5話:「―トラブルからTSⅠ―」
「――ったく」
「ほああぁ……」
シャワーブースを出て、プールサイドを歩く血侵と趣意の姿。
血侵はその顔を顰め呆れた様子を零しつつも、頬を未だ赤く染めている。
趣意に関しては、何かほわほわとご満悦と言った表情を浮かべていたが、その両頬にはつねられ引っ張られた跡が付いていた。
結局その後血侵は、一線ギリギリの所まで――いや最早一線も怪しいレベルで、趣意の手によってその女体化ボディを味わい堪能し尽された。おまけにその最中で、何度か女を感じさせられた。
趣意は血侵の身体を味わい尽くした事で、それなりに、満足しいくらか情欲が収まったのだろう、血侵の身を解放した。が、その後に調子に乗り過ぎた代償に、その両頬を血侵により〝むにーっ〟とつねり引っ張られるという罰を受ける羽目になったのであった。
そんな、従兄弟伯父と従兄弟姪のスキンシップとしてはかなり危ういそれをお開きとした二人は、今はプールから引き上げるべく更衣室へと向かっていた。
「――いいじゃんいいじゃん、ちょっと遊ぼうよぉ?」
そんな二人の耳が、前より零れ来た何か軽薄そうな台詞を聞き留めたのは、その時であった。
「あん?」
「!」
それを聞き留め辿り、それぞれの視線を前へと向ける二人。
その先。プールサイドに見えたのは複数の人影、相対する四人の男女だ。
「――しつこいぞ!ボク達は、お前達のような輩に付き合う気は無い!」
続け聞こえるは、ハスキーで凛と透るしかし荒げられた声色。それは明確な拒絶のそれ。
よく観察すれば四人の男女は、正確には二人の女が男二人に阻まれているようであった。
「ッ、ありゃぁ絡まれてるな」
血侵は状況を察し、その今は端正な顔を、しかし不快で微かに顰める。
「どうするか――」
放っておく事は目覚めが悪い。血侵はどう出るべきか、頭に策を走らせようとした。
「!」
しかし瞬間。血侵の真横を人影が通り抜けた。
そして血侵の目に映ったのは、先の男女の方へ向けて駆ける趣意の背中。
趣意は、持ち前の正義感から女二人を助けようと思い立ったのだろう、そしてほぼ反射で飛び出したようであった。
「趣意!――ったく」
血侵は趣意のその思考行動を察しつつ、その背中に呼び止める声を発する。しかし趣意が止まる様子は見えず、血侵は悪態を吐きながら駆け出しそれを追った。
プールサイドで相対する女二人と男二人。
厳密には、女二人が男二人に絡まれている状況。
「迷惑だと言っているんだ!遊びたければ他を当たれ!」
二人の女の内の片割れが、荒げ退ける声を上げる。
女としては高めの身長の豊かなスタイルに競泳水着を纏い、ショートの淡い金髪が目立つ。そしてその顔立ちはキリリと釣り上がった目尻の目元始め、大変に端麗なまるで王子様のようなそれであったが、今はその顔に険しい色を作っている。
「っ……」
そしてその王子様のような女の横には、連れと思しきこれまた少し身長高めの美女。
股まで届く黒いストレートの髪が麗しく、その豊満な身を纏ったビキニで彩っている。浅い肌色に彩られた端麗な顔に、釣り気味の目尻の目元がミステリアスさを醸し出している。
しかし反して黒髪の美女はその顔に困惑の色を作り、明らかに戸惑い臆した様子を見せていた。
両名から見えるのは、絡む二人の男に対する、明らかな拒絶や困惑、快く思わないそれ。
「つれないなぁ。少し遊ぶだけならいいでしょ?楽しくなるかもよぉ?」
しかし、男二人の内の片割れは。女達が明確に拒絶の意思を示しているにも関わらず、しつこく絡み誘う言葉を掛け続ける。
癖っ毛の金髪が目を引き、顔立ちに関して言えばなかなかの美男子。しかしその顔には女達を狙う欲望丸出しの色が明らかに浮かんでいる。
「……」
そしてその隣には、黒髪と深黒い焼けた肌が目立つ男。容姿こそ美形ではあるが、その口にはあまり行儀よく無くフーセンガムを膨らませ、そしてその鋭い目は明らかに女達を物にしようと狙っている。
そちらも、かなり性質が悪そうだ。
「ッ、いい加減に――」
男二人のしつこさと性質の悪さに、王子様のような女はいよいよ我慢の限界に達したのか、その口からより荒んだ声を発し上げようとした。
「――止めないか、貴様たちッ!」
しかし瞬間直前。王子様のような女の言葉を遮るように、また別の凛とした言葉が響き上がった。
四人の男女は、それぞれが少し驚く色を顔に作る。
見れば、男二人と女二人の間に、割って遮るように立つ一人の人影がある。
他ならぬ、趣意であった。
「ご令嬢方が嫌がっているのが理解できないのか!欲にかまけ、相手方に不快や恐れを抱かせるなど、男児――いや人にあるまじき行為だぞ!」
しかし、凛と透る声で発せられるその言葉台詞は、それまでの血侵との触れ合いの時の物とは、まるで様相が違っていた。
明確な、武を嗜む者としての口調と振舞い。
これこそ、皇国軍女学生――武士(もののふ)として立場と役目を自覚する者としての一面。趣意の表立っての姿、在り方であった。
「――よォ、兄ちゃんたち。その辺にしときなァ」
さらにそこへ、透りながらもしかし少しドスの利いた声が響き、そして趣意の隣に別の美少女が立つ。
血侵だ。
趣意に一泊遅れ追い付いた血侵は、趣意に合わせるように男女の間へと割り立ったのだ。
