4話:「―競泳水着美少女TSおやぢ、弄ばれる―」

 それから血侵と趣意は、せっかくプールに来たのだからと、少しの間泳ぐことに興じた。



「――ふぅ」


 プールサイドの端で、血侵がプールから上がる姿を見せる。

 プールサイドに片膝を着き、吐息を吐きながら、水中眼鏡を下げてキャップを脱ぎ去る血侵。


「こんなトコにしとくか」


 そして呟く血侵。それは泳ぐことをここまでとするもの。

 正直言えば血侵は、泳げないわけでは無く嫌いなわけでもないが、水泳は得意な方では無く意欲的に取り組んで来た身でもない。そんな身でコースを3~4往復もすれば、それだけで成した感と疲労感が沸き、血侵の意識をそれで切り上げる方向へと導いた。

 手で軽く前髪から滴る水滴を払った血侵は、それから半身を捻りプールへと振り返る。

 そして少し視線を走らせ、真ん中程のコース中に泳ぐ一人の少女。他ならぬ趣意の姿を見つけた。

 無駄の無いクロールのフォームで、なかなかに速いスピードでその身を運ぶ姿を見せている趣意。おそらく今も、体力の向上維持の機会と考えているのであろう。端からも真剣にそれに取り組んでいる様子が見て取れた。


「流石と言うか」


 その姿勢に感心の念と、自分のぬるいスタンスと比較してからの少しの倦怠感を抱き、そんな気だるげな一言を零す血侵。


「――ん?算荼羅ざんだらさん?」


 そんな所へ、唐突に呼ぶ声が掛かったのはその時であった。紡がれ聞こえたそれは、他ならぬ血侵の名字。

 血侵が振り向き、その声を辿り見上げれば、そこには一人の女の姿があった。

 まずポニーテールにまとめられた黒寄りの茶髪と、程よく日に焼けた健康的な肌色が目を引く。顔は端麗に整い、目尻の釣り上がった気の強そうな瞳が印象的。160crw半ば程の丈のある身に、白色を基調とする競泳水着を纏い、頭には野球帽。その野球帽には、この市民プールの監視員である事を示す刺繍記載が見えた。


「んん?あぁ――仏基ほときさん?」


 そんな、見た目からプールの監視員である事が分かる女からの唐突の呼びかけに。しかし血侵は女の正体にさほどかからずに察しを付け、そしてその名を紡ぎ返す。


「やっぱり――わぁ、久しぶりじゃない」


 その仏基と呼ばれた監視員の女は、呼びかけた相手が人違いで無い事の確証を得たのだろう、そんな再開を喜ぶようなセリフを、血侵へと投げ掛けた。

 実は血侵は一時期、非正規の職を転々としていた時期があったのだが、その内の一つので一緒に働き、いくらか世話になったのが仏基であった。その職自体は短期の繋ぎと割り切っていた場所であったためにすぐに辞めてしまったが、何の縁か仏基とはその後も幾度か顔を合わせ、そのたびに世間話に興じる程の中であった。

 そして今また久しぶりに再会した二人は、またお約束の世間話を交わす事に興じ始めた。


「――へぇ、中央海洋に出て高速道路のパトロール隊員か。最近合わないと思ったら、そういう事だったんだね」


「あぁ。挨拶ができずに行っちまったのは、悪かった――仏基さんは、ここはバイトか?」

「そ。今は本業もあるんだけど、その片手間にね。上の子は来年には四期上級学校を受けるから」

「そいつぁ、大変な時期だ」


 血侵と仏基は、互いの今の身の上状況の話を交わし合う。

 ちなみに補足すると仏基という彼女。今でこそスポーティーな麗しい美女姿だが、本来の姿は血侵より少し年上の〝男性〟である。さらに言えば二児の父。

 今は市民プールでの職務の都合上、女の体でいるルーティンに当たっているとの事であった。


「今日は一人?」

「いや、趣意――従兄弟姪の付き合いだ」

「あぁ、前に会った姪っ子さんか」


 血侵はプールの真ん中コースで今も泳いでいる趣意を示し説明し、仏基も納得の色で返す。仏基は機会あって、趣意の存在と関係についても知る人物であった。

 それから二人はまたしばらくの間、身の上話始め会話に少しの華を咲かせた。




 少しの間、久しぶりに再会した知人との会話で盛り上がっていた血侵だが。しかし仕事中である仏基をそれ以上邪魔しては悪いと、程なくして会話をお開きとした。




「――はぁ」


 プール施設の端の一角に設けられ並ぶシャワーブース。

 その一つの内で、血侵は力を抜いた吐息を零した。

 蛇口ハンドルの捻られたシャワーのノズルからは、少し温度低めのお湯が出て血侵の身体へと降り注いでいる。心地よい温さのお湯が、今は美少女のそれである血侵の魅惑の身体を、競泳水着越しに伝い濡らしほぐす。


