様の女の腕に、自身の腕を回して組むと。その身長差を物ともしない様子で、王子様のような女を引っ張り連行していく


「ぁぁぁっ……じゃ、じゃあねお嬢さん達っ。ハニー、許しておくれ~……!」


 そして王子様のような女は。どこか気の抜けたそんな台詞を上げながら、引っ張られて行き。

 呆気に取られる女子二人を置いて。二人は出店区画を賑わせる来場者の波の中に消えて行った。


「――あの姉ちゃん、昨日の今日で逆に尻に敷かれてやがる」


 そんな一連の光景様子に。

 結局介入する程までにはならず、端からそれを眺めるに終わった血侵は。呆れた様子でそんな言葉を紡ぐ。

 どうにも金髪女と王子様の女は、見るに昨日の出来事から一晩で色々あったのだろう、くっ付き付き合う事になったらしい。

 そして金髪女をお持ち帰りし頂き貪ったであろう王子様の女は。しかしまた色々あったのか、今に在っては逆に金髪女の尻に敷かれてしまっている様子を見せていた。

 そんな、割れ鍋に閉じ蓋のお手本のような関係を見せた二人への、呆れ交じりの感想の言葉であった。


「なんだったんだ?」

「好き者同士がくっ付いた結果だ」


 一方で状況が読めず、終始訝しむ色を浮かべていた修奈に。

 血侵は投げやりに、そんなまとめる言葉を一言紡いで見せた。

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