「自分達がタチ悪ぃコトに気付きなァ。あからさまな悪役だぜェ」
そしてその釣り目気味の瞳で男二人を睨み、警告の言葉を紡ぐ血侵。
合わせて隣の趣意も、男二人を睨み刺す。
「おっ……と?なんだいお嬢ちゃんたちぃ?」
突然割って入って来た美少女二人の、しかし反した刺すような圧に。
金髪の男は少し戸惑いながらも、しかしまだどこか軽く見ている様子で声を発し返す。
「カワイコちゃんたちの飛び入りとは驚きだ。ひょっとして、お嬢ちゃん達が俺達と遊んでくれるのかぁい?」
そして金髪の男は品に欠けるニヤついた色を顔に作り、そんな言葉で血侵と趣意に絡んで来た。隣の黒髪褐色の男も、二人に向けて獲物を狙う様な視線を向けて来る。
どうやら乱入して来た血侵と趣意を、面白がりそして新たなターゲット定めたようだ。
「ッ、獣欲に塗れた獣がッ」
「人の良識がねぇ、動物か」
そんな男二人を前に、趣意は、そして血侵は。
それぞれ嫌悪する刺すような視線で男二人を睨み、そして相手にはっきりと聞こえる声量で、唾棄する言葉を紡いだ。
「ッ……おいおい。流石に酷いんじゃないのぉ?」
二人のそれぞれの言葉に、金髪の男はニヤけていたその顔を少し歪め、不服の言葉を漏らす。隣の黒髪褐色の男は、その瞳に明確な不快の色を見せる。
血侵と趣意の言葉は、男二人の神経を少なからず逆なでし、怒りの感情に火を付けたようだ。
「口の悪いイケナイ子たちには……オシオキが必要だなぁ?」
金髪の男の零される一言。それと同時に、男二人はその目の色を変える。
そして、男二人は血侵等へと一歩を踏み出し。二人を捕まえる算段であろう、その腕を二人に向けて伸ばして来た。
「――」
「――」
血侵と趣意が互いの視線を交わし、言葉も無く何かの意思疎通を行ったのは、その一瞬。
――瞬間。
男二人の前から。血侵と趣意の姿が忽然と消えた。
「――はッ?」
突然目の前から消えた獲物に、金髪の男は思わず声を漏らし、黒髪褐色の男もその鋭い目を剥く。
そんな男二人の背後に、現れる二人分の人影。
他ならぬ、血侵と趣意だ。
二人は身を落とすような動きで男二人の前から消え、目にも止まらぬ身のこなしで周り込み移動。男二人の背後を取ったのだ。
「こっ!?」
「ッゥ!?」
そして、二人の男からそれぞれ、言葉にならない声が漏れ上がる。
見れば、金髪の男の後ろ首に、血侵の。黒髪褐色の男の後ろ首に、趣意の。それぞれの手が形作った手刀が、見事に落とされ命中していた。
「っぁ……」
それぞれの落とされた手形により、脳を揺さぶられた二人の男の意識が霞む。
二人の男は、そろってバランスを崩しふらつき。そして揃ってプールサイドを踏み外し、プールの中へと転落。ドボン、と盛大な水音と水飛沫を上げた。
「――下郎が」
「やぁれやれ」
性質の悪い男二人を見事に撃退して見せた美少女二人(片方は中身おやぢ)は、男二人が落ちた水中を見降ろしつつ、それぞれ言葉を零す。
「――よぉ趣意。いきなり飛び出すとか、おっかねぇコトをするな」
それから血侵は、趣意の方を向いて、今の行動を少し咎めるk賭場を紡ぐ。
「すみません……良くない状況と思って、つい身体が」
「まぁ、気持ちは理解(わか)るが。プランくらいは相談しれくれ」
素直にそれに謝罪する趣意。それを受け、血侵はフォローの言葉を続け紡いだ。
「何事です!?」
そんな所へ、端から張り上げられた声が聞こえる。
血侵等がそちらへ視線を向ければ、プールサイドの先からプール施設の職員二人が、急く様子で歩んでくる姿が見えた。
一人は仏基。もう一人は、この真灼連島の地では良く見られる、赤鬼系の体躯の良い女職員。
騒ぎを聞きつけ、駆け付けたようだ。
「算荼羅さん?どうしたんです?」
急き寄って来た仏基は、少し困り困惑する色を見せ、血侵を見止め尋ねる言葉を寄こして来る。
「あぁ、悪ぃ仏基さん。トラブルだ」
そんな仏基に向けて、血侵は端的に回答。
「荒事にはしたくなかったが、タチ悪くて手を出され掛けたモンでな」
続け紡ぎ、血侵は再び男二人が落ちたプールに視線を落とす。
ザバッ、と音を立て。プールサイドから二人分の人影が上がって来たのはそのタイミングであった。
血侵はその顔に再び警戒の色を作り、隣の趣意も少し身構える様子を見せる。
「……ッ、ガキどもが……こっちが優しくしてりゃ付け上がりやがって……!」
上がって来た人影からまず聞こえ来たのは、先と変わり明確な怒りの含められた荒い言葉。
そして二人分の人影のそれぞれには、明らかに敵意を持った鋭い眼が見える。
「――おん?」
「あっ」
それを見止め、再び臨戦態勢に身を持って行こうとした血侵と趣意。
が。直後に二人の顔からは警戒の色が消え、そしてそれぞれ声を零す。それは、何か意外な物を見た時のそれ。
「え――?」
「っ――!」
背後に立っていた、先の王子様のような女と、ミステリアスだが気弱そうな女からも、何か少し驚くような声が上がる。
その理由は、プールより上がり現れた二人の人影のその容姿にあった。
先に落ちた男二人に変わり現れたのは――それぞれ趣の異なる、二人の〝美女〟であった。
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