「ほぁ――」


 身体が柔らかくなってゆく心地よさを感じつつ、また吐息を零す血侵。

 スッ――と。別の気配が血侵の背後に差したのは、その時であった。


「ッ――っぅ!」


 血侵がそれに気づき、気を尖らせたのも一瞬。

 直後には唐突に、しかし柔らかい手つきで、血侵の肩と腰に何者かの手が置かれ、血侵は少し驚き身を強張らせた。


「――ふふ、おじさまっ」


 明るく透る色の、しかし同時に何か艶めかしい吐息交じりの声が、血侵の耳元で囁かれる。

 首を振るい視線を向ければ、血侵の背後には他ならぬ趣意の姿があった。

 趣意はそのたわわな胸始め身体の前部を、互いの競泳水着の生地越しに血侵の背中に密着させ。さらに自身の両手で、血侵の肩と腰をそれぞれ捕まえている。


「趣意、おま……っ」

「先に行っちゃうなんて人が悪いです。声を掛けてくだされば良かったのに……」


 唐突なそれに、少し困惑の色を見せ零す血侵。

対する趣意は、そんな不服を示す旨を紡いで見せる。


「拗ねるな。そっちが終わったら声を――」


 そんな趣意に、説く言葉を紡ごうとした血侵。


「――ふぁッ」


 しかし、瞬間。――血侵の口から可愛らしく、しかし艶めかしい声が、意思に反して零れた。

いくら見た目美少女とはいえ、中身はおやぢである身からは到底考えられない甘い声。

 同時に血侵の身体を、刺激的で官能的な電流が襲い、彼――いや彼女の身は軽く硬直する。


「ふふ、かわいい。おじ様の〝なき声〟」


 再び血侵の耳元で囁かれる声。

 血侵が再び視線を後ろにやれば、そこにはその端麗な顔にしかし欲情した色を隠そうともせずに浮かべる獣――趣意の姿。

見れば、血侵の競泳水着越しの尾骨付近に、趣意の人差し指が軽く立てられている。趣意は、自身の指を血侵の背中から後ろ腰に掛けて走らせ、血侵の身体を刺激し弄んだのだ。


「おまェッ……――」


 血侵はそんな趣意を叱り咎めようと、険しい顔を作り言葉を飛ばそうとする。

 しかし、今の一撃は強烈であった。

 血侵は〝女の身体〟のスイッチを入れられてしまっていた。

 その身は疼き始め、その端麗な顔はしかし頬が赤く染まり出し。険しく取り繕おうとした表情は、しかし弱々しく悩ましいものとしかならず、趣意の加虐心を返って刺激し増長させる結果となった。


「んもぅ、いけないおじ様です。そんなにいじめてオーラで誘って」


 趣意はそんな勝手な言葉を紡ぐと、彼女もまた悩ましく怪しい笑みを浮かべ、可愛らしい舌をペロと出して小さく舌なめずりをする。


「っ!ふぁァ……ッ」


 そして再び血侵の口から上がる、艶の声。

 見れば今度は、趣意の片手が血侵の腹部へと回され、その上を伝い這っていた。


「ぃぁ……ひゃめ……」


 血侵の口から、呂律の回らない様子で拒む声が零される。

 しかし趣意の指先は遠慮なく、競泳水着越しに微かに浮かぶ血侵の腹筋のラインを、いやらしい動きでなぞり堪能する。


「お待ちかねの、お楽しみの時間です。いっぱいいじめて、味あわせてもらいますから――カクゴしてくださいっ」


 血侵に向け、そう告げる言葉を囁く趣意。

 それが堰を切る合図となった。

 趣意は、血侵の腹筋をなぞっていた片手をまた這わせ下げ、血侵の鼠径部へと移動。その近辺を五指で弄り始め。

 さらに血侵の肩に置いていたもう片方の手を、血侵の肩乳房、その下乳に回し支えるように鷲掴みにし、指を沈めこねくり始め。

それぞれを最早一切の遠慮も無く、味わい始めた。


「ゃめ……ふゃぁっ……!」


 自身の全身をいただかれ始め。

 血侵は拒む抵抗の言葉を零そうとするが、それは直後に体に走った官能的な刺激に阻まれ、艶の声に取って変わられる。

 引き続き無遠慮に血侵の身体を味わう、趣意の両腕。

 一応その片方を、血侵は自身の手で掴み、拒み引きはがそうとしていた――体面上は。

 しかし掴む血侵のその手は、実際の所まるで力が入っておらず、ほぼ沿えるだけで。傍若無人に振舞う趣意の腕を引きはがすことに、まったく寄与していなかった。

 正直言えば、血侵は趣意から初手攻撃を受けた時点で、女のスイッチを入れられほぼ優位を取られていた。その上の連撃で心身をとろふわにされ、最早受け攻めの立場は覆せない域に持ち込まれてしまっていた。

 ――明かせば血侵は。男の身体である時にはなかなかに揺るぎない心身と、猛々しいそれを持つのだが。反して女の身体となった時には、刺激の類にめっぽう弱くなってしまう体質の持ち主なのであった。

 そして、理性と互いの立場上から表立ってこそ拒む色を取り繕おうとしているが。潜在意識下では、美少女となった自身の身体を、瓜二つの美少女に弄ばれ、されるがままにされてしまう事に、どこか期待してしまっているのだ。


「ぁぅっ……くぁ……」


 そんな葛藤に苛まれながら。血侵は最早喘ぎ声のそれを零しながらも、再び趣意を睨みつけようとする。

 しかしそれはまたも失敗し、結局やらしく悩ましい顔となったそれが趣意に向けられる。


「ふふ。そんなイケナイ顔して……もっといじめてほしいんですかぁ?」


 それは案の定、趣意の加虐欲を余計に刺激。

 競泳水着越しの乳房により深く趣意の指が沈み、さらに〝先端〟を弾き刺激。そしてついに血侵の股間部にダイレクトに趣意の手が伸びる。


「っ、あぅッ……!」


 より敏感な部分に踏み込まれ、血侵の口からより大きな艶の声が零れる。


「ぉま……まずぃ……人、来ちゃ……」


 全身を駆け巡る甘美な刺激に苛まれながらも、血侵はそこでそんな訴える言葉を、どこか可愛らしいまでの回らない呂律で訴える。

 それは、市民プールの他の利用者に気付かれる事を懸念し訴えるもの。

 そう、忘れてはならない。ここは公共の施設なのだ。


「大丈夫ですよ。ここは一番端っこで、ほとんど死角になってますから」


 しかしそれに対して趣意より返されるは、安心を促す。いやある意味では無慈悲でもある言葉。

 趣意の言う通り、二人の居るシャワーブースはプール施設一帯の一番端に位置しており。隣接のブース程度を気に掛けておけば、見つかり気付かれる心配はまず無かった。


「ただ――あんまりおっきな声を出すと、見つかっちゃうかもしれないですけど」


 しかし、趣意は続けてそんな意地悪でもするかのような台詞を、また血侵の耳元で囁いて見せる。


「ッぅ~……」


 加虐的な笑みを浮かべる趣意に、血侵は険しくしたつもりも、最早まったく圧の無いとろけた顔を向ける。


「まぁ、私としては。おじ様のエッチな姿を、皆さんに見てもらうのもやぶさかではないですけどっ」

「ひょんなコト、だめに……ふぁぁッ」


 さらに続けての趣意からの悪戯っぽい加虐的な言葉。

 それに血侵は抵抗の言葉を紡ごうとしたが。しかしその前にまた自身の身体を弄ばれ、言葉の変わりに喘ぎ声が上がる。

 ――それから二人は、目にハートが浮かび周囲にもハートが飛び浮かぶが如き勢いで。

 まぐわい。というか血侵が一方的に趣意に、貪られるようにその身をいただかれ堪能され。

 最終的に血侵は何度か、軽く〝女〟を感じさせられる事となった。




 血侵の趣意の居るシャワーブースは、先に言及された通り施設の端に位置しており、基本人目に着かない。

 そして幸いにも、血侵と趣意のそれを目撃した利用者は居なかった――利用者は。


「………」


 二人が入り、そして絶賛過激な戯れに興じている最中のシャワーブースを、少し離れ覗き目撃した人物がそこに居た。

 ポニーテールの美人監視員、先の仏基だ。

 監視員として見回りに回って来た所で、仏基はこの場に遭遇したのであった。

 しかしその仏基は見てしまった光景に頬を染めつつも、しかしどこか呆れた色こそ見せ度、驚いた様子は無かった。

 実は仏基。過去にも血侵と趣意の同様の現場を目撃していた事があり、二人の関係性を知っていたのだ。

 そしてそう。明かせば、血侵が美少女となった身体を趣意に弄ばれる事は、別に昨日今日始まった事では無く。二人があった際にはほぼほぼ起こる展開なのであった。

 ちなみに事の経緯は、幼少の頃より文武両道で厳格端麗な表の顔とは別に、エロガキみたいな気質を併せ持っていた趣意に。せがまれた血侵がまぁ子供の興味本位だろうと、性転換した自身の身体へのスキンシップを認めてしまった事を発端とする。

 それが、ここまで爛れた事態に発展してしまったのであった。


「あの人(血侵)また従兄弟姪にほぼ合意のセクハラされてる……」


 そんな血侵と趣意の秘め事の様子を目撃してしまった仏基は。

 しかし、呆れ少し他人事の様子で、そんな表現の言葉を零した。

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